主人公が困惑している間に事態が深刻さを増していく序盤の展開で一気に引き込まれました。
そのままホラー寄りのサスペンスとして展開していくかと思いきや、中盤からは人間ドラマの色が濃くなっていき、登場人物たちの思惑の方に焦点が当てられていきます。
この辺りで気づきました。
この物語は「優しい」物語なのだと。
もちろんサスペンスなので緊迫した場面は多いのですが、登場人物たちの善性が物語全体を優しい雰囲気にしているのです。
そして終盤は怒涛の展開!「これぞミステリーの醍醐味」とばかりの予想外の展開の連続には、そこに至るまでの丁寧な人物描写に裏打ちされた説得力がありました。
結末はタグにある通り、文句なしのハッピーエンド。最後まで読んで良かったと思えるお話でした。
一気読みさせていただきましたが、実に読み応えがありました。
始まり方こそなろう系のような冗談じみたとっかかりでしたが、話が進むにつれてギアの上がり方が加速度的に早まっていき、あっという間に飲み込まれた気分です。
ホントに、何気なく描いただけのはずなのに、どうしてそこまで人の心を打ってしまったのか……。
その結果、様々な思惑が交錯し、あちこち飛び回るような攻防戦にまで発展するとは……。
ある意味、本当に価値があったのは、絵よりも主人公自身の才能だったりするのかもしれません。
登場人物が実に個性的で、皆いい味を出しています。
ミステリアスな美女探偵、飄々として掴み所のない謎のボディガード、敵か味方か意図が読めないガールフレンド、わかりやすく悪者然とした悪役……どのキャラも非常に造詣が深く仕上がっています。
また、複線回収も見事で、ラストで畳みかけるように回収されていったのも爽快感がありました。
総じて満足感の高い、スリリングなサスペンスドラマだったと言えます。
読み疲れするような長編でもありませんので、楽しみつつ集中して読むことができるでしょう。
是非とも本作をお手に取り、奇妙でスリリングな旅路を楽しんでみてください。