日葵視点

4話 やっと会えたね!土屋日葵です!

読者のみなさん、こんにちは!

ヒマちゃんこと土屋日葵(つちや ひまり)ですっ!

私も作者に自己紹介しろって言われたんだけど、正直今そんなことしてる場合じゃないんでしません。

放棄します。

てか、だいたい私のこと解ってると思うので!


皆さんがお気づきな通り、私には好きな人がいて。

ただ、そいつ(美樹)は天然記念物なので、一向に気づいてくれない。

悲しいことに...


まぁ、そこは一旦置いといて、美樹は今、着替えとメイク中。


「日葵ちゃん、なんかごめんね!日葵ちゃんにまで、手伝わせる事になちゃって!」


ドリンクを作っていると、成美くんが私にそう言ってくる。

この人は、美樹に男装カフェのキャストの手伝いをして欲しいと頼んだ勇者だ。

むしろ感謝してるまである。

ありがとう。


「いや、全然大丈夫!むしろ超楽しみ。美樹の執事姿、拝めるし!」


「あはは。ありがと!そう言って貰えるとありがたいな。けど、早瀬さん大丈夫かな。あんな強引に姉ちゃんに連れていかれちゃったけど。」


「大丈夫。大丈夫。あのぐらい強引の方は美樹にはちょうど良いから!てか、成美くん、またお嬢様帰って来たよ。」


「ほんとだ!今日はやけにいっぱいお嬢様来るな。ほんとに日葵ちゃん居て助かった。ありがと!」


「まぁ、オムライスのお礼ってことで」



美樹はあの後、突然現れた成美くんのお姉さんこと、凪(なぎ)さんの手によって彼女の部屋に連行された。


このお店は、元々成美くんのご両親が経営していた喫茶店で、そのお店をお兄さんが次いで、男装カフェにしたらしい。

そして、このお店の2階と3階が居住スペースになっている。

つまり、美容師の仕事を終えて帰って来た凪さんが、私たちのやり取りを聞いていて、「そういうことなら、メイクと髪は任せて!」と美樹のメイクと髪型をしてくれている最中という訳だ。


私は一足先に、成美くんとお店に出て、キッチンでドリンクを作っていた。

お世辞にも私は男装が似合う様な顔ではないから、キッチンのお手伝いに立候補したのだ。

普段から、カフェでバイトしていて、慣れているので案外簡単だ。


美樹の執事姿、楽しみだな。

美樹の言動からは考えられないかもしれないけれど、美樹は本当に美人だ。

中身はただの天然と可愛いが詰まった様な感じなんだけど、170㎝以上の身長、綺麗な黒髪ロング、そしてあまり喋らないことから、初対面の人にはミステリアスな美人という印象を与える。


まぁ、仲良くなって喋ってると、だいたいの人が「この子可愛い」ってなるんだけど...


そして、大学では、きれい目カジュアル系の服装で、髪を下ろし、メイクをしているから、だいたいの人が気づかないけれど、家での髪を後ろで束ね、メイクをしていない部屋着の美樹はガチの美少年だ。


今頃、凪さん、びっくりしているんだろうな。

メイクと髪型変えれば、美少年になる訳だし。


『お嬢様方、新しい執事をお連れいたしましたー!』


20分ぐらい経ったところで、美樹を連行していった、凪さんの声が聞こえてくる。

さっきはあんなにテンション高かったのに、あんなかっこいい系の声も出るんだ。

すごいな、なんて呑気に考えていた私は、その隣に立つ美樹の姿を見て、ガシャンと手に持っていたグラスを落として割ってしまった。


「噓でしょ。あそこまでかっこ良くなるとか聞いてないんだけど」


「反則すぎる」


独り言を言いながら落としたグラスの欠片を集める。


私がグラスの処理をしている間も、ホールのやり取りは続いていて、


美樹を見たお嬢様たちは『やばっかっこよすぎる!』、『推せる!』『絵本の世界の執事そっくり!』と黄色い歓声が飛び大盛り上がりの様子だ。


その気持ち、すごくよくわかる。

かっこ良すぎるもん。

執事姿の美樹の破壊力すごすぎ!

所作も綺麗だし、なんといっても執事服が似合いすぎる。

そもそも美樹には品みたいなものがあるんだけど、それが前面に出てる感じがする。


『樹(いつき)くん、お嬢様方に自己紹介して。』


凪さんに促させ、美樹が口を開く。

大丈夫かな。

ちゃんと緊張しないで言えるかな。

少し心配になったけど、どうやら杞憂だったみたいだ。


『皆様、始めまして。樹(いつき)と申します。本日はお嬢様方にお会いできて、とても嬉しいです。どうぞ、よろしくお願いいたします。』


え?

ヤバい。

普段の美樹の口調なのに、声がいつもより低いから、カッコよく聞こえる。


いや、美樹が意識的に、普段声を高くして喋ろうとしていることには知ってるけど、まさかここまで低い声が出るとは。

こっちが地声とか言わないよね?


『キャー。声、カッコ良っ』、『こんなに声、低いんだ~』、『推せる』、『本当に女の子?』などホールの方でも、さっきより大きな歓声が上がっている。


それからは、美樹にお嬢様方が話しかけては、美樹が何か答えて、『キャー』ってお嬢様の目がハートになっているのを、もやもやした気持ちで眺めていた。



「日葵ちゃん、早瀬さん、すごすぎない?美少年すぎて、僕めっちゃびっくりしてるんだけど!」


いつの間にか、近くに来ていた成美くんに声を掛けられてハッとする。


「でしょ!メイク落として、髪上げるとすごい美少年になるから、執事服、似合うだろうなとは思ってたんだけど、まさかあそこまでカッコよくなるとは思わなかった。けど、接客とかちゃんとできてるのかは心配」


「その辺は姉ちゃんがフォローしてるから大丈夫そうだよ!それに、早瀬さんの初々しさにお嬢様方も喜んでるし!」


「そっか。なら良かった!あと、一個お願いがあって...」


「もちろん、日葵ちゃん。もう上がって良いよ!早瀬さんのこと、心配なんでしょ。行って来て!ドリンクは助っ人を呼んだから!」


成美くんは、私が頼む前にニコッと笑ってそう言ってくれた。

私は、成美くんに「ありがとう。じゃホールの方、行ってくる!」と伝え、足早に従業員室に向かう。


成美くんは、私が美樹を心配していると思ってくれているみたいだけど、これは心配とかそういう感情では無いと思う。

私はあのお嬢様たちに嫉妬している。


急いで、エプロンを外し、ロッカーから荷物を取り出す。

一度、従業員の出入り口の方から外に出て、店の入り口から中に入る。

だいぶ恥ずかしかったけど、ちょうど近くに居た凪さんに案内をされ、席に付く。


「日葵ちゃんってもしかして...美樹ちゃんのこと、好きなの?」とメニューを渡すときにこそっと聞かれて、私は「言わないでください」と余裕もなく答える羽目になった。


「青春だね—!応援してるよ!任せて...」とニヤニヤした顔の成美くんのお姉さんに言われる。


この人、絶対面白がってるよ!

凪さんは、私の注文を取り終えるとお嬢様に囲まれている美樹の方に行き、私の方を指さして、何か美樹に言う。


すると、美樹がコクコクと頷いて、優しくはにかむ様な笑顔を私に向けた。

その笑顔はいつも私の心臓をおかしくする。


視線が合って、心臓の音がいつもより大きく聞こえた。



































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