第10話 自信がなかったんです。でももう分かりました、ヴィクターさんは私を……!

 通り過ぎる人の会話や、教会内の探索を通して、なんとか地下牢の場所を把握したんだが。


 助けようと地下牢に入ったところで、なぜか罵倒……。


「せっかく助けに来てやったってのに。ずいぶんな台詞だな、アナスタシア」


「えっ。え?」


 なんだ、そんなに目を丸くして。俺が来るとは思ってなかったって顔だな。


「あいにく、俺の目的は金だ。お前のとこの司教が大金をかけて――」


「という建前ですよね、ご主人さま。だって、懸賞金のことがわかる前から動いてましたから。……シアお姉さん、とっても愛されてます」


「なっ。ダリヤ、適当なことを……!」


 なんだその、俺が天邪鬼みたいな言い方は。言っておくが本当に金のためだぞ!


 と、そう弁解しようと思ったその時。


 鉄格子の向こうで、アナスタシアの掠れた声が。


「――もう、私のことなんて。迎えに来る気はないんじゃないかって、そう、思ってたのに……っ」


 そう言って俯いたアナスタシア。


 いま、目元から雫が……。 は? 泣いて……いやいや、あのアナスタシアがそんなことあるか? 最近は会うたびに俺のこと罵倒してたぞ。


 ……やっぱりな。もう一度顔を上げた時には、いつも通りのツンとした表情だ。


 だが。彼女の口から漏れた声は、いつも通り太々しいようで、少しだけ震えていて。




「――仕方がないので、助けさせてあげます……! ヴィクターさんがどうしてもと言うのでっ」




 そう言い切って、最後。


 ――いま確かに、にこりと笑った。


 ちょっと前までの影が晴れた、昔に戻ったような顔で。


「お前……」


 理由はさっぱり分からんが。いま確かにこいつの中で、何かが変わったのか。


「だが。そんな、まるで俺が助けたがってるみたいな……。お前らは本当に人の話を聞かんな」


 いいか、俺はけしてお人好しでお前らを助けたわけじゃ――


「――あと! ここを出たら、ヴィクターさんと話したいことがいっぱいあります。私を助けたいなら覚悟してくださいね。今夜は長くなりますから……!」


 だから! 助けたいわけじゃ……って。


「なんだよ、その嬉しそうな顔は――」


 そんなのもう、文句言ってる俺の方が野暮じゃないか、と。


 そう、つい思ってしまった……その瞬間だった。




「――ボクの、前で。ぺちゃくちゃとムカつく話ばかり……!」




 いつぞや見たドロテアとやらが、青筋を立てて俺たちを睨む。


 もちろん、その存在に気づいてはいた。だがこいつ、ずっと忌々しそうにアナスタシアを見るだけで動かなかったから。

 

 とはいえ、さすがに素通りはさせてくれないよな。


「――なにが地獄だ。結局こうして、アナスタシアには助けてくれるやつがいるんじゃないか……。未開発地区からこんなとこまで来るほど、愛されて」


 ……。愛しては、ないが。


 おいアナスタシア、なんで「そうでしょう」と言わんばかりに微笑んでる。


「私は自分で思っていたより、愛されていたみたいです。貴女と違って」


 煽るな!


「――クソ、クソっ。ボクはずっと……囚われたままなのに……ッ! なんでアナスタシアばっかりッ」


「ご主人さまっ。警戒したほうが……!」


「……ああ。そろそろ来そうだな。手札も分からん相手だ、油断するな」


「はいっ!」


 そんな会話を交わす俺たちに、ドロテアの濁った視線が向く。


「せっかく、目をつけてあげたのに。冤罪だって晴らしてあげてさ。なのに……! やっぱりみんな、聖女の味方なんだッ」


「あの時は助かった。だが、それとこれとは話が別だな。それとも、お前が狸司教の代わりに金でもくれるか?」


「あげたらボクについてくれるって? そんな、思ってもないこと……! みんなボクをバカにして!」


 思ってもないだって? なんで全員、俺の言葉をまっすぐ受け取らん。俺はずっと金のために動いてると言ってるだろうが。


 まあ確かに、それでこいつにつくかと言われたら絶対につかんが。誰が好き好んであの腐れ貴族のセラス伯側に――


「――もう、いい。レアそうなスキル持ってるみたいだし、未開発地区から掬い上げてやろうと思ったのに! もう、全部、どうでもいいッ!」


 来るか。魔力が高まって……!


「お前らみんな……ボクの前からいなくなれ! ――【禍福改竄】!」


 ――! ユニークスキルかッ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る