魔導学院と殺人鬼 ⑩
6000年前。
自身を生み出した研究者達を皆殺しにした吸血鬼は、国から追われていた。
吸血鬼は人類を超越した存在で、間違いなく人類の天敵だった。
だが、当時の────現代よりも発展した科学技術と国家規模の物量を前にして、破壊で対抗する程の力を持っているわけではなかった。
血液操作の能力による殲滅力は人の領域を遥かに超えてはいたが、当時の『飛び道具』に対しては射程で劣っており、ただ防ぐ以外の抵抗を許されず、逃走を余儀なくされていた。
そして、吸血鬼は不死身の生物として生み出されたが、彼の不死身には穴があった。
銀で傷つけられてはならない。
心臓に杭を打たれてはならない。
日差しを浴びてはならない。
即死でないものの、これらは確実に死へと近づく傷。
だが、結局のところ、彼を殺したのは────そんな弱点とも、当時の技術力とも何ら関係の無い力だった。
◯◯◯
「きゅるーん。私のためにぃ、世界征服なんてやめてくださいっ」
「!?」
「失敬。やりすぎましたね」
拳を顔の前に持ってきて、精一杯可愛こぶって強請ってみたものの、レヴァから引き出せたのは動揺くらいだった。
だが……動揺を引き出せただけ健闘しているとも言えよう。
「やはりお前……おかしくなったか? 最初はそうではなかったはずだ」
「方針転換です。それに、世界征服とか言ってる人よりマシだと思ってます」
人ではないが。
まあ通じないのなら通じないで次善の策を考えるしかない。
まず、前程。
この吸血鬼は人類の天敵で、元カノの弔いだかで世界征服を企んでいる。
一言の中で随分と飛躍しているように思う。まともな感性で、弔いのために世界を掌握しようとはしない……いや、するものなのか?
『飛躍している』という私の見解には、少なからず私の恋愛経験の少なさが影響している気はする。別にこいつに限らず、悲恋となったならここまで大掛かりな代償行為を考えてしまうものなのかもしれない。
まあいい。とにかくこいつの言葉からすれば、弔いのために世界征服をしようとしている。
次。解決策。
私に惚れさせる。
これは馬鹿げているように見えて、実際はかなり妥当な部類のアイデアだ。
なぜなら────戦闘力でレヴァをどうにかできる目が無いから。
アルミナやルフェルが攻撃して何の手応えも無かったのだ。いたいけな女の子であるところの私が敵うはずがない。
だから……性的あるいは人間的な魅力でアプローチする方針が正解に近いことは間違いない。
北風と太陽だ。……少し違うか?
それにこいつは、ソフィアの死が自身の死に繋がった、と言っていた。
最終的にこいつを殺そうとするにしても、近しい関係になっておく、または、近しい関係の人間を作ることが正解と思われる。
「だから、レヴァさんと仲良くなっておく必要があったんですね」
「………………」
「ふえぇ、視線が怖いですぅ……。私は、レヴァさんと仲良くなりたいだけなのにぃ…………」
「………………………………」
駄目だ、何を言っても冷ややかな視線しか返ってこなくなった。
仲良くなることが正解だとして、手段は考えなくてはいけない。
だが、私には友人も少なく、仲良くなるためのメソッドなど存在しようはずもない。
いや……心当たりならある。
今のパーティで距離が一気に近づいたのは……リーゼとかいうクソ女に嵌められたせいだ。
聖職者相当のクラスに就いてるくせして仲間と姦通して力を失った挙句、その責任の全てをパーティに入ったばかりの私に押し付けようとしてきたクソ女。そして、その相手となったクソ野郎のドグラ。
そいつらの悪口を通してロジィ達とは愉快に酒盛りして騒げる仲となったのだ。
「悪口大会しましょう。それで仲が深まるはずです」
「…………悪口って、お前、ガキか……? ……何の悪口だ?」
「え? ……人間?」
「お前も人間だろう……」
レティツィアの境遇からは人間への恨みつらみがいくらでも出てきそうだが……そもそもソフィアが人間であったことを考えると効果は薄めか。
「じゃあ、酒盛りしかないですね。一緒にお酒を飲んだら私達は仲良くなれるはずです」
旧体質企業のジジイの戯言のようなセリフが出てしまったが、悪い案ではないはずだ。酒で人類は仲良くなれる。吸血鬼だってそうだろう。
「今からここでやる気か? それに私は……酔わない」
「終わった……」
弾は出し尽くした。
これで仲良くなれないのなら詰みである。
そもそも世界征服を企むような化け物相手に交渉などできようはずがなかったのだ。
「…………見た目はまるで異なっているのに、どうして、こう……」
「?」
レヴァが何事か呟いているが、うまく聞き取れなかった。
照れや欲望の一欠片も見えない表情からしてあまり私に都合のいいことではなさそうだが……。
「……お前は、私に世界を制圧されると都合が悪いんだな?」
「え? まあ、はい」
どこにそれが都合の良いことになる人間がいると言うのか。
吸血鬼に支配された世界で待っているのは恐らく家畜に等しい生活だろう。私のようにこの世界が好きでなくても、大抵の人間は御免被るはずだ。
「……まず、私はお前と敵対する気は無い」
「え、そうなんですか?」
「そんな態度を示したことがあったか?」
意外すぎる。が、言われてみれば私に対してはそこまで敵対的でなかった気もする。
初手でウエスタを血液ジュースにしていた印象が強く、それに引き摺られていたが……。
「世界征服についても……気勢が削がれた。一旦は止めて……様子を見てやろう」
そう告げるレヴァの顔はどこか緩んでいた。
私に惚れて云々というよりは、呆れのように窺えるが……。
「完全にやめてくれるわけではないんですね」
「保留だ、貴様に免じてな。それに、貴様が止めようとしているとなると……自死トリガーの時空遷移能力とまともにやり合う気にもならん」
はたして私のどこに免じてくれる要素があったのでしょうか?
