第21話:ハイスペック・ガール
村人たちのざわめきは増していた。
さらに人が集まり、開拓地の周りはちょっとした見物会場になっていた。
白線が引かれ、荒れた土地の一角は謎の競技会場ができあがる。
ごとごと、と音を立てて、開拓くん三号が所定の位置に止まる。
デントが前へ出た。
「では、ハロルド、操縦を任せたぞ」
だが、ハロルドはすでにアメリアと何やら作戦会議中。どこに手をつくと効率的か、どんなルートで攻めるべきか。べったりと、話し合っている。
「おい女!」デントが慌てて割って入る。「ハロルドは操縦担当だ! 開拓くん三号はハロルド専用機。私ですら体をぶっ壊す、特別な機械なのだ。勝手に準備を進めるな!」
「あら、ごめんなさい。でも、ハロルドは私の支え役なの」
「支え役? そんなの誰だっていいだろ!」
「いいえ、非常に重要なファクターよ。身長、筋力、性格……それらが絶妙に釣り合ってこそ、逆立ちは成り立つの!」
(なーんて、全部でたらめだけどね)
「ぐ……いやしかし! 報告書には村人たちが交代で担当していた時期もあるそうじゃないか」
「それは……最適なバランスってもんが、存在するのよ! 私の力にはね!」
「いいからハロルドは譲れ!」
「はっは〜〜ん」
アメリアがふんぞり返る。
「ま、本来の力を発揮せずに勝負して、それで勝って満足というのなら、別にいいけどね? 私はね? 私はいいよ? あなたの愛が、それっっぽっっっっっっっっっちだというなら、いいけどね」
「ぐぬぬ……。よかろう。ならば、誰か! 開拓くん三号にふさわしい者はおらぬか!」
デントは周囲を振り返って条件を叫ぶ。
「引き締まった肉体で、繊細な指先を持ち、努力を惜しまない! なおかつ、基本はぶっきらぼうで、だけど、ときおり見せる笑顔が素敵で、ちゃんと叱ってくれて、辛いときは側にいて、そっと肩を貸してくれる……どうだ、誰か!」
……しん、と静まり返る。村人たちは視線を逸らし、世話人は俯く。
「くっ。致しかたない! この俺が直々に操縦を」
「ハイッ」
澄んだ声が割り込んだ。
「おお!」とデントが目を輝かせる。
手を挙げていたのは、カノンだった。
「カ、カノン!?」
アメリアは声が裏返った。カノンは数歩前に出て、会釈をする。
「こんな小娘に操縦などできるわけがない」
デントが首を振る。
「カノンを舐めないでちょうだい!」
ずいっとアメリアが割り込む。
「前提として、私には劣るわけだけど……彼女は馬術大会で3年連続優勝、裁縫の精度は顕微鏡レベル、さらに暗算は百桁くらいなら余裕でこなす、スーパーな女なの! まあ、私には遠く及ばないから、努力は続けなさい!」
「はい、お嬢さま」カノンは微笑んで小首を傾げる。
なーんかおかしいぞ? いつものカノンなら、もっと冷笑を向けたり、無愛想な感じなのに……。そうか! 操縦役をして、私に味方をしようってことね!
ふふふ。悪くないわ、カノン。まあ、そんなサポートなしでも、私がこんな甘ちゃんに負けるわけないんだけど!
「よかろう。ならば試してみろ。ただし、体を壊しても知らんぞっ!」
「承知しました」
「無理はするな」
「はい」
カノンは剥き出しの操縦席へ乗り込み、軽やかにレバーを握った。何やらぴこぴことボタンを押し、多面モニターを流し見る。そして、足元のペダルを軽く踏んだ。
ごおおおおん。
開拓くん三号が、その場で踊るように旋回した。大きな車輪が土を掴み、パイプから吐き出される水で小さな虹をいくつも作る。ブオンッと、得意げに音を鳴らす。
「……おお」村人からどよめきが起こる。
カノンは表情ひとつ変えずに、指先だけで機械を操った。「ふう」前髪を耳にかけ、すっと手を離した。
「完璧だ……」デントが呆然と呟く。「お前まさか……」
カノンの眉がぴくり。
「ハロルドの生まれ変わりか!!!!!」
「俺を殺すな」ハロルドがぼそり。
デントがくるりと振り返り、腕を高く掲げた。
「これなら問題ない! いざ勝負!」
カノンの介入により、混沌を極め始めた開拓地。
今ここに、時代を分かつ真剣勝負が始まろうとしていた。
敗者は奈落に沈み、勝者は未来を掴む。
絶望と希望が交差し、友情と愛憎が交錯し、天地を揺るがす大戦の幕が、いま、切って落とされる。
「なんてね」
アメリアがふっと鼻を鳴らす。
「お前、集中しとけ」
ハロルドは言って、ひとつ手を叩いた。
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