『90秒で恋に落とせ』〜呪術の場合〜

 私は心野まよい、呪術師だ。


 なのでこれから、私の想い人永瀬ゆうやを、呪術を使って恋に落とそうと思う。


 グダグダしてても拉致があかないので、90秒と言うタイムリミットを設けよう。


 だが、その前に準備をしようと思う。


 さて、ここで使う呪術は私のオリジナルだ。このチートの力を見せるのは今回が初めての公開となる。よく見ておくように。


 先ず、ここに用意した(勝手にくすねた)彼の弁当箱。この弁当箱には通常彼の母親の愛情が込められているので、本来恋の呪術としては使いにくい。


 そこで、上書きの呪術をつかう。


 はじめに、どれかひとつ、そうだな⋯⋯この三つもある卵焼きを摘み上げて食べてみる。うむ、美味しいではないか。これなら彼も食いつくこと間違いないだろう。要は彼が必ず食べるであろうと言う確証が必要なのだ。

 もうひとつくらい食べても大丈夫だろうか? それでは今回の呪術のメインとなるであろう唐揚げの味もみておこう。ふむ、これもなかなか。

 唐揚げを食べてしまうとやはり白飯が食べたくなるというのが心情というものだろう。呪術というものはこの心情を操るものであるからにして、その流れに従うことこそ呪術の本流というものだ。ほむ、うまい! おっと心情は漏らしてはいけない。今のは悪い例だと言っておこう。


 さて、仕上げにかかるとしようか。


 まず、全ての料理に私の体液、つまり唾液を塗りつけてゆく。よくツバをつけるなんて言うが、まさにそれこそが呪術だ。よく覚えておくように、れろ。


 次に、私の躰の一部を彼の体内に入れる必要がある。よく髪の毛だとか爪だとかが使われるがナンセンスもいいところだ。だってバレたら元も子もないのだから。


 そこで私は指のささくれとまつ毛だ。これなら口に入れてもバレることはない。もちろんメインとなる唐揚げにこそ入れるべきだろう。


 さあ、ここから90秒だよ。


 スタート!


 タン!


「さあ食え!」


「誰が食うか!」


「ふっ⋯⋯ふえええええええん!」


「くっ⋯⋯食うから泣くなよ!」


「ほんと?」


「ホントだ、ほら、あむ⋯⋯」


「恋に落ちた?」


 ずいと近づく。


「まだ⋯⋯」


「落ちた?」


 近づく。


「まだ⋯⋯」


「うんて言ったらキスしていいよ?」


 至近距離。


「う、⋯⋯うん」


 はい皆さん、見ました? 今の呪術が呪言です♡





       ─了─




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