第16話 護衛依頼


 二日後。俺たちは街の外にいた。馬車が何台も並んでいる。


 俺と……そして銀の剣のギンコさんが、依頼主の前に立っていた。


「初めまして。私は銀の剣のギンコ。ガイアくん、こちらは商業ギルド――銀鳳ぎんおう商会の商人、キャラバットさんだ」


 少し太ったひげ面の男が、にこやかに頭を下げる。


「初めまして。わたくしキャラバットと申します。このたびは依頼を引き受けてくださり、誠にありがとうございますですはい」


「ガイア・グラヴィスです。よろしくお願いします」


 挨拶を終えると、キャラバットさんが依頼の内容を口にした。


「依頼内容を確認いたしますです。今回は、馬車で三日行った場所まで物資を運搬。その護衛を、二つのパーティにお願いしたく存じます、はいぃ」


 ……うん。その通りだ。だが。


「キャラバットさん」

「はいですなんです?」

「その……本当に、俺たち参加していいんでしょうか? この依頼、Aランクですよね? 俺はSですが、仲間たちはまだFなので……」


 本来なら受けられないはずだ。


「問題ないですよね、キャラバットさん」

「もちろんです、はい」


 ああ、そうか。ギンコさん(と銀の剣)がいるから問題ないと見てるんだな。今回の依頼もギンコさんから斡旋してもらったものだし。


 ほんと、ギンコさん様々だ。


「ありがとうございます、ギンコさん」

「いや、勘違いしてはいけないよ、ガイア君。実はキャラバットさん直々の依頼なんだ」

「え……?」


 キャラバットさんがにこっと笑う。


「黄昏の竜の有能サポーター、ガイア氏がフリーと伺いまして、わたくしから直接指名させていただきましたです、はいぃ」


 ……つまり、ギンコさんのついでじゃなく、俺が直接指名されたってことか。


「一体どうして……?」

「ガイア氏の能力は、我ら商人にとって喉から手が出るほど欲しい力なんですはい」


「……そうなんですか」

「輸送で一番大事なのは、商品を速く確実に届けることですからね、はい」


 なるほど。


「というわけだ。今回の依頼の主役はガイア君だよ。我らは君のアシストだ。頼んだよ」

「…………」


 ギンコさんがウインクする。……こないだバーで断ったことを思い出して、ちょっと気まずい。


「ガイア君?」

「あ、はい。精一杯やります。では、荷物に力を付与してきます」


 俺は馬車の列へ。何台も縦に並んでいた。


「あ、ガイアさーん!」


 リィナが手を振る。隣には旅装のノエル。


「挨拶すんだの?」

「ああ。もうすぐ出発する。その前に馬車と荷物に減重グラヴ・ライトをかける」


 ノエルが周囲を見回す。


「……これ全部に?」

「たしかに、お馬さん、荷物、荷台……一つ一つ触るのは時間かかるね」


 リィナの言う通り。だから――俺は先頭へ向かう。


「おや、冒険者さん。護衛、よろしく頼みますよ」

「はい。お願いします。あの、俺が地面に触れるんで、その前を通ってもらえますか?」


「? 別に構いませんが……」


 俺は馬車から少し離れた場所にしゃがみ、手を地面へ。


減重グラヴ・ライト――どうぞ!」


 御者がうなずき、馬車を発進させる。大量の荷物を積んでいるから歩みは重い……はずだった。


 が。


「うぉ!? 急にスピード上がったぁ!?」


 馬車がぐんっと加速。その後ろの馬車たちも、俺の前を通るたび速度を増していく。


 全て通り過ぎたのを確認して、手を離す。


「……ガイア、今なにしたの?」

減重グラヴ・ライトの重力場を作ってたんだ」


「重力場?」

「ああ。地面に手をついて場を作る。そこを通過したものに減重が付与されるんだ」


「……力場を経由させて、一括付与したってこと? 熊魔物のときみたいに」

「そんな感じ」


 前に熊を足止めしたときは加重で場を作った。今回はその逆。


「……なるほど。これなら一つずつ触らなくていい。すごい、ガイア」

「感心してる場合じゃないよ! 置いてかれてる!」


 キャラバン隊はすでに遠く。ギンコさんやキャラバットさんは馬車に乗ってる。残されたのは俺たち三人。


「問題ない。二人とも、近くに寄って」

「「はいっ!」」


 ……近い。近すぎる。


「あ、あの……そこまで密着しなくても……」

「“近くに”って言ったでしょ!」

「……減重するなら、ぴったりの方がいい」


 いやまあ……でも柔らかさとか匂いとか……邪念捨てろ俺。


「いくぞ。減重グラヴ・ライト!」


 俺たちの重力をゼロに。大ジャンプ!


 放物線を描いてすさまじい速度で宙を飛び、やがてキャラバンの真ん中あたりの荷台にふわっと着地。


「す、すんげえな兄ちゃん……」


 御者が目を丸くしていた。


「驚かせてすみません」

「いんやぁ気にせん。それよか……あんなジャンプ初めて見たわ」


 ……重力ゼロならこれくらいは可能だ。


「「…………」」

「あの……二人とも? もう着地したから、離していいんだけど?」


 リィナもノエルも、ぎゅーっと抱きついたまま。離れない。


「ご、ごめん……怖かったよな?」


 いきなりの大ジャンプ、高所からの着地。そりゃ怖いか。


「「え……?」」

「え?」


 ……え?


「あ、あー! なるほど。いやぁん、こわーい!」

「……とても怖かった。ほんとに、こわかった」


 ぎゅーっとさらに強く。


「ちょ、二人とも!? 本気で怖がってるの!?」

「もちろん! きゃー!」

「……しばらく動けない」


 う、嘘くせぇ……。


「ははは、兄ちゃんモテモテだなぁ~。うらやましいぜ!」


 御者に勘違いされてしまった。ち、違うんだって!

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