第2話 川辺での朗読
川に入って濡れた二人の服は乾きつつあった。
「うん、やっぱりいい声」
大きな岩を転がして運び、そこに腰をかけた透子は両肘にまだ張りのある両頬を載せると満面の笑みを浮かべた。
先ほどより川下に近い場所に移動したため、パチンコ屋の喧騒も遠ざかった。
今は流れる水音と時折漏れる透子の感嘆、そして響が本を読む声だけが橋の下の二人の周りで反響していた。
「なんでボクが……自分で読めばいいじゃないですか……」
次のページをめくるのと同時に、響がぼやく。
不満そうに唇を尖らせる響を見て、透子は一瞬何かを言おうとしてやめた。
「自分以外の声でこの話を聴いてみたかったんだ。こんないい声で読み聞かせてもらえるなんて幸せー」
(いい声……)
その言葉は、響を複雑な気持ちにさせる。響の声を褒めてくれる人は今までもいた。
でも響が歌った途端、みんなもう二度とその言葉を口にしなくなる。
(透子さんはそうじゃないな……)
この本は比較的簡単な文章で綴られている。学校の授業をさほど熱心に聴いてない響でも、読めない漢字などなかった。
だけど、開いたページはどれも手書きでびっしりと振り仮名が振られていた。
(漢字が苦手なのかな)
そう言えば、さっき二人で拾った何枚もの紙。
あそこにでかでかと書かれた大きな文字も、ひらがなばかりだった。
考えごとをしているうちに頭がボーっとして、響の意識は自分が朗読している物語の世界へいつの間にか溶け込んでいった。
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