2話
「美樹、お待たせ!行こ!」
午後の講義が終わり、図書館で課題をやっていると、私より1講義分多く受けてきたヒマちゃんに声をかけられます。
いつもよりボリュームを落とした、図書館用の声。
「うん!ヒマちゃんお疲れ様!」
私もいつもより小さな声で返します。
私たちの待ち合わせ場所は、だいたいこの図書館。
これはいつものやり取りです。
「ヒマちゃん、1個質問なんだけど、ヒマちゃんが言ってただんそうカフェって何?」
図書館の外に出て、やっと自由に話せるようになると私は開口一番にさっきのメッセージに書いてあった、知らない言葉について聞いてみました。
カフェは分かりますが、その上に〝だんそう〟という言葉が付くと解らなくなってしまいます。
「あはは!待ってお腹痛い!なんでそんな真剣な顔で聞くの⁈」
私の質問はそんなに変だったでしょうか。
ヒマちゃんに笑われてしまいました。
知っていて当たり前の場所なのでしょうか。
そうだとしたら、私は世間知らずということに...
「いやいや、そんなしょんぼりした顔しないの!吹き出しちゃってごめんね」
1通り笑い終わったヒマちゃんが今度は手を合わせて謝ってきます。
ヒマちゃんの見た目でそれをやるとすごく可愛いんです。
ぼーっと見つめてしまいます。
海のような青い目と、栗色の髪の毛がすごく似合っていて、すごく可愛い(天使みたい)んです。
「あの、美樹…そんなに見つめられると流石に恥ずかしいんだけど!」
私の視線に気づいた、ヒマちゃんが顔を真っ赤に染めながら、恥ずかしそうに下を向いてしまいます。
今日はヒマちゃんの顔がよく赤くなっていて心配になります。
熱でもあるのでしょうか。
「ごめん。ヒマちゃんが可愛すぎて見つめちゃってた。それより、今日ずっと顔赤くなってるけど、もしかして体調悪い?熱があるんじゃ...」
「可愛いって...美樹お願いだからそういうこと、サラッと言わないで?」
「え?うん。ごめんね?それで、体調は大丈夫なんだよね?」
「超元気だから心配しないで!それより、男装カフェのこと、教えるね。」
体調は大丈夫みたいで一安心です。
何故だか怒られてしまいましたが...
〝だんそうカフェ〟がどんな場所か教えてくれるみたいです。
そもそもその話でしたね。
「男装カフェの漢字が思い浮かべればすぐ答え出るんだけど、そうだなー家バージョンの美樹みたいな女の子が接客してるカフェのことかな。」
「お家バージョンの私...あっ男装ってそういう...」
「そうそう。大学行くときはきれい目カジュアルっぽい服装だけど、大学以外だとメンズライクな感じでかっこいいじゃん。あんな感じで、女子が男子っぽい服装して接客してくれるお店だよ。」
なるほどです。
男装カフェってそういう場所なんですね。
でも...
それより...
「ヒマちゃん、家での私の服装かっこいいって思ってくれてたんだね。嬉しいな」
「いや、家での美樹を見てかっこいいと思わない人はいないと思うよ。真面目に」
「ふふふ...あーおかしい。そんなに褒めたってなにも出てこないよ?ヒマちゃんくらいだよ。かっこいいなんて言うの。ふふふ」
ヒマちゃんがかっこいいなんていうから、吹き出してしまいました。
家にいる時は、ちゃんとするの面倒になってしまって、メイクとか服とか適当にしちゃっているだけなんですけどね。
「本気で言ってるんだけどね。美樹はほんとに自己評価低いよね。逆に心配になるんだけど...」
そんな話をしながら歩いていると駅が見えてきます。
私たちの家はここから5つ先の駅にあるので、電車に乗る時間はとても短いですが、私はこの人があまりいない時間帯に、ヒマちゃんと2人で乗る電車が大好きです。
当然の様に座れますし。
「美樹、これ片方着けて。良い曲見つけたんだー!」
「ありがとう」
差し出されたワイヤレスイヤホンを左耳に嵌めます。
「わぁ~いい旋律だね。」
イヤホンから流れてきた、旋律がとても綺麗だったので、思わず声を出してしまいました。
「これ、次の学祭でやってみたいんだよね。」
「アクロバットサークルの?」
「そうそう。もう少しメンバーが増えれば、サークルとして正式に認められるんだ~次の文化祭のステージで人が集まると良いんだけどなー」
ヒマちゃんはアクロバットサークルに所属しているのですが、部員が3人しかいないらしくて...
