第11話

 よくある異世界ものの定番——気配察知だの危険察知だの。

 便利なスキルと称されるそれを、転生前の自分なら「いいな」と素直に思ったかもしれない。

 だが、今の自分には恐怖でしかない。


 考えてみれば当然だ。

 守るべき力もなければ、自分の身を守るに足る体力もない。

 察知だけされても、どうにもならない。

 むしろ「危険が近づいているぞ」と事前に知らされるぶん、余計に落ち着いた日常を送れなくなるだろう。


 ——そして、ここは現代日本だ。

 住宅街で「暗殺者が一人、接近中」とか察知して何になる。

 頼むから、そんなスキルは生えないでほしい。


 しかし、ある日、散歩の途中でそれは発動しかけた。

 ふっと胸の奥に浮かんだのは、あの親切な女性の気配。

 彼女が居るのは、通りの角にある小さな喫茶店。

 紅茶の香りが似合いそうな、落ち着いた雰囲気の場所だと、なぜか分かってしまった。


「……いやいやいや、いらないから」


 小声で否定する。

 鑑定能力の使い勝手からして、この「察知」もまた同じく厄介だろう。

 普段から発動しないために、相当な集中力と神経をすり減らしている。

 おかげで街中でも普通に歩けるが、一瞬気を抜けば「ご近所さんの血圧が高めです」とか「向かいの人は財布に2000円しか入ってません」とか出てきかねない。

 冗談じゃない。


 確かに便利そうに見えるスキルだ。

 だが、それは力があってこそ。

 現代日本で、筋力[1]・体力[1]の人間が持つには不釣り合いすぎる。


「鑑定ひとつで、これだけ集中力を使うんだ。これ以上は、勘弁してくれ」


 そう呟きながら、颯真は肩を竦めた。

 もしスキル一覧に「気配察知」が追加されるようなことがあったら、その場で即アンインストールしたいくらいだ。

 いや、アンインストールボタンがあればの話だが。


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