一夜明けたら家族が四桁・1

 連れられたのは、街から遥か離れた山の中腹だった。

 台地のようになっていて、テントがいくつもある。どうやら魔物の集落らしい。


『さて、改めて自己紹介。あたちはメリオンプルセーヌ・フォン・ド・ブランドフェレールでち』


 おっ、今回は噛まずに名前を言えた?

 というか、この無駄に長い名前は何なんだよ?


『あたちは魔族の名門だから、名前が長いのは仕方ないでち』

「……で、俺をどうするつもりなんだよ?」

『どうもこうもないでち。おまえは魔王様に認められたから、人間の都合で万一のことがあったらまずいでち。だからあたちが三ヶ月間、警備をするでち』

「人間の都合って何だよ?」


 3ヶ月猶予期間が与えられたから、反撃の準備をするということか?

 それとも、俺が魔王に一方的に認められたから、魔族の仲間として殺しに来るとか?

 うわ、それはありそうだ。

 何で自分が全く知らないことで、みんなの恨みを買わないといけないんだよ……


『そんなことをするはずがないでち。むしろ逆でちよ』

「むしろ逆?」

『おまえの家族は助かると魔王様は宣言したでち』

「俺はともかく、家族はいないぞ? 生まれた後に奴隷として捨てられた、いわゆる天涯孤独の身なんだが」

『それは多くの人間にとって都合がいいことでち。明日になると分かるでち』


 どういうことなのだ?


 気づいたら、変な鬼達が集まってきている。

 あぁ、あれか、こいつらがゴブリンとかオークという奴らか。

 そいつらがテントを作ってくれていて、火も起こしている。

 俺にここで寝ろということらしい。

 昨日まで奴隷仲間達とぎゅうぎゅう詰めにされて寝ていた環境から一変、まさかゴブリンやオーク達と一緒に寝ることになるとは……

 というか、ひょっとしたら、寝ている間にこいつらのエサにされてしまうのでは……


 だとしても、俺にはどうしようもない。

 今晩はここで寝るしかなさそうだ。


 山の上にいるから、朝日が昇るのが早い。

 時間は分からないが、いつもより多少早く起きた気がする。

 と、ゴブリン達がお椀を持ってきたぞ。中を見ると鳥の足みたいなものが浮いているスープだ。

「これ、食うの?」

 正直、見た目は相当不気味なのだが、ゴブリン三匹……三人が「美味いぞ」というようなことをジェスチャーで示している。


 とりあえず飲んでみると。

 あ、確かに見た目よりはイケるかもしれない。

 奴隷飯よりは遥かに美味い。気づいたら飲み干していて、お代わりまで頼んでしまった。


 と、ゴブリンとまったりしていても仕方がない。

 いや、特にやることもないのか。

 あの幼女はどこにいった。というか、幼女という呼び方もあれか。メリオンプルセーヌだっけ?

 長いな。メリーとかの短縮形で何とかならないかな?

 そのメリーがやってきた。


『気分はどうでちか?』

「いや、まあ、何が何だか分からないのは相変わらずだが、ゴブリンのスープは意外と美味かった」

『それは良かったでち。あれには実は人間が……』

「何ぃぃ!?」

 思わず吐き出しそうになる。

『冗談でち。あのスープは特殊な魔法で作られたもので、一日間だけゴブリンになるスープでち』

「えっ?」

 ゴブリンになる?


 驚いていると、メリーが鏡を取り出した。

「うわー!」

 本当だ!

 変な角が生えていて、ゴブリンになっている!

「ほ、本当に一日で戻れるのか!?」

『そういう風に聞いているでち。仮にゴブリンのままでもそう悪いものでもないでち』

「悪いわ!」

 奴隷だったらゴブリンの方がマシだとでも言いたいのか?


『これを使ったのは、おまえがエデンだとバレないためでち。まずはこの恰好で街に行ってみるでち』

「あ、あぁ……」

 なるほど。

 確かに、俺が戻ると色々パニックになりそうだから、な。

 と言って、人間の街をゴブリンが歩くのはどうなんだ?


『勇者も前の勇者もいない今、人類の街をゴブリンやオークが歩いても何の問題もないでち』

 勝っている側は気楽なものだ。


 とにかく、また空をかっとんで街へと戻ってきた。


 ゴブリン姿の俺というより、メリーが歩いている様子を見て、多くの人間達が青い顔をしている。

 昨夜、勇者を倒したと宣言したし、以前の勇者達をあっさり返り討ちにした存在だから恐れられても仕方ないのかもしれないが。


 メリーの目指す先は教会だ。

 これまでの俺とは無縁の場所だ。奴隷だから中に入ってお祈りなどをささげたことはないし、そもそも入れてくれないからな。「神は人間を平等に扱う」と教会のお偉方は言っているが、そのお偉方は奴隷を平等には扱ってくれない。

 せいぜいが荷物などを運んできたくらいだ。


「うん?」

 その教会の入り口に、何やら若い女の子が殺到している。20人くらいいるだろうか?

 昨夜人類滅亡という話があったのに、もう気を取り直したのだろうか?


『おまえはあの女たちを知っているでちか?』

「いや、知らないけど?」

 ひょっとしたら、通り過ぎたとか挨拶くらいはしたことあるかもしれないけれど、そもそも女友達自体がいないし。

『それはおかしな話でちね』

「何がおかしいんだ?」

『あの女達は全員、自分はエデン・ミラーシュの妻だと主張しているでち』

「ぶっ!」


 な、何だってぇ!?

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