第11話 この全員持ってるんじゃないか? 神のスキルとやらを……

 セラス伯のお気に入りという話だったもんな。レアスキルの一つや二つ持っているか……!


 問題は、それがどんな効果なのかだが。


 効果を発揮するその前に、先手必勝!


「ダリヤは後ろで援護しろ! 俺は――【生体支配】、【大気支配】!」


 身体強化を発動して床を蹴り、追い風でさらに速度を上乗せる。


 ドロテアが戦闘に慣れていなさそうなのは、その挙動を見れば分かった。今の俺の動きも、ほとんど捉えられていないだろ。


「安心しろ、命は取らない……!」


 気を失わせられれば、それで。狙いはその無防備な顎先ッ。


 そう、思っていたのだが。


「――気をつけてくださいヴィクターさん! ドロテアさんのスキルは、を操るんです!」 


 運、だと? それはどういう……いや。もう、拳は直撃する寸前だ。今さら回避なんて――と。


 そう思ったのに。


「なにッ!?」


 俺の踏み込みで生まれた床の亀裂。それが、踏み込んだ位置から広がって、いま着地した地点で大きな割れ目を!


 くっ、足を取られて、拳が……!


「きゃあっ」


 悲鳴を上げたドロテアが、俺に驚いてたたらを踏む。


 くそっ、なんでこんなにきつく足が挟まるんだ! 偶然できた亀裂に、これほどぴったりはまることあるか?


「ふ、ふん……。ボクのスキルに掛かれば――」


 次だ。固めた空気、空砲ブラストを無言で放つ。


 だが。


「ん、ぐわっ!」


 躓いて転んだドロテアの頭上を、髪を揺らしながら通り過ぎる。


 ……なんでだよ!


「っつう……」


 こいつ、恥ずかしそうに尻をはたいてるが、攻撃を避けたことすら気づいてないんじゃないか? そんなやつに、二度も。なんなんだこのスキルッ。


「ふん。驚いてるみたいだけど、これくらいボクにとってはなんてことないんだ。なんたって、君が戦っているのはボクじゃなくて――運命そのものなんだから……!」


「運命、だと?」


 確かにさっき、アナスタシアが同じようなことを言っていた。こいつのスキルは運を操ると。


 つまり、その効果は――


「――自分にとって都合のいい偶然を、意図的に引き起こす力。……なのか?」


 俺ははまった足を外そうと寄ってきたダリヤを制し、力任せに引っこ抜きながら考える。


 スキルの名前が【禍福改竄】。つまり、運勢を改竄する力?


 そして、その正解は牢の中から届いた。


「そうです、ヴィクターさん。ドロテアさんのスキルは、幸運と不運の総量を保存したまま操る能力。今のも、ヴィクターさんの不運とドロテアさんの幸運、その度合いがちょうど釣り合ってスキルを使う前と運の総量は変わっていない」


 なんだその力は。つまり、自分に幸運を呼び寄せれば、敵には同じ規模の不運を呼び込むことができると?


 厄介な。


「わたしがやっても、同じでしょうか。……【火精招来】!」


「! 【禍福改竄】……!」


「精霊さん、火の玉を!」


 ダリヤの放った人の頭ほどもある火球は、しかしドロテアに直撃する寸前に掻き消える。


 いったいどういう理屈だ……?


「せ、精霊さん、なんで……ええっ? あの人の魔力が、美味しそうだから!?」


 ……。


 これも、運良く……か? なんだそれは。


「もうっ、次からちゃんとやってくださいね! 魔力ならわたしが余分にでもあげますから! お願いしますねっ!」


「ふふふ、なに話してるか知らないけど。何度やったって結果は一緒だよ。君たちなんかの攻撃はボクに通らないし、逆にボクが攻撃しようとしたら――わたたっ」


 つまづいたドロテアが足元の石を蹴飛ばして、ちょうど俺たちの頭上――天井に。


 と思ったら……!


「――天井が、崩れるだとッ? そんなバカな!」


 ダリヤは……驚いて、足が止まってやがる。くそっ、来い!


「きゃっ! あ、ありがとうございますご主人さま……!」


「ああ」


 ダリヤを抱き抱えても、強化した身体能力なら無事逃げられたが。


 ……こんな予測不能な出来事が立て続けに起こるようじゃ、まともに戦えやしないぞ。なんだこの無茶苦茶なスキルは。


「ふん。確かにアナスタシアは君に愛されてるのかもしれないけど。なんたってボクは――神様に愛されてるんだから!」


 神だと? こいつ、何を言ってるんだ。


「どうせ君たちは知らないんだろうね。この世には神が授ける特別なスキルってものが存在する。ボクのスキルもその一つだ……!」


「そんなものが?」


 だいたい、神って何だ。月神教が崇拝する月神のことか? しかし、どうもそういう感じでもない。


「ふふ、やっぱり知らないみたいだね……! 可哀想に、選ばれなかった君たちじゃ無理はないけどっ。神が授けるスキルは特別製でね。魔力は外から補給されるし、普通のスキルよりずっと強力だ。唯一無二の効果だってある……!」


 ……。


 なにか、その情報だけ聞くと。


 俺の【スキル購入】も当てはまってないか?


「わたしの【火精招来】も、おんなじ? ……あっ、唯一無二ではなかったです……」


 確かに、ダリヤのスキルも近い。里の人間しか持ってないスキルって唯一無二に近いもんだろ。


 案外あるのか? 神が授けしスキル……。


 なんて思っていると。牢の中から声が。


「……私も、それかも?」


「……アナスタシアがボクと一緒だって? そんなわけ――」


「――【福音神授】」


「は? そこ、魔封じの牢なんだからスキルなんて使えるわけ――っ!?」


 途端に溢れる魔力。そして、アナスタシアはメキメキと鉄格子を曲げて出てくる。




 いや――一人で出られるなら最初からそうしてろよ!




「――ヴィクターさんが助けに来てくれないかなって。……ちょっと、期待してたので」



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