第17話 商人から熱烈スカウトされる



 馬車は街道を数時間走ったあと、小休止をとることになった。止まった馬車から降りると……。


「すごいですはい、すごいですはい! ガイア氏ぃ……!」


 キャラバンのリーダーであり、最大手商業ギルド――銀鳳ぎんおう商会の商人、キャラバットさんが駆け寄ってきた。がしっと俺の手を握る。


「ど、どうしたんです……?」

「信じられないです、はい! あめーいじんぐ!」

「だ、だから何が……?」


 ぱっと手を離し、キャラバットさんが叫ぶ。


「数時間で、もう道のりの1/3も消化してしまったです、はい!」


 ぶんぶんぶん! と俺の手を上下させながら、興奮している。


「それって、すごいことなの?」


 リィナが首をかしげた。


「無論ですはい! 馬車で三日かかる距離なんですよ? それを数時間で1/3! 通常の三倍以上の速さで進んでいることですはいぃ!」

「なるほど! ガイアの減重グラヴ・ライトのおかげだねっ! えっへん!」


 なぜリィナが胸を張るんだ……。


「それにすごいのは速さだけではございません! 馬車がまるで揺れなかった……!」

「……ガイアが、馬車にかかる重力を限りなくゼロにしてるおかげね」


「通常なら、平地でもがったがった揺れまくるものです! ですが今回はゼロ! いやぁ、恐れ入りました! さすが噂の超有能サポーターさま! こんなことできるのは世界で貴方様ただひとりです! はいぃ!」


 ……なんか怖いくらい褒めちぎられている。いやまあ、元パーティにいたときは褒められなかったから、嬉しいけどさ。


「やはりぜひ、わが銀鳳ぎんおう商会に来ていただけませんかねぇ~。会長秘書に推薦しても……」

「むー! 駄目っ!」


 リィナが俺とキャラバットさんの間に割り込み、両手を広げる。


「ガイアはあたしたちの仲間ですっ! ゆずれませんっ!」

「……彼はわたしたちパーティの中核です。出ていかれては困ります」


 むぅう~っと二人が敵意むき出し。それを、なんだか微笑ましく思ってしまう俺。


「というわけで、すみません」

「毎月定期的な高いお給料をお約束しますよぉ~? 賞与ももちろんご用意しますですよぉ? それでも?」

「金に換えられないんで、彼女らは」

「「……きゅん♡」」


 なんだよ“きゅん”って……。


「OH~……残念無念です……はいぃ……」

「すみません」

「ではでは! 三人まとめて銀鳳ぎんおうのお抱え冒険者に、というのは!?」

「まだ食い下がるのか……」


 どんだけ欲しいんだよ。


「……新人二人を抱えてるパーティを、銀鳳みたいな超大手が抱えたら、周囲から妬まれますよ」

「そーだよっ。オジサン? ガイアは諦めてっ! あたしたちのだからっ!」


 しゅん……とキャラバットさんは肩を落とし、ものすごく残念そうにしていた。ちょっと気の毒になるくらいに。


「まったくガイアさんは、どこでも人気ものだねっ。鼻高々ですな!」

「なんで怒ってるんだおまえ……?」

「わからない!」

「あ、そう……」


 リィナ自身も理由がわかってないようだ。ノエルがため息をつく。


「……自分にふがいないと思ってるのよ」

「というと?」

「……わたしたちのランクが低くて、ガイアに釣り合ってない。悔しいの」

「そうそれ!」


 びしっとリィナがノエルを指さす。


「あたしたちがひよっこなせいで、ガイアさんに迷惑かけてるからっ」

「いや、別に迷惑なんて思ってないよ」


「でもでも、あたしたちがガイアさんに釣り合うくらい凄い冒険者なら、引き抜き話なんて来ないでしょ?」

「……それは、どうだろうな」


「あたしたちもガイアさんみたいに、ちょーすごい、ちょー強い冒険者にならないとだね!」

「……そうね、リィナ。頑張りましょう」

「おー!」


 人から褒められたり求められるのは、気恥ずかしくもあり……そして、嬉しくもある。特に、この二人からだと――な。

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