第32話 結婚準備ードレスと結婚指輪

Scene 1:ドレスショップにて


週末の午後。

街のブライダルショップに、柔らかな陽射しが差し込んでいた。

白いカーテンと鏡の並ぶ店内に、リサが静かに立っている。


エリックはソファに座って、胸の鼓動を抑えられなかった。

「本当に似合うかな…」とリサが鏡越しに不安そうに呟く。


「リサなら、どんなドレスも似合うよ」

そう言いながらも、エリックの声は少し震えていた。


やがて、カーテンの向こうから、

真っ白なドレスに身を包んだリサが現れた。


その瞬間、

エリックの呼吸が止まった。


リサの淡いブラウンの髪が、光を受けて金色に輝く。

肩のあたりでふんわりと広がるレース、

胸元を包む繊細な刺繍。


「……リサ」


彼女が恥ずかしそうに微笑む。

「似合う?」


エリックの目に、涙が浮かんでいた。

「……うん。すごく。

 世界で一番、綺麗だよ」


リサも笑って、目尻を拭う。


「泣かないでよ、もう……私まで泣いちゃう。このドレスね、私の母親のドレスを少しリメイクしてもらったの。あなたとお父さんに挨拶に行ったあと、お父さんから送られてきたの。着られたら着て欲しいって手紙が入ってた。。」

「グレイ先生……リサのために、取っておいてくれたんだね。リサには、そのドレスが一番似合うよ!」


エリックとリサは、涙の残る笑顔で微笑み合う。


(グレイ先生……僕たちの結婚を本当に認めてくれた……妻のカミラさんのドレスを、僕たちの結婚式に、リサに着させてあげたいって……)


厳格なグレイからリサに送られたカミラの形見のウェディングドレス。

それを纏っているリサを見て、エリックの目から涙が落ちる。


「あの時、グレイ先生から、僕は歓迎されてないって思ってた……でも、リサにドレスを送ってくれた。それが嬉しくて……」

「私も、お父さんからドレスが贈られた時、思わず許された!って、ちょっと泣いたけどね。」


エリックは、頷きながら涙を拭った。

そして、リサと目元を赤くしながら笑い合いながら再び、


「似合ってるよ!」


とリサへ返した。



Scene 2:小さな約束


試着を終えた後、店内のカフェコーナーで休憩していた二人。

リサは白い手袋を外し、そっとエリックの手を握る。


「ねえ、指輪、どうしようか」

「シンプルなのがいいな。

 でも、僕たちらしい何かを入れたい」


「何か?」

「うん。言葉とか」


少し考えて、リサが微笑む。

「“With you, I’m home.” なんてどう?」


「……いいね」

エリックの声が少し震えた。

「どこにいても、君といれば帰ってきた気がする」


「じゃあ、決まりね」


二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑った。



Scene 3:ジュエリーショップ


数日後。

指輪専門店のショーケースを覗き込む二人。

「どれも綺麗ね」

「うん。でも、君の手に似合うのが一番」


リサが試しに指に通す。

光が反射して、柔らかく輝いた。


「これ……好き」

「僕も」


リサはエリックの指に指輪を通した。


店員が微笑みながら言う。

「内側に刻印も入れられますよ」

「お願いします。“With you, I’m home.”」

「素敵な言葉ですね」


エリックはその様子を見ながら、

胸の奥に熱いものがこみ上げていた。


しばらく、二人はお互いの左薬指にはめられた指輪を眺め合っていた。


(この指輪が、僕たちの結婚指輪になるんだ……)



Scene 4:帰り道


夕暮れの街を並んで歩く二人。

「指輪、ドレス、式……全部少しずつ現実になってきたね」

「うん。少し怖いけど、嬉しい」


エリックが立ち止まり、リサを見つめた。

「僕ね、あの時――リサに出会ってなかったら、

 こんな気持ち、知らないままだったと思う」


リサが微笑む。

「私もよ」


エリックが手を伸ばし、

リサの頬に触れる。

「ありがとう。僕の隣にいてくれて」


リサは静かに頷いた。

「これからも、ずっとね」



Scene 5:エドガー、陰から見守る(小ネタ)


その頃、偶然同じ通りのカフェにいたジョエル神父(エドガー)。

窓越しに、二人が笑いながら歩くのを見て、

コーヒーを吹き出した。


(……あいつら、もう完全に結婚モードじゃねぇか。

まさか、オレの“簡略化宣言”をロマンチックだと思ってんのか!?)


コーヒー片手に天を仰ぐ導師様。


(神よ……もう一度だけ聞く。なぜ、オレなんですか。)



Scene 6:夜のメッセージ


その夜。

エリックのスマホに、リサからメッセージが届いた。

『今日、幸せすぎて泣きそうだった。ありがとう、エリック』


エリックは指輪の刻印を思い出しながら返信した。

『僕もだよ。君といれば、どこにいても帰ってこられる気がする』


画面の光が、静かな夜を照らしていた。

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