第2話
カバンから取り出したタバコを咥えて、ライターに火をつけた。
彼と同じものを共有したくて、ある時彼にコンビニでタバコを買ってくるよう頼まれた際に、自分用にもう一箱買った。彼の前でタバコ一つ取り出して、やっと自分が火を持っていないことに気づいた。彼はそんな私を見て、「バカだなぁ」と腹を抱えて笑った。そして、自分の持っていたライターを私にくれた。
彼との思い出の物は、彼と別れてしばらくして全て捨てた、これだけを除いて。彼から貰ったもの。何度もゴミ箱に投げ捨てようとして、結局手を離せないもの。
バカだなぁ。煙を吐きながら、自分でも思った。全くもって無意味な行為だ。タバコを吸うためにライターを持っているのではない。ライターを捨てないために、タバコを吸っているのだ。
次の一本に火をつけようとして、いつもなら2回くらい火花を散らせばつくはずの火が、中々つかなかった。
私は急に不安になって、過呼吸になりながらも急いで包丁を手首に押し当てた。少しずつ引いて、うっすら切れた薄皮に血と痛みが滲んで、今が現実であることを認識した。何度かゆっくりと深呼吸をすると、いくらか不安も和らいでいった。
改めてタバコに火をつけて、思った。いつかガスが切れても、私はきっとこのライターを捨てることはできないだろう。
彼は私を壊してしまった。今となっては、彼に振られたことも思い出しても、涙は出ない。悲しいとも思わない。ただ心にぽっかり穴があいて、その空虚が全身を蝕んでいる。
時間が経って傷は治っても、傷跡はなくならない。火傷の痕のように、醜く残り続ける。
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