勇者の死と魔王からの使者・3

 闇夜に現れた魔族の女の声。


 その声は「エデン・ミラーシュとその家族を助ける」と言った。


 それって、もしかして、俺のことなのか?



 ……と、奴隷仲間達が俺を見ている。


「お、おい、エデン。今の声が言っていたのって、おまえのことか?」


 すがるような目を俺に向けてくるが、ちょっと待ってくれ。


 俺には何のことだかさっぱり分からないし、そもそもお前達は俺の家族じゃないだろう。


 俺には家族はいたと思うけれども、生まれた直後に奴隷として売られてしまった。だから、家族なんて言える存在はいない。



 そもそも、エデン・ミラーシュが本当に俺のことかも分からない。


 俺は魔王とは何の関係もないし、俺だけ助けられる理由もない。


 ひょっとしたら、同じ名前の、魔王が助けたい人物が他にいるんじゃないのか?



「待ってくれよ。俺は確かにエデンという名前だが、単なる奴隷で魔王とも関係なんかない。助けられる理由はないし、同じ名前の別人だろ?」


 俺の言い訳に、奴隷仲間も「それもそうか」と思い直したようだ。


「確かに、魔王がおまえを助けても仕方ないよな」


「同じ名前の別人か。びっくりしたよ」


 助けても仕方ないとまで言われるとムカッとなるな。


 とはいえ、それが事実だ。魔王に助けられる理由なんて全然ない。

 本当に、全く思いつかない。



「……しかし、3ヶ月の猶予か」


 誰かが口にした。


 確かに、エデン・ミラーシュが助ける家族5人を選択するために3か月の猶予期間を与えると言っていた。その間、人類は一応、大丈夫ということだ。


「3ヶ月あるのなら、誰か強い奴が魔王を倒すということも期待していいのかな?」


 奴隷仲間が言うが、どうだろうか。


「どうだろう? 勇者ユークスはやられたし、さっきの前勇者達もあっさりやられてしまった。しかも、魔王にやられたのならまだしも、その配下のバカな幼女にやられたわけだからな」


 俺の言葉に、全員が重い溜息をつく。


『……誰がバカな幼女でちか?』


「それはおまえ、こういうチビで鎌をもった……」


 目の前にいるような存在。



 目の前にいる!?



『中々の御挨拶でちね。ちょっとだけ殺意が湧いたでちよ』


「お、お、おまえ、何でここに!?」



 さっきまで空中にいた幼女の魔族……というかダークエルフが、今、俺の目の前にいる。


 黒っぽいローブを着た、少し濃い色の肌をしたバカっぽい……とかいうと殺されるかもしれないか、純真そうな幼女としておこう。



『魔王様の指示で、エデン・ミラーシュの護衛に来たでち。今後、おまえの回りに変な奴らがやってこないとも限らないでちからね』


「えっ? ということは……」



 助けてやる相手というのは、やっぱり、俺?



『他にエデン・ミラーシュはいないでち』


「な、何で俺が助かるの!?」


 俺の問いかけに幼女はジロッと睨みつけてくる。


『そんなこと、あたちが知るわけないでち』



 ……あぁ、確かに。


 この見た目だが、喧嘩以外は全く頼りなさそうな感じに見える。


 説明を聞くなら、さっき話をしていたこいつの妹を名乗っていた相手の方が良さそうだが。



『妹はここにはいないでち。魔王様の広報として背後にいるでちよ』


 俺達の様子は何かで見ているのだろうし、そのうえで説明してくれても良いと思うんだが。


『それは後でもやるでちよ。今はここから離れるでち』



 幼女は右手を俺に向けて開いた。


「うわっ!」


 たちまち、身体が空中に浮いた。


『このままついてくるでち』


 と言って、幼女は空に向けて飛び立つ。


 俺はそれに引っ張られるように空に投げ出される。


「うわーっ! 怖えぇーっ!」


 いきなり空に放り投げだされ、下に見える地面がどんどん小さくなっていく。


 仮にこの距離から落ちたなら、間違いなく死ぬ。


『男のくせに泣き言を言うでないでち! あたちの魔力を信じるでち!』


「うわーっ! スピードを上げるなーっ!」


 風が寒い! 俺は奴隷だったんだから、上はボロ布一枚なんだぞ!


 それに早すぎて体が痛い!


 空気抵抗ってやつが物凄いんだが!?



 俺の悲鳴は届かない。


 幼女は遠い山の方へ、俺を引きずりながら飛んでいった。

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