3話
「・・・」
なるみ君にすごく可愛い小型犬の様なつぶらな瞳でじーっと見つめられています。
どうしたのでしょう。
そんなに見つめられると緊張してしまうのですが...
「成美くん、そんなに見てたら、美樹が緊張するって!」
ヒマちゃんが私の様子に気づいてくれたみたいです。
助かりました。
このまま見つめられていたら、緊張で心臓が止まるかと思いました。
「あ!そうだよね!早瀬さん、ごめんね。びっくりさせちゃったよね。あまりにも美人さんだから見入っちゃった!改めて、今日はありがとね。僕の名前は成美葵(なるみ あおい)です!」
「あっはい。えっとはじめまして。早瀬美樹です。よろしくお願いします。」
「うん!これからよろしくね。」
緊張で声が小さくなり、カタコトになってしまいましたが、然程気にした様子もなく少年の様に笑って、優しい声で答えてくれました。
やっぱり、ヒマちゃんの友達の方ってみなさん優しいんですよね。
類は友を呼ぶとはこういうことなのでしょうか。
「てか、2人ともはじめましてじゃなくない?同じ人間社会学部なわけだし、顔くらいは認識してるんじゃない?」
「「・・・」」
うーん。
同じ学部にこんなキラキラしてて、子犬系な子いたでしょうか。
成美さんも私と同じ様な顔で考えているみたいです。
えっと、いつも講義室の後ろの方に座ってる方々の中に居たのでしょうか。
だいたいあの辺に座っている方々が私の学部の中ではキラキラ系の人なのですが...
ダメですね。思い出せません。
そもそも、私は目が悪いので、前の方の隅っこに座ることが多いんですよね。
「あっ!待って、待って。ちょっと後ろ向きになってみて!」
「あっはい。」
急に成美さんにそう言われ、私は言われた通りドアの方に身体を向けます。
「あ~!この後ろ姿見覚えがある!いつも、講義室の前の方に座ってるよね⁈早瀬さん。僕はだいたい講義室の後ろの方に座ってるんだけど、後ろの子たちの仲でも、早瀬さん、人気なんだよね!」
「に...人気ですか。」
人気ってなんででしょうか。
そもそも、後ろの方に座ってる方々とはあまり喋ったことが無いのですが...
「うん、早瀬ちゃん。すごい美人さんだからさ、こっち向いてくれないかなっていつもみんなで話してるんだよね。」
「いや、その。私の顔なんてごくごく一般的だと思うのですが…ヒマちゃんとか成美さんの方が私なんかより全然可愛いですよ。」
美人さんだと言ってくれるのは嬉しいのですが、私から見ればお二人の方が全然可愛いんですよね。
「なるほど...これは日葵ちゃんが苦労するわけだ」
「そうなんだよ!いつもこの調子でさ!」
「こんな人いるんだね。天然気象物か何か?」
「成美くんもそう思うんだ...」
お2人が、何故か小声でコソコソ話しています。
何の話でしょうか。
ヒマちゃんも成美さんも少し頬が赤くなっているような...
気のせいでしょうか...
「まぁさ!まだ開店したばっかだから、お客さん入ってないし、この時間はキャスト、僕しかいないから、ゆっくりしていってね。これ、メニューね!好きな席座って良いよ」
成美さんはそう言って、ヒマちゃんにメニューを手渡すと、店の奥の方に行ってしまいました。
「じゃぁ、あの辺座ろうか!」
ヒマちゃんが窓際の席の方を指さしてそう言います。
2人で席に着きメニューを開きます。
メニューの内容を見て驚いてしまいました。
私はファミレスやカフェの様に食べ物がたくさん載っているものを想像していたのですが...
チェキ?
ゲーム?
