SGタワーがある町で。
@Saatianna
2055年
9月2日メメイ地方地震。
9月10日。
前回の地震から一週間が経った。周りの家はボロボロでこの町に残っている人はほぼいない。俺、親友のレイジ、ハンナ。俺らは保護者がいない、と言うよりか「いる」とは言えない。こう言ったのはハンナには血のつながりのある父親がいるからだ。この町唯一の鉄筋コンクリートでできた建築物の「SGタワー(Science Gravity)」の設立者でハンナを人体実験に使い右手の指一本、左手の指四本を使えないものにした。あいつの名前は知らない。知りたくもない。どんなに離れて、逃げようとしても「find robot」という探知型ロボットによって何度も何度も連れ戻されてきた。ハンナを父親から守るためレイジと俺はこの町に残っている。「命を危険にさらしてでも見たい笑顔」を彼女はする。
いつも通り町を囲む山の中、「find robot」からハンナを隠していると頭がクラっとした。「また地震?多すぎよ」ハンナは、余裕そうに不満をこぼした。「グラーングラーンゴンゴンゴンゴン」大きさも長さも1週間前とは比べ物にならない。さっきの余裕さはどこへ行ったのか、ハンナも目の前で大きく揺れる杉の木を目を潤わせて見上げている。その時急に体が軽くなった。というか、体が空に浮いた??近くに存在しているもの全てがどんどん星が綺麗に瞬く夜空に吸い込まれていく。さっきハンナが見上げていた杉が俺に近づいてくる…。太い幹が俺らに直撃した。
土の上にいた。なんでこんなところに自分がいるのかを理解するのに時間がかかった。何時間寝てたのか、ハンナは?レイジは?いろいろな妄想が頭をよぎる。空を見上げるとでっかい星があった。青に白いマーブル模様が地球であることと同時に俺が地球にいないことを理解させた。前も、右も左も、土一面。背後にはSGタワーが立っていた!?情報が多すぎる。なんでこうなっているの?と動揺する気持ちを抑えて、とりあえずハンナ。ハンナを探そう。こんな更地で「find robot」がハンナを見つけられないわけがない。少し歩くとレイジがしゃがみ込んでいるのを見つけた。「ハンナが…」と普段冷静かつ沈着なレイジが放心していた。が、すぐに切り替えSGタワーに走り出した。多分レイジも俺も考えている事は一緒だ。「ハンナを助ける」
円柱形で真ん中がくびれている。上下対象なデザインだから気づかなかったけど、タワーにある濃い鼠色で「SG」と書いた文字が逆さまになっていることから、タワーがまっ逆さになったことがわかった。でも1階にしっかりとした扉があり、逆さまになることを見越してたデザインのように思えた。もう何度もSGタワーには侵入しているけれど、4階より上には足を踏み入れたことはないし、逆さのSGタワーも、もちろん初めてだ。震える足を叩いて、銀色の重い重い扉を引いた。
扉の奥に見えたのは、コンクリの壁。そして青にオレンジのラインが入ったつなぎを着ただらしなくニヤけた長身面長の男!SGの人間だろう。この色の組み合わせがもう無理。頭真っ白になっているとレイジは「お前は誰だ?ハンナを返せどこにいる?」と冷静に質問した。彼はSGのベッチェという名の男だった。「僕もハンナを助けたい。このタワーに詳しいから頼ってね」と急に真剣なまなざしを向けられて同行を許してしまった。というか、何を言ってもついてくるだろう。3人になった俺らは、緩やかな螺旋状の長い長い廊下を怪しい男、「ベッチェ」を先頭に進んでいった。地下トンネルのような灰色の空間には異質すぎる、大きいオレンジ色の扉が現れた。
「1」
と書かれたその扉は、俺たちを待っていたかのように「ぐわーっ」と開いた。扉の向こうには、まばゆい光を放つ光のカーテンがあった。そこにはこう書かれていた。
「重力の験」
縦40マス横30マスに並ぶ座布団4枚分サイズの貯古齢石でできたタイルが並んでいる。
1マスごとに、重力がランダムに上下逆転する。
タイルをマスから出すことはできない。
並んだタイルの向こう岸にあるオレンジの扉を目指す。
