第2章 忍びの追手
【読者の皆さまへ】
お読みいただき、誠にありがとうございます。
【作品について】
・史実を下敷きにしたフィクションであり、一部登場人物や出来事は脚色しています
・本作品は「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」の遠い過去の話です。
https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761
・「私立あかつき学園 絆と再生 The Girl who discovered herself」と交互連載です。
https://kakuyomu.jp/works/16818792437738005380
・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。
・今作には[残酷描写][暴力描写]が一部あります。
・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)
https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548
・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。
【本編】
岡崎城を抜け出した三人は、月明かりを頼りに山道を駆けていた。
草木がざわめき、夜鳥の声が遠くで響く。
「殿!」
息を切らしながら、亮衛門が口を開いた。
「東へ参りましょう。箱根を超えれば……」
すぐに京次郎が冷静に分析を添える。
「左様。西には信長公、北には武田……南は海。もはや東しか逃げ場がござらんな」
信康は黙して頷き、やがて吐息をもらした。
「父上とは同盟の間柄……北条殿、いかに出られるか……」
その刹那――
亮衛門が咄嗟に叫ぶ。
「殺気!」
――ヒュッ!
鋭い音とともに、闇を裂いて手裏剣が信康に飛んだ。
「殿、危のうござる!」
亮衛門が素早く抜刀して、刃を閃かせた。
――キーン!パタッ……。
信康の眼前で、手裏剣が叩き落とされ、地面に落ちた。
手裏剣をみて京次郎がつぶやく。
「伊賀者の……十字手裏剣」
そして、信康が声を上げた。
「半蔵か!」
――ザザッ!
――ザザッ!
――シャッ!シャッ!
直後、木立の間から黒装束の影が次々と躍り出た。
「徳川……いや、松平信康殿!お覚悟を!」
忍びの群れが月光を背に跳ね、刃が閃光となって迫る。
「来たか!」
亮衛門が吼え、踏み込んだ。
――ズバッ!
刀が月光を裂き、迫り来た忍びを袈裟懸けに切り伏せた。
――シャッ!ズバッ!ズボッ!
さらに返す刃で二人目を斬り伏せ、最後は体当たり同然に斬り込んで三人目を突き倒した。
「まだまだぁっ!」
同時に京次郎が腰の袋から白玉を取り出し、地に叩きつける。
「数で劣るなら、惑わすのみ!」
――ボンッ!
白煙が広がる中、京次郎は懐から短刀を抜いた。
「そこか!」
――シャッ!ズバッ!ズバッ!ズボッ!
影の気配を見抜き、喉を狙って一閃。続けざまに二人、三人と切り裂き、忍びの呻き声が煙の中に消えた。
「殿、御身をお守りいたす!」
京次郎が叫ぶ。
その声に応えるように、信康も刀を抜いた。
「易々と取らさんぞ!」
刃を構え、煙の中から躍り出てきた忍びを迎え撃つ。
――シャッ!ズバッ!ズバッ!ズボッ!
――ズバッ!ズバッ!
渾身の一撃で一人、二人と斬り伏せる。
さらに身を翻し三人目を薙ぎ、四人目、五人目へと斬撃を叩き込んだ。
「徳川の血脈、ここで絶やすものか!」
煙の中、忍びの声が響く。
――退け!退くんだ!
――ただものでは無いぞ!
――タタタタタタ……。
亮衛門が耳をすませてつぶやく。
「引き上げて……いったか……」
京次郎もうなづく。
「振り払ったか……殿?」
信康も納刀しながら振り返る。
「一旦は落着か……」
白煙の帳が晴れたとき、倒れ伏す忍びの影が地面に散乱していた。
三人は肩で息をしながらも、なお闘志の炎を絶やしてはいなかった。
草木は乱れ、夜の森に血の匂いが漂う。
「ふぅ……なんと執拗な……」
亮衛門は刀についた血を払うと、険しい眼で辺りを見回した。
京次郎は静かに首を振った。
「これはただの斥候に過ぎませぬ。本隊は必ず後を追って参りましょう」
信康は荒い息を整え、二人の顔を見渡した。
「……父上の命を受けた、半蔵の差し金か……」
亮衛門は即座に言った。
「いずれにせよ、立ち止まれば討たれるのみ。殿、このまま東へ進みましょう!相模の北条殿を頼るのです!」
京次郎も深く頷いた。
「北も西も敵だらけ……南は海……。残るは東の北条しかござらぬ」
信康はしばし無言で夜空を仰いだ。
冴え冴えとした月が、冷たく彼らを見下ろしている。
「やはり……父の盟友、北条殿を頼るしかないか……」
亮衛門が刀を握り直し、力強く言い放つ。
「殿の御命を守るためならば、我ら何処へなりともお供いたします!」
京次郎も静かに続ける。
「たとえ拒まれようとも、一度は門を叩く価値がございましょう」
信康は大きく頷いた。
「よし……ならば東へ進む!」
三人は夜道を駆ける。
背後の森からはなお、不気味な気配がついてくる。
服部半蔵の影が、すでに彼らの行く末を追っていることを、三人は知っていた。
――三人は小田原へ足を向かわせていた。箱根の山々をかき分けるように……。
信康は歩を急ぎながら思いをつぶやいた。
(父上……私はまだ死なぬ……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます