第5話 異世界での初めての夜❤

ルドにつれられてお屋敷につく。


 お屋敷の内部を案内する間、ルドは始終無言だし、冷ややかな目をしたままだった。


突然現れた私を、文字通りお荷物だと思っているのが伝わってくる。

 それでも、ルドは親切にも私に飲み物をくれた。


恐ろしく不味い、黒紫色の液体だったけれど、ルドは平気な顔で同じものを飲んでいるので、まぁ、害のない飲み物なのだろう。


 狭い寝室が左右に並ぶ廊下を進み、壁紙と同じ色の扉を開けると豪奢な広間に出た。


その奥にある大階段には上がらなかったけれど、登り切った2階は左右に廊下が伸びており、居室が5部屋くらいあるように見える。


1階は階段室(さっき広間だと思った部屋だ)、食堂、暖炉室、書斎、図書室、ビリヤードやダーツらしきもののある遊戯室、そして本物の大広間があった。


前に海外ドラマでみた領主館マナーハウスに構造が少し似ている。


この美少年はいわゆる貴族なのかもしれないと思ったが、召使いとかは一切いない。


 木の床にも大階段の手すりにも厚く埃が積もったままだった。 


最後に案内されたのは、図書室の本棚の奥にある隠し扉の向こう側の一角。


 石造りの塔のような、縦に長い造りのそこに、一階に大きな浴室、二階と三階にそれぞれ2部屋ずつ簡素な寝室があった。ここだけは掃除が行き届き、日用品もそなわって、生活感もある。



 屋敷を案内されてわかったが、この広いお屋敷にこの子はおそらく独り住まいだ。


 こんなまだ十代も前半であろう子が。

 何だか可哀想だな。淋しくないのかな。

私を連れてきたのも、もしかしたら母恋しさ、人恋しさからかもしれない。ついそんな空想をめぐらしてしまう。

 



……そんな空想は、あっさり打ち砕かれた。


風呂場に案内してくれたと思ったら、

水の張られた浴槽に、私は服のままぶち込まれたのだ。

異様に冷たい水に、赤黒い葉っぱも浮いた気味悪いお風呂だ。


森に倒れていて、土埃にまみれていたとは言え。

なんてことをするんだ。


その後も私の着替えの場に居座るルドに私は戸惑った。


こんなアラサー女おばさんの裸なんて見たくないでしょうに!


私だってこんな子どもに裸体なんて見せるのは絶対に倫理的によろしくないから、どうにか浴室からルドを追い払った。




  どうにか着替えた私はこの塔の3階の一室に連れて行かれた。


ベッドと書き物机と椅子一脚があるだけの小さな部屋だ。ベッドカバーをどけて、布団をめくって彼は私を見る。

シーツには不思議な幾何学模様が刺繍されていて、ちょっとお洒落だ。

さっきの森の出口の落とし穴にあった模様と似ている。


 どうやら、有り難いことに一晩泊めてくれるらしい。さっきのお風呂でのあれこれはともかく、根は優しい親切な子なのだろう。


 冷水風呂のせいですっかり凍えた体を温めたくて、私はいそいそとお布団にくるまった。


「おやすみ、ボク」


 私の言葉に少年はこてんと首を傾げただけで、何も言わずに部屋を出て行った。


 少し硬めのベッドはぬくぬくして心地よく、私はすぐに眠りに落ちてしまった。


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