「なんだよこれ!」つい心の声が漏れてしまったベッチェの前で強そうに見せるため無口冷静を貫こうと思っていた。のに、取り乱してしまった。レイジも俺の動揺っぷりに動揺してしまい、ベッチェに「ニヤリ」と笑われ、最悪の気分になった。光のカーテンを抜けるとタイルが「ガシャガシャガシャ」と本当に上下に移動していた。こんなのに潰されたら即死だと思う。また足が震えてきた。べしべしと体中を叩いて全身にカツを入れる。扉を目指して走り出そう!としたその時、レイジに腕を掴まれた。「お前、冷静になれよ!ハンナに会えずに死んでいいのかよ!」俺の中で「何か」がちょん切れた。「よくねぇよ!」目が熱く重くなって、涙が溢れた。そうだ、俺はハンナを確実に助ける。「ハンナ!待ってろよ!」喉が切れるほど大きな声で叫んだ。ずっと黙っていたベッチェが「走っちゃえばいーのにー」などと調子に乗ったことを言うからレイジは怒りを含みながら眉をひそめている。ゴールはそれほど遠くないし、ベッチェの言う通りダッシュすればいけそうだ。レイジが耳に口を近づけてきた。「どのタイルも3秒に1回は移動している、タイル1枚、大体1.5メートルはある、1.5メートル× 40枚= 60メートル走るのに、お前でも8秒はかかるだろう?重力逆転のことも考えると、ダッシュで行くのはリスクが高すぎる。いけると思うか?」確かに俺は足が速い方だけど、レイジが引き止めてくれなかったらタイルの下敷きにまたは上敷きになっていただろう。「他に方法あるのかよ」
「このタイル、貯古齢石でできてるって書いてあったよな?!貯古齢石の特性しってるか?!」
と、目も鼻もおーきくして聞いてきた。
「知らないや、その石が何なの?」
「割れやすく、一箇所が割れると全部が細かくなり、砂になる。だよ!!」
俺たちは目を見合わせてから周囲を見渡した。ピラミッド型の金属でできたオブジェ?なのかよくわからない物体が並んでいるのを見つけた。タイルが落ちる直前にこのオブジェを置けば重いタイルを一瞬で砂に変えることができる。レイジと協力し「物体」を、一番手前のタイルが落ちてくるマスにタイミングよく置いた。「パキッパキパキパキッパキッ」割れた瞬間にオブジェをマスから急いで出した。さっきまであんなにも重く、固く見えていたタイルが今では磁石に引き付けられた砂鉄のように上下移動している。思わずレイジとハイタッチをした。心の中では本当に嬉しかったのにどこか照れ臭くて慌てて手を離し「早く2枚目いくぞ」なんて言ってしまった。2枚目以降はすぐに次のタイルの落ちてくるマスにオブジェを移動しなければ自分で置いたオブジェにつぶされてしまうので、休んでる暇はない。
40枚のタイルを地道に割っていき、扉の前に着くことができた。が、貯古齢石のかけらが何度も俺らの体をこすり、全身に痛みを与えていた。何より、レイジが冷静で本当に良かった。レイジがいたから焦って突っ込むことなく無事クリアできた。そう強く感じた。ベッチェは俺らが命をかけて割ったタイルのマスを何食わぬ顔をして歩いてきた。「すごいじゃん。2人で突っ走ってっちゃってすーぐゲームオーバーになると思ったよ。」と手を叩いている。俺らは本気なのに、1人だけ温度感が違すぎる。ベッチェへの怒りを抑え、無視してオレンジ色の扉を押し開けた。また長い廊下が続いていた。
「2」
の扉が開き、再び光のカーテンが現れた。
「鎮静の験」
橋が3本かかっている。右手に心拍数計測器をつけること。心拍数が5回貯まるたび橋が左右それぞれ20センチ細くなっていく。真ん中にある緑の線を頼りに赤い扉を目指す。
カーテンを抜け、時計のような計測器を右手につけると、チッチッチッチッと言う音が鳴り計測が始まった。チッチッチッチッブーと5回目がわかるようになっている。少し歩くと橋があった。橋の下は真っ暗でどこまで続いているのか全くわからない。とりあえず落ちたら死ぬと言う事だけはよくわかった。肝心の端は、文字通り、「ただの紙っぺら」のように見えた。真っ白で艶がなく、それぞれの端の真ん中に緑の線が入っていて、幅2メートル奥行き60メートルほどであること以外、特に変わった特徴はなかった。「2メートル÷ (20+20センチ)は5秒。心拍数5回が緊張を見越して2秒だとすると、5回× 2秒で10秒で60メートル渡り切らなければならない。」レイジが計算してくれた。10秒で60メートルは50メートル走6秒台で走れる俺からすると、正直行ける。レイジは不安気に何か考えている。
「10秒経ったあとは端が崩落すると言うことなのか、一定の細さになったら止まるのかわからない。」
「とりあえず俺なら確実にゴールできるけどやってみようか?」
と言いスタート地点に立った。計測音が少し速くなった。ベッチェと目を合わせたら
「緊張してるねぇ」
