第20話 第三皇女と悪役令嬢(前編)
「ティナ。1年経つけど、この生活にも慣れたかしら?」
シャノン様の私室に呼ばれた私は、シャノン様と二人きりでお茶を楽しんでいた。
本来なら、一介のメイドが主人と一緒にお茶なんて絶対にありえない。
でも、『幼馴染だしせっかくだから』というシャノン様のワガママに応え、定期的にお茶を楽しんでいる。
そして、メイドとして働いている私のことを気遣ってくださる。
本当にいい幼馴染をもったわ。
ちなみに、シャノン様が私をお茶に誘うことに対して、先輩メイドの皆さんは『ティナにしか出来ない仕事』と思ってくださっており、私がお茶に誘われる度に温かく送り出してくれる。
まぁ、実際、その日突然お茶に誘われるから間違っていないのだけど。
優雅にお茶を飲んで聞いてきたシャノン様に、主と同じお茶を飲んだ私が小さく頷く。
「はい、お陰様で」
前世の記憶と今世での過酷な生活から得た経験値に加え、先輩メイドの皆さんが優しく教えてくださるお陰ですっかり慣れた。
やはり、どこに行っても経験値と人間関係に勝るものは無いわね。
前世と祖国にいた頃の生活を思い出し、今の生活に心から感謝していると、満足そうに笑ったシャノン様が感慨深そうに私を見つめる。
「それにしても、思った以上に順応が早いわね。もしかして、公爵家で使用人まがいの仕事でもしていたの?」
「アハハハッ……」
間違っていないけど……うん、さすがに言えない。
だって、心優しい彼女がそんなことを知れば、絶対に祖国に怒鳴り込みに行くと思うから。
シャノン様からの質問に苦笑いで誤魔化していると、シャノン様がふと何かを思い出す。
「そう言えば今度、あなたの祖国で勇者帰還と魔王討伐を祝したパーティーが行われるの」
「っ!!」
ということは、小説通りにアルベルト様はアリアと婚約を結んで……
胸が痛んで僅かに顔を歪ませると、意外そうな顔をしたシャノン様が悪い笑みを浮かべる。
「そこで恐らく、勇者と聖女の結婚が発表されると思うんだけど……行く?」
「っ!」
シャノン様の冗談混じりの言葉に、思わず怒りがこみ上げる。
冗談じゃないわ。せっかく破滅回避出来たのに、わざわざ破滅の道に戻りたくない!
ギュッとスカートを握り締めた私は、淑女教育で身につけた笑みをシャノン様に向ける。
「シャノン様、私は侍女じゃありませんから同行することは出来ませんよ」
「それじゃあ、臨時の侍女として……」
「シャノン様、私の気持ちを分かって仰ってます?」
だとしたら、随分と悪い冗談よ。
幼馴染をジト目で見ると、シャノン様が悪びれてなさそうにカラカラと笑う。
「アハハハハハッ、ごめん、つい揶揄っちゃった」
「全く……」
少しは幼馴染として気遣って欲しいものだわ。
今は、主人とメイドだけど。
シャノン様のタチの悪い冗談に心底呆れていると、シャノン様の表情がほんの少しだけ曇った。
「ここ最近、勇者と聖女の仲睦まじい噂が毎日のように流れてくるからなんか……ね」
「そう言えばそうですね」
アリアがアルベルト様達と一緒に魔王討伐に出てから……いや、アリアが聖女認定されて、アルベルト様と親しくするようになってから、2人の噂が巷で流れるようになった。
でも、魔王が討たれてからは、噂と呼ぶにはあまりにも具体的すぎる内容が噂として流れていた。
もしかして、誰かが意図的に流している?
それも、隣国にまで届くような。
そう言えば、私が噂で『毒婦』呼ばわりされるようになったのも、アリアが聖女認定されて、アルベルト様と親しくするようになってからだったわね。
まっ、今の私には関係ないけど。
そんなことを考えていると、『聖女』で思い出したシャノン様が私をジッと見て頬杖をつかれた。
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