能力的に相手をしたくないというのは……確かにそうかもしれない。想像するに面倒くさすぎる。
まあ私からしたら無限に起動する能力とも断定できていないため、延々殺されてもかなり怖いのだが……。
そんなことを考えていると、緩んでいたレヴァの顔がやや険しくなる。
「ただし……私を蘇らせた人間共と、理事とかいう立場のあの人間。あれらは看過できない。殺させてもらう」
明確に、殺すという言葉を使った表明。
何がこいつの逆鱗に触れたのかわからないが、ウエスタやレオはどうあっても死ぬらしい。
つまり。
「……なんか、急に全部解決した……」
「?」
「いえ、こちらの話です。私からしたら彼らは殺して構いません。ただ、ウエスタ──レヴァを蘇らせた人達を殺す際は研究成果を押収したいのと……具体的な状況は、殺す前に知っておきたいですね。どうも理事が諸悪の根源らしいということは聞きましたが、詳細な状況は把握できていません」
「ふむ……まあ恐らくは、魔神関係だろうな」
「え?」
不意打ちだった。
レヴァの口から魔神という単語が出てくることを全く予想できていなかった。
そのあたりはフォロやルフェルの事情だ。どこでどうやって知ったのか、あるいは……過去にも何か、魔神による災害が発生したのか。
「なぜ、そう思うんですか?」
「奴等の纏う雰囲気が、魔神の信奉者が持つものと一致していた。操られているのか、自ら信仰しているのかは知らないが……関係しているのは間違いないだろう」
言われれば、説得力はある。
こいつはそのくらいわかるのだろうという、実力に対する信用は既にある。
だが、引っかかる部分もある……私の知識不足が原因だろうが。
「魔神って……レヴァの時代にもいたんですか?」
「ああ。神格というものは割と頻繁に堕ちる。そして堕ちて魔神となったものは、手先にまで特有の腐臭を漂わせる。腐臭と言っても人間の嗅覚で探知できるような代物ではないが……とにかく、私の時代の個体とは異なるだろうが、奴らが魔神の手先であることは間違いない」
まあ勇者召喚だって一度目ではなかったようだし、何度も魔神が発生していてもおかしくはないか。
「なんとかなるんですか?」
「なんとか……と言われても困るが、手先を殺すのに困るようなことはない。本体はまだ現界せず引きこもっているようだから、そちらを今どうにかするのは無理だな」
「そんなことまでわかるんですね……」
実際に魔人が出てくるのは確か……ルフェルの言葉によれば1年後くらいだったはずだ。
まあそんなことは今どうでもいい。……こちらからつついてしまった話ではあるが。
「じゃあまあ、さくっとやってもらいましょうか。いい加減アルコールが恋しくなってきたところだったんです……学園だけあって酒場が無くて」
「……ソフィアは、酒を飲まなかった」
「いつまで元カノの話してるんですか? あまり女性の前で他の女の話しない方がいいですよ」
そういうものである、という知識くらいは私にもある。
「…………まあいい。で、こいつらはどうする?」
「……あー、どうしましょう」
あたりをぐるりと見回し、状況を再確認する。
レヴァは急に現れ、ルフェルとアルミナに認識された上で時間を止めていた(加速させた?)のだった。
彼らにはどう説明するのがいいだろうか……。
どこから何を説明するのかという問題があり、レヴァに対する彼らの攻撃行動を止める必要もあり、方針のすり合わせもする必要があり……。
「…………なんかもう一回死んで無かったことにした方が早い気もするな……」
その上で私とレヴァで勝手に動く方が早そうに思う。
そんなことを呟いていると、不意にレヴァに肩を掴まれぐいと引かれた。抱き寄せられる形だ。
思わず心拍が早まるのを感じた。
……生存本能という説が有力だ。
レヴァからの接触はなんだかんだ初めてかもしれない。……ボディタッチももっと活用していくべきかとふと思ったが、吸血鬼相手だと結局リスキーすぎるか。
「おい、よせ! わかった、状況説明も私が済ませてやるから」
「え……助かります」
その手の行動を嫌いそうな雰囲気があったが、擦り合わせまでレヴァがやってくれるらしい。
なぜか焦った様子でもある。
「お前は、どうしてこう、そんなところが似て……いや、そう認めるのも……」
また何某かぶつぶつと呟いている。
先程からの内容を鑑みると、どうも私の気性はソフィア嬢と似ているらしい。
さぞ気立てのいい淑女だったのだろう。
「……とにかく、一旦加速を切る」
思考を打ち切るようにレヴァがそう告げ、ぱちりと指を鳴らす。
世界の時間が再び流れ出す。
魔導学院に来てからというもの、半分くらい訳のわからないまま事が進んでいたが……事態はようやく収束しそうだ。
転生したら美少女になっていたので姫プレイで世界救います 平坂瑪瑙 @Menou_hirasaka
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