あっ葵のオムライス?ってなんでしょうか。
「美樹、美樹おーい!もしかしてメニューにびっくりしてる?」
「うん。良くわかない言葉が並んでる。」
「これはね~」
放心状態の私に気づいてくれたヒマちゃんが色々教えてくれました。
どうやら、チェキとはお嬢様(このお店ではお客さんのことをそう呼ぶ)が気に入った執事(キャストさんのことをそう呼ぶ)さんと写真を撮ることを言うみたいです。
ゲームも同じで、気に入った執事さんと一緒にトランプやボードゲームなどの簡単な遊びができるみたいです。
そして、このお店では執事さん、それぞれの得意料理が3つずつ書かれていて、今居る執事さんのフードメニューが選べるみたいです。
このことは全部ヒマちゃんが教えてくれたのですが、詳しすぎてびっくりしました。疑問に思って、
「なんでそんなに詳しいの?」って聞いてみると、
「いや、男装カフェに慣れてるとかでは無く!雰囲気で何となくこうかなって!」と誤魔化されてしまいました。
今日の夕飯はここで食べて行こうということになり、とりあえず成美さんの得意料理らしい、オムライスとそれぞれドリンクを頼むことにしました。
私はリンゴジュース、ヒマちゃんはアイスコーヒーです。
私は苦い飲み物が苦手なので、良く飲めるなといつも感心してしまいます。
そんな話をしていると、すぐにオムライスとドリンクを成美さんが運んできてくれます。
「お待たせいたしました。お嬢様。こちらオムライスとリンゴジュースとアイスコーヒーでございます。チェキとかゲームとかは良いの?」
こんな感じで接客するのですね。
お嬢様なんて初めて呼ばれました。
「いや、流石に友達にやってもらうのはキツイって!今日は夕飯替わりにさせてもらうね!」
ヒマちゃんがそう言うと、「まぁだよねー!」と成美さんが頷き、「ごゆっくりどうぞ~」とキッチンの方に行ってしまいました。
あれ?
友達にやってもらうの〝は〟キツイって。
ヒマちゃんは他の人にはやって貰ったことがあるってことでしょうか。
疑問ですが、とりあえず置いておいてこのオムライス、すごく美味しそうです。
卵がふわふわ、とろとろしていて、デミグラスソースが掛かっています。
「食べよっか!いただきます」
「いただきます。」
スプーンで、一口食べると、デミグラスソースの深い味わいとトロトロな卵、ケチャップライスが混ざり合っていて、本当に美味しいです。
「あはは。美樹って本当に美味しそうに食べるよね。」
「そんな顔に出てるかな。」
「出てる、出てる!幸せそうな顔してる!」
「ちょっと恥ずかしい。」
「いいじゃん!」
そんなに、顔に出てるでしょうか。
だとしたら恥ずかしいです。
そんなやり取りをしながら食べていると、すぐに食べ終わってしまいました。
「お腹いっぱいになったし、そろそろ帰ろうか。お店も混んできたし。」
「そうだね。そろそろ帰ろう。」
レシートを持って、2人で出口に向かいます。
それにしても美味しかったです。このお店のオムライス。
男装カフェの楽しみ方とは違うのかもしれませんが、またあのオムライスを食べに来たいです。
それにしても成美さんは料理、得意なのでしょうか。
「成美くん。ごちそう様。すごい美味しかったよ。お会計お願い!」
「それなら良かった!頑張って作ったから嬉しい。それと、今日は僕のおごりで!スマホ届けてくれたお礼ということで!」
おごりですか。
それは...申し訳なさすぎます。
ヒマちゃんも「流石に申し訳ないよ!むしろ払わせて!」と返します。
私も、「こんな美味しいオムライスを食べさせていただいたのに・・・申し訳ないです。」と言ったのですが、
「おごりの代わりにお願いがあって!本当に図々しいこと頼むんだけど、早瀬さんにお願いがあって!」
「私にですか?」
「うん。この時間からはいつも、僕ともう1人で回してるんだけど、その子が急きょ来れなくなっちゃって、早瀬さんに執事をやって欲しいんだ!」
「え?私がですか?ヒマちゃん...」
執事なんてできる気がしないのですが、どうしましょう。
ヒマちゃんに助けを求めますが、「いいじゃんやってみなよ!」とおもちゃを見つけた子どもみたいな表情で言われてしまいました。
絶対、面白がっています。
どうしましょう。
やる流れですか。
これは...
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