享年23歳ゴミニート長谷部達則の人生


「あああああああああああぁぁぁっう! うあああああっあっあっあーっ‼」

 長谷部は自室のPCパソコンの前で毎度の如く奇声を発していた。

 親の金で大学まで出ておいて就職を諦めたニートの引きこもり。残念な部分は多々あるが、指摘するのもせん無い。

 画面にはここ最近寝食を忘れるほどにのめり込んでいるTPSサードパーソンシューティングタイプのオンラインゲームが映し出されている。

 その前でおよそ聞き取れない言葉で頭を振り乱しながら何事か吠え続ける。

「ちょっと、うるさいよ達則! あんた、ええ加減にしぃ!」

 階下からそんな彼をいさめる声が響く。

 母親がそのまま毎度のように小言を織り交ぜてくるが、決して二階までは上がってこない。

 そんな雑音を一切と無視して、長谷部は荒い鼻息を整える。

 今夜は彼のチームが初めて臨んだ公式試合だった。

 故に長谷部の気合の入りよう――つまり、ボロ負けした事によるその悔しさは類を見なかった。

 一人であーうーあーと唸りながら、何故か椅子の上に正座をし、キーボードに頭をガンガンと叩きつける。傍から見ればキチガイはなはだしい行為であるが、これが彼の精神衛生を保つ唯一の手段であった。

「あんた! ほんまええ加減にしなさいよぉ! お母ちゃんも怒るよ!」

 もう既に怒っているなどという野暮な突っ込みはしとして、珍しい事に今日は母親が業を煮やして階段の手前まで近づいてきた。

 その時だ――

 長谷部は椅子から滑り落ち、ものの見事にフローリングの床へとダイレクトヘッドバットをかましていた。 

 床をダンと踏み鳴らすような大きな物音の後、ぴたりと騒音が治まる。

 途端に静かになった上階を母親は特にいぶかしまなかった。

 何故なら、よくそんな事が起こっていたからだ。

 大体のパターンとしてひどく発狂した後に一度床を大きく踏み鳴らす。それで区切りをつけたように彼は大人しくなる。

 だから今夜も「ようやく静かになった」と、それだけの感慨でぶつくさ言いながらリビングに戻っていく母親。

 あるいはその時、心配をして様子を見に来てくれていれば致命的な事態は回避できたろうか。 

 しかし、そうはならなかった。

 危うい体勢から全体重が頭部に衝撃となってかかり、神経の集中している頚椎けいついを損傷させた。

 それにより呼吸器官に障害が発生し、意識を失った事と合わさり、即死ではないが彼の心肺は一晩かけてゆっくりとその機能を失くした。

 そんな程度で容易く人は死んでしまう。

 長谷部達則、享年23歳。

 自分の命と引き換えの最後の床ドン。――まあ、そのような人生であった。





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