勇者の死と魔王からの使者・2

 勇者が死んだという夜、現れた魔族? ダークエルフ? の女……というか幼女。


 自分の名前を言おうとして舌を噛んだようで、「痛いでち! 痛いでち!」と情けない声をあげている。



『あらあら、全く姉さんはあわてんぼうさんなんだから』



 と、今度は一転して穏やかな雰囲気の女性の声が。



『皆さ~ん、声だけで失礼しますね。ワタクシはアリーゼポリアンヌ・フォン・ド・ブランドフェレールと申しまして、そこで自爆しているメリオンプルセーヌの妹でございます』


 何だか癒し系の声だ。


 聞いている連中の表情も和らいだ。


 みんな、「この人はそんなに怖くないんじゃないか」と思っているのだろうし、「ひょっとしたら人類は助かるんじゃないか」という期待も抱かせる。



 だが、それは甘かったようだ。


『本日、そこにいるのっぺらい姉が人類の勇者を自称していたユークスなる者とそのパーティー、及び五千の人間軍を全滅させました』


 勇者もろとも全滅させたという言葉に起きるどよめき。


『よって、これから人類を滅亡させに行くわけですが、ワタクシ達は寛大です。皆さんをいきなり皆殺しにするのも可哀相と思いましたので、心の準備をしてもらうために、姉が報告に来たわけですわ』


 そういうと、夜空に勇者ユークスをはじめ、多くの兵士達が倒れている情景が現れる。


 その最前線を歩いているのは、メリ……俺も噛みそうになるくらいには長い名前の、あの幼女だ。


 これ以上ないドヤ顔で全くない胸を誇らしげに張っている。



『そういうことでち! お前達は間もなく、死ぬことになるでち!』


 こいつはこいつで、あんまり怖くないのだが、勇者ユークスがこいつにやられたと説明されていたから、実際は強いんだろうな……



 と。


「そこまでだ!」


 おちゃらけた雰囲気を吹き飛ばすような気合の声が聞こえてきた。


 見ると、王城の方から、4人の老人が歩いてきている。全員、軽装だが、年代ものと思わせる武器を持っていて、魔族の幼女の下で剣を構える。


「勇者ユークスが死んだのであれば、わしら元勇者が貴様らを止めてみせる!」


 あ、30年前に世界を救ったという、元勇者達なのか。


 隠居していたというけれど、昔はものすごく強かったという。


 彼らなら、期待できるのか?



 元勇者たちは2人が剣を構えて、もう2人が杖を構えている。


 空に浮かぶ幼女は「やれやれ」という顔をしている。



『ま、こういうのが1人くらいいないとおもちろくないでち』



「舐めた口調もそこまでだ!」


 老人勇者達が飛び上がった。剣を構えて、一閃!


『遅すぎるでち』


 しかし、幼女が彼らの後ろに現れた!


 一体いつ移動したんだ!? 早い!


 鎌をブンと振り下ろすと、凄まじい衝撃波が発生して、飛び上がっていた2人はもちろん、下で魔法を使おうとしていた2人も巻き込んで大爆発を起こした!



 周囲が静まり返り、爆発が晴れるのを待つ。


 そこには、爆発の中で物言わぬ4人の老人が倒れていた。



『あらら~、予期せぬ事態が起きてしまいましたね……』



 癒し系の声が響く。



『ですが、これで、ワタクシ達に歯向かっても無駄だということが理解できたでしょう。貴方達人類は、ワタクシ達の手の下で死ぬのを待つのみ、ということですよ』


 圧倒的な力の差を見せつけられたうえでの死刑宣告。


 周囲ではすすり泣く者達もいる。


 俺は、というと、昼間同様、そんなに心境は変わらない。


 このままでも、あまり良い目を見ないまま死ぬのだし、今、死んだとしてもあまり変わりがないんじゃないか、と。



『……そう言いたいところですが、全く何も工夫されないのも面白くないですし、魔王様が多少なりとも恩義を感じる人間がいるのも事実です。何人か助けることはやぶさかではありません。そこで』



 と言って、一瞬の沈黙。


 雑踏の中からはざわめきの声も起きる。



『魔王様のお達しもあり、エデン・ミラーシュとその家族だけは助けることにしましたわ』



 ……はい?


 えっ、エデン・ミラーシュ?


 って、もしかして、俺のこと?



『ただ、家族と言っても5人までとしますわ。その選択のために、人類への攻撃は三ヶ月だけ猶予することにいたします。以上が魔王様から人類への報告です。姉さん、もう帰ってきていいですよ』


『つまらないでち。おまえがいいところを全部取っていったでち』


『はいはい。まず自分の名前をきちんと言えるようになってから、文句を言いまちょうね~♪』



 人間達の運命を宣告した後も姉妹はやりとりをかわしているが、コントのような話に耳を傾ける者は1人もいなかった。

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