第20話:恋の三角関係

「ハロルドは渡さんぞおおおーーーーーーーーーっ!」


 朝の畑にデントの声が響き渡った。

 アメリアはしばらく口を開けて固まっていたが、声を絞り出す。


「ど、どういうことよ!? 私を奪うんじゃないの!?」

「貴様のような下賎な女にハロルドを渡すものか! 俺こそが、ハロルドのパートナーにふさわしいのだ!」


 デントが高らかに腕を振り上げる。


「だから、めんどくせえんだ」とハロルドが首を振る。

「わかったなら、さっさとこの土地から立ち去れ。しっし」


 デントはアメリアの腕をポイっと放り投げ、背中を押した。

 ぐっと踏みとどまって、アメリアは振り向く。


「いやよ、立ち去るものですか! だいたい、私がいなければこの土地は死んだままよ」

「ッフフ、よくぞ言った。しかし女、それは傲慢だよ」


 パン、パン。

 デントが手を叩くと、周囲に控えていた世話人が一斉に動き出した。

 車のボンネットを開けて、ボタンをポチ。

 ガシャン、ゴゴゴ……っと煙を吐きながら、車が組み変わっていく。

 タイヤは巨大な車輪へと変形し、タンクとパイプ、後方にはローラーが出現した。


「見よ! これぞ最新型、開拓くん三号!」


 デントは胸を張る。


「二号の燃費・安定性・クッション性、それらすべてを改良し、さらに補助操縦を完備。だけじゃなく、顔がよく見えるようにコックピットだけは剥き出し! そしてシートには、コーヒーの匂いを染み込ませている。……愛しのハロルドのために徹夜で組み上げていたというのに……いつかファーストネームで呼んでくれると願いながら……」


 ビシッとアメリアを指差さす。


「そのすきに、こんな泥棒猫が。許せんっ! ずるい!!」

「知らないわよ、こっちだって別に狙ってないし。……まあ、運に見放されたってことね? 運命力ってやつよ」

「ずるいずるいず〜るい〜〜〜〜!!!」


 デントはその場に寝転がり、両手両足をばたつかせた。ざわざわ……。集まっていた村人たちはドン引き。


「……あんた恥ずかしくないの? こんな人前で」

「恥ずかしいわけあるか! 人を愛する、ありのままの姿。何を恥ずかしがる!!!」


 転がったまま、顔だけ凛々しく言い切る。


 ずきゅん。

 アメリアの心臓は撃ち抜かれた。


 ――その通りだ。体裁ばかりを気にして心に嘘をついてばっかりだ。恥ずかしいなんて感想を抱く私が恥ずかしい。そうだよ。これくらい、さらけ出すのが愛ってもんじゃないのか。くそ……負けた。


 アメリアは膝から崩れ落ちた。


「お前ら、少しは場をわきまえろ」


 ハロルドは眉間を押さえた。

 トンっと、デントが起き上がると、アメリアと向き直る。


「よしわかった、ならば勝負だ!」

「勝負?」


 アメリアは首を傾げる。


「これだけギャラリーもいることだ。ここでどちらが“使える存在”か、はっきりさせようじゃないか!」

「勝負って、何するのよ」

「我が開拓くん三号と、お前のその力。時間内に、未開の土地をより整えた方が勝ち! どうだ?」

「おい、勝手なこと言うな。俺にも計画がある」ハロルドが割り込む。

「いいわ。受けて立つ!」


 アメリアは右手を差し出して、デントと固い握手。


「やれやれ……」


 ハロルドは深くため息をついた。

 朝の光が強くなって、畑の空気は熱気を帯びてきた。

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