第30話

「神の名の元に悪を滅ぼしたまえ!」


 魔人が呪文を唱えた。

 地獄の炎が無明を襲った。

 無明の体が焼けていく。


「ああ、なるほど。これは重傷だ」


 無明は炭化した体でそうつぶやいた。

 次の瞬間、無明の体は焼ける前の傷一つない姿に戻る。


「こんなもので俺を殺せるはずないだろ?」


 この程度の責め苦は無明にとってサウナ程度のものだった。


「神の名において神罰をあたえよ!」


 雷が無明に落ちた。

 火花放電により無明の体が内部から破裂した。

 だが崩壊した体は瞬時に元に戻る。


「ぬるい」


 無明は魔人にゆっくり近づいていく。


「罪人の魂を凍らせよ! 嘆きの川コキュートス!」


 今度は無明が凍る。

 だがそれも無明には効果がなかった。

 すぐに氷は粉々になり、無明の体には傷一つついてない。


「ば、化け物が……」


「俺はただ普通に青春を送り、普通に人生を終えたかった。その邪魔をしたのは神とかいう蝿どもだ。俺が望んだ結果ではない」


「も、亡者よ!」


 かつて無明が葬ったヤクザたちの霊が顕現する。

 その手には拳銃や長ドスが握られていた。


「また殺されに来たか……」


 無明はヤクザたちを再び殺していく。


「お前らもそうだ。松本をさらおうとしなければお前らは生きられた。四条の言うことを聞けばよかっただけだ」


 ヤクザたちは怨嗟の声をあげる。

『もっと犯したかった』『もっと殺したかった』『もっともっともっと……』だが無明はその声をせせら笑う。


「他人を殺そうとするくせに覚悟が足りない。殺されたくなければ法律の中で大人しくしてればいい。俺に見つかったから殺されただけだ。ただそれだけのことなのにガタガタ言うんじゃねえ!」


 ヤクザを肉塊に戻す。

 その攻撃は背中の皮を剥いだときよりも苛烈だった。

 もう皮を剥ぐ必要はない。

 ただ殺すだけだ。


「お前もだ魔人。俺の邪魔さえしなければいい。アメリカを滅ぼそうが好きにしろ」


「できない! やつらを滅ぼせば世界の調和が乱れるのだ!」


「俺が法を敷いてやってもいい。お前の仇を滅ぼせ!」


「できない!」


「暴力の世界を作れ!」


「できるはずがない!」


「悪が栄える時代を作れ!」


 魔王みたいなことを口走る無明。

 それを否定する魔人。

 完全に善悪が逆転していた。


「なあに殺してしまえ。俺の知らないところでやるなら許す。殺せ! ダンジョンを作って皆殺しにしろ!」


 あまりにメチャクチャなことを口走る無明。

 すると御使いのテレパシーが飛んでくる。


「ちょっと無明さん! なにやってるんですか?」


「なにって説得だが?」


「あ、アンタ、世界を滅ぼす気ですか?」


「滅びない。なぜなら日本は俺が死守するからだ。俺は俺の周辺だけが生き残ればいい。俺の知らないところで生きてる人間なんぞ数でしかない。死のうが生きようが知らん。殺してしまえ!」


「あわわわわ……か、完全に人選ミスだ……」


 無明は本気だった。

 その様子を見て御使いはあわてた。

 ここまで無明の精神が終わっていたとは思わなかったのだ。


「魔人よ! 一緒に世界を滅ぼそう! さあ殺せ!」


「う、うるさい! 風よ! 悪を引き裂け!」


 無明の体が引き裂かれていく。

 だがそれも一瞬で元に戻る。


「攻撃に迷いが出てきたな。なあ、どうだ? 核戦争を起こそう。基地から核ミサイルを強奪して他の国で爆発させるんだ。きっと楽しいぞ!」


「あんたなに言ってるんですか!?」


 御使の声など無明には届いてなかった。

 無明は歪んだ顔で魔人をそそのかす。


「病気はどうだ? 人類に病気をばら撒き殺しまくろう。どっちがたくさん殺せるか勝負しよう!」


「で、できない!」


「それじゃ汚染だ。世界中の工場を爆発させて世界を汚染しよう。みんな苦しんで死ぬぞ。きっと楽しいだろうな!」


 とうとう魔神は泣き出した。


「できない……無理なんだ……」


「どうして? 俺はやったぞ」


 無明は笑顔だった。

 その笑みは最も純粋な悪だったのかもしれない。


「魔人よ。みんな仲良く。そんな世界は存在しない。弱肉強食か、あきらめて共存するか。それしかない。人間はそう設計されてるのだ。もっと上位の神にな。悩む必要はない。お前は殺す権利がある。気に入らないやつは皆殺しにしろ。ただし俺の近くでやるな」


 無明の発言はデタラメの極みだった。

 だが言いたいことは一貫してた。


「俺の手をわずらわせるな」


 それ以外のことは言ってない。


「あ、アンタ! 無明くん! なに言ってやがるんですか!」


「御使。はっきり言う。俺は俺の生活を邪魔されなければ何人死のうがかまわない。世界の命運も国の存亡も関係ない。俺の周りでヤンチャするなら殺す」


「蕃神様! 完全に人選ミスです!」


「聞け御使、俺は世界をよくしようなんて思ってない。だが邪魔なら殺す。なあ、魔人さんよ。ダンジョンができるのもそれなんだろ? 人間どうしで争わせないようにしてる反動だろ? だったら俺の知らない連中を殺し合わせろ!」


 絶対神はひざをついた。


「できない……私の子どもたちを殺すことはできない」


 無明は魔人の胸倉をつかんだ。


「もう殺したのに?」


「あれは間違いだった?」


「いいや正しいね。お前が間違えたのは復讐を中途半端で終わらせたことだ。関係者を皆殺しにしろ!」


 無明を拳を握った。

 そしてその拳を魔人の顔に叩きつけた。

 魔人は壁に叩きつけられる。


「ダンジョンの出現はお前の弱さが招いた結果だ。俺はその尻拭いをしてやった。その結果はもう一つの世界の崩壊だ」


 無明は部屋の壁を叩く。

 すると床から装置が浮かび上がる。

 それは神の怒り。

 世界を焼き払う神罰を行う装置だった。


「魔人、手本を見せてやる。いまからアメリカを消滅させる。嫌なら俺を止めてみろ!」


「や、やめろ!」


「そうですよ! やめてください無明さん!」


「黙れ御使。俺に依頼したのはお前らだ。俺の好きなようにさせてもらう!」


「うわああああああああああ! 無明さんのバカ!」


 無明が装置に手をかけ。世界を焼こうとした瞬間。

 魔人は後ろから無明を斬った。


「やめろ! 勇者よ! 我の子どもに手を出すな!」


「やりゃできんじゃん」


 切り捨てられた無明の体は光の粒子になり消滅す……しなかった。

 粒子は塊になり無明として再構成される。


「次は俺に泣きつくんじゃねえぞ」


 そう言って無明は手を振って場を後にした。

 その後、絶対神は神に戻ったと報告された。

 ただこの話を無明から聞いた四条父は国に報告対策会議が行われた。

 そして同時刻にホワイトハウスに絶対神の家族を殺したもの、その責任者の生首が投げ込まれた。

 犯人はいまだわかってない。




羅刹の銀河 1 ~物語冒頭で即死するモブ貴族に転生したので、生き延びるために好き放題したら英雄になってた~


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【急募】壊れた勇者のなおし方 藤原ゴンザレス @hujigon

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