第1話 橋の下の出会い
陽の当たる芝生の上に一枚一枚紙を干してみたものの、そこに書かれた文字は水に濡れて滲んでしまっていた。
書かれた文字はなぜかひとつひとつが非常に大きく、文字と文字の間も空いていたため内容が読み取れないほどではなかった。
だが、どこからどう見てももう使えないそれらを二人で覗き込んだ。
彼女の手伝いをした手前、他人事に思えなかった少年は苦笑いを浮かべながら慰めの言葉をかけた。
「残念でしたね」
しかし、彼女の表情は少年の想像とはかけ離れたものだった。
こんな状況でも、女性は感激で目を潤ませていたのだ。
「この本は無事でよかった」
(この本はっていうか……濡れたのは紙で本じゃないよな?そもそも)
不思議なところが多い女性だったが、興味を惹かれて少年は尋ねた。
「無事でよかったです。そんなに大事な本なんですか?」
「そう、物語を覚えていたの。紙に書いてた文字は、この本の内容を写したものなんだ。この本さえあれば、また新しい紙に書けばいいから大丈夫!」
女性はその本をギュッと強く胸に抱き、安堵のため息をついた。
(書き写さなくても、何回か本を読んで覚えられないのかな?)
気になったことを確かめたかったけれど、うれしそうな彼女の顔を見ると正論を言うのがバカバカしくなった。
(前向きだなぁ)
仲間から嫌われて一人でいじけている普段の自分を思い出してしまい、少年の顔が暗くなった。
すらりと伸びた細長い四肢を突然くるりと翻して、女性が少年に向き合う。
彼は泣きそうな顔を彼女に見られないように、急いでそっぽを向いた。
「私は透子、そこのパチンコ屋のホールで働いてる。少年は?」
「……ヒビです」
「日々?」
「響って書いて、ヒビです」
少年はすぐに説明したことを後悔した。
笑われる。また仲間の姿が脳裏を掠める。
オンチなのに、響なんて!
「響かー」
何やら考え込む様子の透子に、少年の表情が翳っていく。
「ピッタリ!」
「……え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます