『恋をするのに歳の差なんて関係ありますか?》⑭

 深く。


 深く呼吸をする。


「僕は、母を幼い頃に亡くしました。沖釣りの船から落ちて、溺れた僕を助ける為に、着のみ着のまま海に飛び込んだ母が潮に流されました」

「正太くん⋯⋯」


 萌さんが優しく抱きしめてくれます。


「海は僕から母を奪いました。両親の不注意であり、不慮の事故かも知れません。ですが僕は、母の記憶も少なく、海も怖いままなのです」


 腕の力が強くなります。


「僕は幼いです。事実僕は高校二年生だし、まだ将来も見えておりません。恋愛においても萌さんにリードされるばかりで、男らしさなんて欠片もありません」

「そんなことは──」

「──いいんですよ、今は。でも、僕は海を怖がらず、泳げるようになりたいし、萌さんに母の代わりを求めるつもりもありません」

「うん」

「萌さん」

「はい」

「待っていてください! 必ず、一人でも泳げるようになりますから! 僕の成長を見ていてください!」

「正太くん」

「はい」


 むぎゅ。萌さん?


「私も正太くんを甘やかすつもりはないから」

「はい」

「言っておくけど私、いじめるよ? 正太くんのこと」

「えっ!?」

「水泳の練習もスパルタだし、交際のリードも譲る気もない! 悔しかったら私からマウントとってみなさいね?」

「ふぇええ!?」

「いい? 間違えてもらっちゃ困るのよ。私が攻めで、あなたは受け。これは不変にして恒久だわ。私はあなたの」


 ごくり。


「海」

「え?」


 ドン

 僕は萌さんに抑えつけられて。

 車のシートが倒されました。


「萌、さん?」

「怖い?」

「大丈夫、です」

「じゃあ、溺れても良いよね?」


 サラリと長い髪が垂れて、萌さんの使っているジャンプーの香りがします。


「溺れるんですか?」

「怖かったら目を瞑って?」


 目を瞑りました。

 萌さんの指先が額から頬を滑り、顎先をつまみました。その指を下唇にあてると、僕の口の中に入れてくるのです。


「舌を出して」


 僕は言われるまま舌を出すと、萌さんの指を乗せられました。


「咥えて吸って」


 もう、抗う気はありません。僕は萌さんの指を咥えて吸い付きました。


「可愛い♡」


 そう言うと萌さんは指を抜いて、僕の頬を両手で固定すると、ゆっくりと近づいて「好きよ」と囁いて、僕の口をふさぎました。


 「僕も」なんて言えないくらい、萌さんの唇は僕の発言そのものを拒絶して、呼吸すら許してくれません。


 溺れました。


 恋をするのに歳の差なんて関係ありませんが、溺れないようにしっかりとしがみついてください。


 

 



       ーおしまいー

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