第3章 小田原の雄
【読者の皆さまへ】
お読みいただき、誠にありがとうございます。
【作品について】
・史実を下敷きにしたフィクションであり、一部登場人物や出来事は脚色しています
・本作品は「私立あかつき学園 命と絆とスパイ The Spy Who Forgot the Bonds」の遠い過去の話です。
https://kakuyomu.jp/works/16818622177401435761
・「私立あかつき学園 絆と再生 The Girl who discovered herself」と交互連載です。
https://kakuyomu.jp/works/16818792437738005380
・この小説はカクヨム様の規約を遵守しておりますが、設定や世界観の関係上「一般向け」の内容ではありません。ご承知おきください。
・今作には[残酷描写][暴力描写]が一部あります。
・短編シリーズ始めました(2025年8月16日より)
https://kakuyomu.jp/works/16818792438682840548
・感想、考察、質問、意見は常に募集中です。ネガティブなものでも大歓迎です。
【本編】
追手から逃れ、箱根の山々を夜を徹して駆け抜けた三人。
信康、亮衛門、京次郎の三人は、汗をぬぐいながら山道を下り、小田原へ向かっていた。
背後から忍びが迫ってくる気配は、もう無い。
だが、その静けさこそが逆に不安を募らせる。
「さっきは危なかったな。次はいつ来るのか……」
信康が小さく息をつきながら言う。
亮衛門が苦笑し、隣の京次郎に目をやった。
「そう言えば、お主、煙玉が得意のようだが……自分も見えなくならぬのか?」
京次郎は口の端をわずかに上げ、短く答えた。
「気配をつかんでおる。……何となくだがな」
亮衛門が呆れたように肩をすくめる。
「何となくで斬り合いされては……相手は半蔵殿の配下。油断ならんぞ?」
「わかっておる」
そのやり取りに、信康の表情が少し和らいだ。
「……そろそろ小田原城だ」
三人は顔を見合わせると、再び歩を進めた。
そして。しばらくして城下にたどり着き、大きな城が視線に飛び込んだ。
信康がその城を見上げる。
「着いたか……」
巨大な石垣と堀に囲まれたその城は、天下の名城として威容を誇る。
朝靄の中、白壁と櫓が薄明に浮かび上がり、その堂々たる姿に信康は思わず立ち止まった。
「これが……北条の牙城か」
亮衛門は息を整えつつも、鋭い眼差しを城に向ける。
「殿、この城にて命運が定まりまする」
京次郎が冷静に付け加える。
「北条殿は父君との盟友。されど織田を畏れ、そちらとも盟を……軽々しくは動けませぬ。ここよりは言葉ひとつ、振る舞いひとつが命取り」
信康は深く頷いた。
「承知しておる。……父上の盟約、果たして我を救うか、それとも……」
その時、城門に近づいた三人を、武具をまとった侍たちが鋭く睨んだ。
一人の侍が槍を突き出しながら、怒号を上げる。
「我は
亮衛門が一歩進み出る。
「控えい!徳川の嫡子、松平信康公にあらせられる! 北条氏政殿へ謁見を願おう!」
渡瀬は驚愕の表情を浮かべる。
槍が地面にゆっくりと下ろされた。
「何っ!徳川殿の嫡子だと!」
――すぐに知らせろ!
――松平信康殿だと?信長公の命で処断されたのではないのか?
――殿は謁見すると仰せか? 返答はまだか?
騒然とする兵たち。やがて城内へと伝令が走った。
――数刻後。
渡瀬が鋭く怒号を上げた――。
――通せ!
しばらくして、豪壮な大広間に通された三人。
その上座に、直垂をまとった氏政が姿を現した。
彼は、ゆっくりと上座に腰を下ろす。
壮観な顔つきに口ひげ。
「ほう……これが徳川殿の嫡子、信康殿か」
氏政の声は重く、信康たちを見る眼差しは探るように鋭かった。
信康は氏政に視線を向ける。
(小田原の雄……)
少しして、氏政が口を開く。
「信康殿。家康殿の嫡男とあらば、我ら北条も粗略には扱えぬ」
低く響く声。だが口元には笑みもなく、謹厳な色が漂っている。
信康は一歩進み出て、深く頭を垂れた。
「父上と盟を結ぶ織田信長公は、私に武田との内通を疑っております。そのため父は我に切腹を命じられました。されど徳川の血脈、ここで絶やすわけには参りませぬ。どうか氏政殿、御助力を」
亮衛門が身を乗り出して吠える。
「北条殿。我が殿が武田と内通などと……あり得ませぬ!」
京次郎も頷いて言う。
「これは、何者かの仕掛けた罠……拙者たちはそう見ておりまする」
氏政の目が少し見開いた。
「だが……もう世には、信康殿は処断されたとの風評だ。どうやってそれを覆す?」
信康が臍を噛む。
「それは……」
広間に重苦しい沈黙が落ちる。
その時――
――スッ。
柱の陰から黒装束の影が歩み出た。
身の丈2mほどの巨体。
燃え上がるように男の髪が逆立っている。
信康が男に問いかける。
「何者?」
男は低く、かつ重厚な声を漏らす。
「北条の忍び頭……風魔小太郎でござる」
信康は思わずつぶやきを漏らす。
その顔には。畏怖と戸惑いが同居していた。
「風魔……か」
――そして、風魔は信康たちを一瞥すると、ゆっくりと氏政に歩み寄っていった。
――その影の出現が、この先の運命を大きく揺るがすことを、三人はまだ知らなかった。
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