と馬鹿にされそうだ。ベッチェと目を合わせないようにレイジの方を向く。目を合わせ、呼吸を整え太ももを叩いた。「ふーっ」と息を吐き、緑の線を頼りに大きな一方を踏み出した。のに、普段のように足が動かない。橋の端が丸めて戻した時の紙みたいに下向きに巻かれている。幅が狭くなっていくのに、ゴールがまだ遠い。あと5メートルほどあるのに、幅はもう50センチメートルを切っている。「チッチッチッチッ」あと1歩のところで幅が5センチメートルになった。真っ暗で、どこまでも続く橋の下が目に入る。力が抜けそうな足をどうにか運び赤い扉の前に飛び込んだ。振り向くと橋が2本、「緑色の線」と言った方がふさわしい橋が弱々しくかかっている。その奥にベッチェとレイジがこっちの様子を伺っているのが見える。遠すぎて何を話しているのかはわからないが、ベッチェが先に走ってくるのはよくわかった。ベッチェは長い足で、何の危なっかしさもなくこちら側にたどり着いた。レイジがスタートラインに立った。「チッチッチッ」という音がものすごく速い。早い音を立てながら、残り10メートルのところまで来た。そこで端の幅が5センチメートルになった。レイジの足が止まり、その場にしゃがみ込んだ。おい何してんだよ!急げよ!と言おうとした時、レイジの橋がラップの芯のように、筒状になっているのが見えた。レイジは豚の丸焼きのような体制で、ちょっと太い鉄棒のようになった橋を掴んで、少しずつこっちに進んでくる。幸いなことに。これ以上橋が細くなる事はなかった。何度も汗ばんだ手が滑り落ちそうになるレイジ。俺は見ていられなかった。ベッチェも辛そうにするレイジから目を離しかけていた。「おい!急げ!」突然ベッチェが叫んだ。レイジがぶら下がっている橋のスタート地点側が1秒ごとに2メートルほどずつ崩落していっている。レイジはあと4メートルほどでゴールできる。が、まずい。ベッチェは迷うことなくうつぶせに寝転び橋の上に身を乗り出し、レイジに手を差し出している。橋の崩落から逃げるようにレイジは頑張って、ゴールに近づいてきている。ベッチェの伸ばした手を、レイジは両手でつかんだ。足だけが橋にかかっていて、ベッチェが裏切ったら、「即」落ちる状態だった。レイジはベッチェを信じたのだ。そして、ベッチェはレイジを裏切らなかった。橋が全て崩落した時、俺たちは赤い扉を抜けていた。
またしても続く長い廊下。ベッチェとの間に、どこか気まずいような照れ臭いような空気が流れる。ベッチェもそれを感じたのか、「まぁなんか話でもするか。」と言い色んな
話をしてくれた。SGタワーの創立が10年ほど前だとか、119階建てだとか知っていることだけでなく、ハンナの父についてもはなしてくれた。ゴビナ・ドベットという名前らしく、ベッチェの幼馴染だそうだ。両親どちらとも超有名建築家で裕福だったゴビナは勉強もでき、スポーツもできるみんなに優しい「絵に描いたような人気者」だったそうだ。科学が大好きだったけど、貧乏だったベッチェは金持ちなゴビナに科学の素晴らしさを伝えれば少しでも実験できる機会が増えるのではと考え、ゴビナを科学の世界に引き込んだ。ゴビナの父はベッチェの狙い通り、庭に立派な実験室を作り、ベッチェは毎日のように通わせてもらった。薬品や実験道具はそこらの中学校の品揃えを超え、実験にのめり込んでいった。特に2人がはまったのは、重力を中心とした物理学だった。第一の扉で使われていた重力逆転技術は2人で最初に見つけた技術だそうだ。遊園地などの狭い範囲に高額で売り、そのお金でSGタワーを建てた。9000億ほどかかったらしく、一番儲かると言われている「化学」の方面でも研究を進め技術を売り、ギリギリのお金で生計を立てていた。7年の工事を終え、タワーの中で実験に没頭する毎日が始まった。研究に追われながらも、ゴビナは結婚し、2人のもとにハンナが生まれ、最高の幸せ生活をタワーの中で送っていた。しかし妻はハンナが1歳の時、交通事故で他界してしまった。その日から2人が話す時間はどんどん減っていき、ゴビナはパソコンでの研究にあてる時間が増えた。ベッチェがゴビナの様子を見にいくと、ゴビナは無表情のままパソコンを見つめているだけで、ハンナを育てる気配はゼロだった。このままじゃやばいと思って、友の娘とわかっていながら、ハンナをタワーから3キロメートルほど離れたいわゆる「スラム街」に捨てた。