第八話 後味は爽やかに
不意に、階段を上がる足音が聞こえてきた。その足音は、段々と近づいてくる。あ、これはもしや、まずいのでは。他の三人はというと、全く持って危機感がない。気付けば、西垣先輩まで寝っ転がっていた。
「ちょっ、あの、この足音、先生なんじゃないですか?」
「そうかな~。」
「違うんじゃない?」
「まあまあ雫ちゃん。とりあえずゆっくりしよー。」
三人とも、なぜか相手にしてくれない。え、みんなどうしちゃったの?
足音が止まる。高鳴る鼓動。どっくん、どっくん、どっくん…。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは…瀬本先生ではなかった。
え?誰?すらりとした体躯に、羽衣のようなひだが付いた服を身にまとい、その人は、にっこりと笑っていた。
「あの…どちら様ですか?」
思わず口を突いて出た言葉に応えようと、その人は口を開いた。
ん…。なんか、あったかい…。それに、すごくいい匂いもする。目を開けると、私は机の上にうつぶせていた。
「あ、起きた。雫ちゃん、大丈夫?」
え?あ、あれ?私、さっきまで起きてたはず…。え?
「雫ちゃん、大丈夫?体調悪い?」
ゆっくりと顔を上げると、柔らかな手も一緒についてきた。
目の前にいたのは、心配そうに顔を曇らせた西垣先輩だった。
「あ、すみません…。え、あ、その…」
「あー、ごめんね。つい…」
先輩は私の頭の上に置いていた手を下ろすと、少し恥ずかしそうに笑った。
「たまたま寝顔が見えちゃったから、その、あまりにも可愛くて、つい。」
そのまま『てへぺろ♡』とでも言いそうな雰囲気が漂い、私まで恥ずかしくなってしまった。でも、その、先輩が私のことをなでてくれたのは、その、控えめに言ってものすごく嬉しかった。
「あ~、雫ちゃん起きた~。」
「しずくー、レモンティー買ってきたぞー。」
どやどやと、後ろの扉から二人が入ってきた。
「ほい。」
差し出された黄色いパッケージを受け取る。
「さんきゅ。」
ぴききっ。勢いよくキャップを開け、そのまま口をつける。ごく、ごく、ごく、ごく。
「ぷはー。」
思わず飛び出たその声に、私たちは顔を見合わせて笑い合った。
「あれ、どうしたの?みんな。」
すぐそばの入り口に立っていたのは、不思議そうな顔の瀬本先生だった。
「雫ちゃんがレモンティーを飲んで…」
そう面白そうに告げる西垣先輩の声を聞きながら、そこかしこに漂う温かい雰囲気に、ゆったりと包まれる。
もしかしたら私も、世紀の大発見をしたのかもしれない。そう思うと、思わず口元が緩んだ。
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