第19話 最上階へ
ニース隊長と討伐団は同時に4つの門に突撃した。今は塔の周辺に魔物の気配はない。しかし1階の補給地を魔物が取り囲むようなことがあれば、金の塔を攻略することはできない。作戦は迅速に行われる必要があるのだ。門を開けた瞬間10匹の牛頭が斧を振り下ろしてきた。
「こいつら待ち伏せしてやがった!」
先ほどの大楯と槍を組み合わせた攻撃方法を嫌ったようだ。牛頭たちは白兵戦に持ち込んだのだ。腕力で勝る牛頭たちにとって、白兵戦の方が有利なのだ。しかし、
「ふんっ!小賢しい!」
とニース隊長の横薙ぎ一閃。3匹の牛頭が斬り伏せられた。猛牛のニース。白兵戦においては右に出るものはいないか。門から続く階段を駆け上がっていく。階段の上には牛頭たちが待ち受けており、上から飛び掛かって襲い掛かる。ニース隊長は飛び掛かってきた牛頭の喉元を突くと、そのまま斜に薙ぎ払う。
「魔物と言えど所詮は雑兵。恐れるに足らず!」
と破竹の進撃を見せていたニース隊長の足元の階段が、パカッと左右に分かれて足場が消えた。からくり仕掛けの落とし穴だ。どうやらこの門は外れだったようだ。そのまま1階まで、落下した。
「外れかよおおっ!」
ドスンという音がして、ニース隊長の声が聞こえた。金の塔の1階をよく見ると門の脇に隙間が空いている。そこにニース隊長が落ちてきた。他の2つの門の脇からも団員が落ちてくる。
「ぐぇえ!こっちも外れだ!」
「ちくしょう!あの落とし穴全然わからねぇな!」
慌ててドミニクが近寄るが、そこに牛頭も一緒に落ちてきた。牛頭がドミニクに襲い掛かる。慌てて小剣を抜いたが、間に合わない。しかし横からアラン団長の長剣が牛頭の首を飛ばした。
「油断するでないぞドミニク。さぁ怪我人の救護を頼む。」
ドミニクは牛頭の死体を跨いで団員の傍に駆け寄ったが、皆口を揃えて、
「2階から落ちたぐらいじゃ大したことないぜ!道は開けた!次は3階だ!」
と身を翻してまたもや金の塔に向かった。
ひとつ目の門の正解は分かった。次はふたつ目、3階から落ちてくる。しばらくしてからまた門の脇から人が落ちてきた。またもや落ちてきたのはニース隊長だった。
「ぐぇぇ!また外れだぁ」
「お怪我はありませんか!?ニース隊長!?」
ドミニクが駆け寄る。しかし、
「はっはっはっ!俺様の身体は鋼鉄製さ!救護は不要!次に行くぜ!」
とまた金の塔に向かって行った。本当に頑丈な人なんだな。あの人は。と思っていると、別の門の脇から牛頭と一緒に人が落ちてきた。
「ブルルゥオワァ!」
牛頭が落ちてきた団員に襲い掛かった。無防備だった団員は肩を斬られた。
「クゥっ!この化け物が!」
団員が応戦しているところに、アラン団長が駆けつけ、牛頭を斬り伏せた。
「ドミニク。出番だ。」
アラン団長は怪我人を担ぎ出した。団員の負傷した個所はふたつ。牛頭に斬られた肩の出血と着地の時に足を痛めたようだ。歩けるようなので骨は折れてはいないが、ひどく痛むらしい。亀裂骨折をしている可能性がある。僕は意識を集中し、掌を団員の肩にかざした。ポウッと白い光が出た。ドミニクはこの光の動きをイメージする。まず傷口の表面をきれいにする。雑菌が入り込んでいる可能性があるからだ。傷口が塞がる際に化膿させてはならない。牛頭の斧によって断ち切られた筋肉と神経を白い光でつなげる。筋繊維、毛細血管、神経。分断されたこれらの細胞を白い光でつなぐ。すると白い光はだんだんと救護者の細胞に生まれ変わりながら、細胞同士が手をつなぐように少しずつ傷が塞がっていく。最後に白い光が大きく光った。表面の皮膚を修復したのだ。処置が終わった。
「すげぇ!さっきやられたばっかだぜ!もう治ってらぁ!」
「次は足を治療します。まだ動かないでくださいね。」
1人の団員の治療にも大分神経を使う。自分がすり減っている感覚を覚える。しかし、また塔から団員が降ってきた。ドミニクは駆け寄り、治療する。この団員は足が完全に折れていた。
「アラン団長!今4階まで行きました!あと半分です!」
4階から落ちたのか。足は完全に折れている。牛頭との戦いで切り傷も複数ある。団員は、
「さすがに4階からは痛てぇよ!頼むぜドミニク!」
先ほどと同様に白い光で治癒をする。この団員は大腿骨がすこし内側に入ってしまったようだ。幸い内臓や腹膜に裂傷はない。まだこれで4階だ。もし8階から落ちてきたら―。と思った矢先に特別大きな音を立てて人が落ちてきた。ニース隊長だ。
「また俺かよ!いてててて!今6階まで来たぞ!」
診察をする。踵の骨が砕けている。しかし他の部位はそれほど損傷が無い。だが全身に打ち身がある。このままでは背中が一面青あざになるだろう。しかし、ニース隊長は落ちる際に受け身を取っているようだ。衝撃を分散させたようだ。今これで25人くらい治療したか。意識が少し朦朧としてくるのを感じる。しかし治さないわけにはいかない。皆は命を懸けて戦っているのだ。これは戦争なのだ。救護隊が休めば誰かが死ぬ。一緒に落ちてくる牛頭はアラン団長が殺してくれる。救護隊として任務を果たすのだ。白い光は使い続けている。体力は限界に近い。そんな時、
「あと2回くらい落ちてくるからよ!頼むぜ!ドミニク!」
とニース隊長が僕の背中を叩いた。他の団員も治療が終わり再び金の塔に向かう際は必ず僕の背中を叩く。僕の背中は大きな掌の跡が幾重にも重なっている。背中が熱い。白い光を出すとき、同時に背中も燃えているように熱かった。この熱さが僕の意識を奮い立たせている。またニース隊長が落ちてきた。また治療した。また背中を叩いて、塔を登って行った。もう僕はふらふらになっていた。また団員と牛頭が落ちてくる。階層が上がると落ちてくる団員は皆重症になっていた。重症の患者が増えてひとりに対して治療の時間が大きくなる。救護待ちの人間が発生した。今は5人が痛みと戦いながら僕の救護を待っていた。ひとりずつ治していかなければ、それも早く治さねば、待っている間に絶命する団員もいるかもしれない。症状の重い団員を優先的に治していく。今は7階から落ちている。たとえ受け身をとっても、普通の人間なら死んだっておかしくない。僕も限界が近かった。そのときニース隊長が落ちてきた。
「8階までいったぞ!最上階までの道を見つけた!8階で剣の音が聞こえた!まともに戦える団員の戦力は残り3割!アラン隊長!お願いします!」
「よくやったニース!ではあとは頼むぞドミニク!」と言ってアラン団長はすぐさま最上階へ向かった。僕の戦争はまだ続く。ひとりも死なせてなるものか。僕も最後の力を振り絞る。僕も戦士だ。弱いかもしれないが。僕には僕の果たすべき使命があるのだ。僕の懸命の治療を見たニース隊長は、
「そうだドミニク。自分の使命に気づいたときにお前は戦士になるのだよ。」
と言って、ガクンと頭を伏せて意識がなくなってしまった。
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