タワーに帰りゴビナの部屋を覗いても、愛娘がいなくなったことに全く気づいていなかった。ベッチェはハンナを捨てたことを後悔していないらしい。それほどゴビナが病んで、ネグレクト状態になっていたことがわかる。ゴビナに変化が訪れたのは、妻が亡くなってから3年程経った時だった。三年間もタワーの中の部屋の中に閉じこもっていたのに、急にタワーを出るようになり、ハンナを急に連れて帰ってきた。ベッチェは海外での研究会や共同開発プロジェクトなどに参加することが多く、最後にベッチェがハンナを見たのはその時だそうだ。ベッチェが「いやー親子仲良くなって良かったー」と言った。「え?」俺とレイジは驚いた。「今回だって、ゴビナがハンナを連れ去ったんだぞ?」ベッチェは驚いた顔をする。ベッチェとの間に温度差を感じた原因がわかった。ゴビナはベッチェが不在の間にハンナを人体実験に利用し、そのことをベッチェに隠していたのだ。ベッチェはゴビナから「ハンナに会いたいと言う男2人がくるから今タワーにいるなら下にあるアスレチックを案内して」とメールが来たらしい。こんな命がけのアスレチック楽しくねーよと思いつつも、ゴビナの正体は会えば明かされる。そう信じて長い螺旋状の廊下を進み続けた。
数字のない銀色の扉が現れた。ゆっくりと扉を開いた。そこにいたのはハンナとゴビナ。込み上げてくる怒りを堪える。ハンナは部屋の隅で横になって目を瞑っていた。ゴビナは俺たちを見つけ注射器を振り回してきた。ベッチェは絶望と恐怖を感じている顔をしていた。それはそうだろう。長い時を過ごして来た幼馴染が自分の知らない間にこんなに恐ろしい奴になっているなんて普通は信じられないだろう。ゴビナは声を出さず、ただ操られた人形のようにみえる。ゴビナの攻撃を避けているとオレンジ色のTシャツの隙間から背中に白い物体がついているのが見えた。ベッチェは攻撃を避けながら白い物体を取り上げた。人型のマシュマロのような物体が出て来た。「バタン」ゴビナが倒れた。手早くゴビナを近くの手すりにくくりつけた。すぐにハンナの元に行き、怪我がないか確認する。新しい傷はまだ増えていない。ゴビナが目覚めたのは、2時間後位だった。ゴビナは泣き出した。さっきまでの暴れようはどこへ行ったのか目から鼻から水が溢れ出ている。「ごめんなさい、ごめんなさい」心細い声が聞こえた。俺は「いくら謝っても許さないから。」と切り捨てた。「わかっている。許されないのは、でも
娘と、ハンナと!もう一度やり直させたくれ。私の話を聞いてくれるか?」ベッチェだけが頷いた。「私は妻を亡くし、肉体さえ存在すれば、生き返らせることのできる技術の研究を始めた。パソコンにひたすらプログラムし、さっき私の背中についていたマシュマロEXOスケルトンを開発したのだ。体に取り付けることで、本当に生きているかのように、AIとして、存在できるような機械だ。まだ、改善点はいっぱいある中で、私は誤操作で「マシュマロEXOスケルトン」を装着してしまったのだ。その時から私の体は私の意思で動かすことはできなくなった。でも意識はあるからすごく辛かった。AIは私の記憶を利用して、急に娘を連れて来て人体を使った実験をするようになった。俺の責任なのはわかっている。私の意思で育児放棄してしまったこともある。本当に申し訳ない。これで私の辛さ少しはわかってくれるかな?」
4人とも顔中ぐちゃぐちゃになって泣いている。誰も何も発していないけど「ゴビナを責めれない」という空気が流れていた。
少し時間が経ってハンナが目を覚ました。恐怖からか目を開けてからもただ天井を見つめている。驚かさないようにしながらハンナの周りをゴビナを合わせたみんなで囲んだ。ハンナは優しい顔に変わったゴビナを見て涙を流し抱きついた。そのあと俺たちも抱きついた。少しキモいけれどこの時間が続けばいいなと思った。
「地震防御システムが解除され、地球に戻ります。近くの柱や壁におつかまりください。」とアナウンスがなり、俺たちは我に帰り抱き合っていた体を離した。近くの柱を掴みながら、地球に戻ったらSGタワーで「マシュマロEXOスケルトン」を完成させる手伝いをしたいなーとか、新しくできた仲間とどんな生活を送るんだろうとか、ハンナが安全に生きれる世界があることを考えた。
地球に帰ったら何をしよう。
SGタワーがある町で。 @Saatianna
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