第3話 狂人
現在の時刻は夜の1時だ。今すぐに帰って寝たいってのに寝れないこの思いを分かってくれる人がいたら良かったよ。でも、その願いは叶わないようだ。
「おはよう! ゴースト!」
こんな元気いっぱいの同業者がいるからだ。
「やぁ……ベルセルク……」
「今日は良い日だね!」
「どこがだよ……俺なんか今すぐに寝たいんだよ……」
「そんな怒らないでよ」
「明日も学校だってのになんでこんな時間に……」
そんな愚痴をこぼしていたら政府からの通信が入ってきた。
「おはようゴースト。こんばんはベルセルク」
「なぁ、せめて土日の夜にしてくれないか?」
「それだと僕は土曜日は無理なんだけど」
「お前、私立に通ってたな」
「二人とも話を続けていいかな?」
任務の話をそっちのけで喋ってたら少し怒られてしまった。
「今回の任務は薬物工場を潰すことだ」
「それだけ?」
「いや、別件でもう1つある」
「なんだよ」
「そこの工場を経営してる双子の兄弟を排除しろとの命令だ」
「めんどくさ」
「情報によると双子の兄弟は結界を扱ってくると言われている。あと二人はなにもかも似てるからどっちがどっちか見分けはつかないぞそれでは健闘を祈ってる」
そう言って通信は切れてしまった。
「なら、早めに片付けて帰るとするか」
「そうだね」
「なんでお前はさっきから嬉しそうなんだよ」
「別に〜」
あとでしばくと決めたのは黙っておこうと思った。着いた工場は見るからに稼働してないようにしか思えなかった。
「ベルセルク準備しろよ」
「任しといてゴースト」
「俺が先に見るからお前は……」
喋っている間にベルセルクが工場の中に突っ込んで行ってしまった。
「これだからガキのお守りは嫌なんだよ!」
俺は嫌々"ベルセルク"の後を追っていった。工場の中に入ると既に乱闘の後になっていて床には薬物らしきものと逃げている労働者がいた。
「あの野郎……ドンパチしやがって」
その時激しい爆発音から"ベルセルク"が出てきた。
「クソ〜」
「なにしてんだよ」
「あっ! 遅いよー」
「お前が速いだけだろうが」
「貴様らがやったのか!」
奥の方から見るからに標的の人が二人でてきた。まじで見分けがつきにくくどっちが兄でどっちが弟か分からないぐらいだ。
「政府の命令でお前ら兄弟を排除しに来た」
「政府からの排除命令ってことはグリムリーパーか!」
「兄貴! こいつらをぶちのめしましょう」
「弟よ! 結界を使うぞ」
そう言って兄の方は鉛玉3つを立体の三角形になるように投げて結界を作った。
「貴様らはこれで入ってこれまい」
「結界の能力者かよ」
結界を持つものはどんなものでも通すことは出来ないため排除することはほぼ不可能に近い。唯一、結界の力を無視して破壊するやつがいたら赤子の手をひねるようなものになる。
「だが……」
"ベルセルク"は自身の肉体を強化するだけで別に結界を破れるわけではない。そして俺も空間を歪ませる能力があるが結界まで破る力はない。
「どうしたものか」
考えようとした瞬間"ベルセルク"が標的に向かって突っ込んで行った。
「戻れ!」
「壊すのは僕の仕事だよ」
その時、弟の方が指パッチンをしようとしてた。
「避けろ!」
指パッチンをしたとき結界の媒介としていた鉛玉が爆発し"ベルセルク"に向かって飛んでいった。
「やばっ!」
ガードはしたが傷を負ってしまったようだ。
「一旦隠れるぞ」
俺は"ベルセルク"を抱えて空間を歪ませて見えないようにし物陰に隠れた。
「少し痛いが我慢しろよ」
「分かってるよ!」
「声を抑えろ……バレるだろうが……」
俺は"ベルセルク"の口を手で閉じた。
「むぐ……」
「いいか、奴らの兄の方は結界を作る素材が3つあればできるようだ。そして弟の方は無機物ならなんでも破壊できるだと予測した。やるなら兄の方からだ」
兄の方の結界で閉じ込められるなどしたら厄介にも程がある。
「いいか? 俺がやるからお前は奴らの気をそらせ」
「んぐ」
「よし今だ!」
俺は"ベルセルク"と二手に分かれて反撃をした。
「今のやつは結界を張ってない!」
俺は結界を張ってない兄の方に狙いを見えないように近づいた。そして刀で奴の腕を斬り落とした。
「俺の腕がぁぁぁ!」
「兄貴!」
「敵に背を向けるなんて馬鹿ね!」
"ベルセルク"は弟の背中を斬りつけた。
「よくやった。あとは終わらせるだけだ」
たがその時、兄弟が"ベルセルク"に触れた。
「なにしてんだ?」
「へっへっへ……俺の能力は結界の媒介を作ることができる……」
「そして、俺はその結界の媒介を破壊できる……」
「何を言ってるか理解できたか?」
「まさか……」
「そのまさかさ、いつでもそのクソ野郎を爆発することができるんだよ」
どうやら、奴らは"ベルセルク"を結界の媒介にして爆発することができるようだ。厄介な能力を持ってやがる。
「そいつを殺されたくなきゃ」
「俺たちを逃がすんだな」
「ゴースト……」
俺たち"グリムリーパー"は仲間のことは気にせず任務を遂行しなければいけない。だが、俺には"ベルセルク"を殺したくはなかった。
「いいだろう」
「ゴースト!?」
「やったぜ」
俺は奴らを外まで逃がした。初めて命令に背いてしまったのだ。
「任務は終わりだ」
「なんで……」
「早く、家に帰らないとまずいな」
「なんで!」
「どうしたいきなり」
「なんであそこで殺さなかったの……?」
「……」
俺にも正直分からなかった。あそこで殺せば任務は間違いなく終っていた。それでも俺は"ベルセルク"を死なせたくはなかった。
「仲間を殺したくはなかったからな」
「……」
「まぁ、いいから帰るぞ……」
俺は疲労のせいでよろめいてしまった。その時、手になにか柔らかい感触があった。
「へ?」
顔を上げるとなんと俺は"ベルセルク"の胸を触っていたのだ。
「お前! 女だったのかよ!」
「いいから……手を離して……」
俺は今すぐに手を離した。
「すまん……」
「君になら……いいよ……」
「なんか言った?」
「なんでもない!」
そう言って彼女は走って帰ってしまった。
「ラブコメなら他でやってくれないか?」
政府からの通信がいつの間にか入っていた。
「黙ってろ」
「それで今回の任務はどうすんだ?」
「いや、必ず終わらせますよ」
「でもどうやって?」
「逃がす時にGPSを付けたんであとは首を斬れば終わりですよ」
俺はそう言って兄弟の後を追いかけて気づかれず首を斬り落とした。
「任務は終わりです」
「そうか。ならばおやすみ」
そうして今日の任務は終わった。家に帰ってからは既に意識がもうろうとしながらベッドに潜り込み寝てしまった。
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