いつもいろんな人を誘っては振られを繰り返しています。
「次の文化祭のステージ、成功すると良いね。私も応援してるよ!」
「てか、美樹も入ろうよ。何回も誘ってるんだけど」
「ダメだって!私、集団競技みたいなの苦手だし...迷惑かけちゃうよ」
「えーでもさ、運動神経いいじゃん。」
「それはヒマちゃんの方だよー」
「やっぱダメか~あっもうすぐ着く。降りよ」
ヒマちゃんの誘いは嬉しいし、運動は好きなのだけど、ヒマちゃんがやっているのはただのアクロバットでは無くて、男子新体操の様な集団演技競技です。
個人技のアクロバットだったら入っていたかもしれないけれど、やっぱり一人の失敗がみんなの悪い結果に繋がっちゃう集団競技は手を出しづらいんです。
ヒマちゃんの様にコミュ力おばけにはなれませんしね。
けれど、断り続けるのも罪悪感がすごいんですよね。
電車を降りていつもと反対側の改札を抜けます。
「ここから徒歩5分だって!」
「この駅小さい頃から使ってるのに、反対側に男装カフェがあるなんて全然知らなかったね」
「そうだね!いつもあっち側の方から出てるしね。あっここだね。」
そんなことを話しながら、歩いているとあっという間に男装カフェに着いてしまいました。
外見はレトロでおしゃれな感じのカフェ。
もっとキラキラして入りにくい建物をイメージしていましたが、陰キャにも優しい外見で安心します。
「思ったより、キラキラしてないね!成美くんに電話してみるね」
ヒマちゃんも同じことを考えていたみたいですね。
プルルルル
ヒマちゃんが電話をかけてくれています。
なるみさんってどんな人なのでしょう。
「あっ繋がった。お店の前に着いたよ。え?中、入って来てって⁈うんうん。OK!」
ヒマちゃんがスマホから耳を離してカバンにしまいます。
「なるみさん何て?」
「せっかくだから、お礼に接客受けて行ってだってさ!」
「なんか緊張する...私はやめておこうかな。」
男装カフェってなんか怖くて、お店に入るのを躊躇してしまいます。
「大丈夫だってー!嫌だったら、すぐ一緒に出よ!でも多分怖くないよ!女の子だけだしさ」
ヒマちゃんに腕を引かれて、男装カフェに入ることになりました。
木造の趣のあるドアを開けて、迎えてくれたのは…
「今日もお疲れ様。よく頑張ったね!僕のお嬢様」
ヒマちゃんと同じくらい眩しい笑顔を浮かべた、可愛い系の男の子がそう言って出迎えてくれました。
間違いました。女の子です。
「あってか!日葵ちゃんじゃん。ごめん。お嬢様と間違えた!ありがとう。助かったよ。流石に優斗には頼めなかったし!」
「まぁそうだよねー月波くんには頼めないよね。」
私は2人の会話を聞きながら、別世界に居る人の会話なんじゃないかと思いました。
2人がキラキラしすぎていて、眩しいです。
「日葵ちゃん、その子が、早瀬さん?会ってみたかったんだよね。」
そう言いながら、小型犬みたいなつぶらな瞳で真っすぐ私を見てくれるなるみさんに少しドキッとしてしまいました。
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