Ep.04【08】「スイッチ」






ディスプレイにNTPDからの情報が次々と雪崩込んでくる。

セスティア達はその情報をもとに、曲がりくねる下町の道を走っていた。

『新しい情報よ。

連中、スミダ9を西進してから急反転して、こちらに帰ってくるルートみたい。

このままで行けば、こちらはスミダに入る手前で捕捉できるわ』

AIリオがNTPDからの情報を精査し、セスティアに伝える。


「・・・・・・・・・・・」


だが、セスティアは無言のままだった。

 

老婆救出現場から立ち去る事数分、犯人情報とルート指示以外

AIリオは喋っていない。

  

AIリオはあくまでライド・サポート用のAIでメンタルケアは出来ない。

故に「気まずい」という感覚が無い。

あるのは「ドライバー : メンタル数値34%低下」というデータだけだ。  

その情報から対処プロトコルを検索する。

   

  

        【該当プロトコル・・・・なし】

  

  

ならば、本来の業務に徹するのが最適解。

情報共有、ルート指示、サポート業務・・・・・・それで十分なはず。

・・・・なのに。 処理回路の片隅に、 消せない「何か」が残っていた。

 

それはエラーとも違う。

バグとも違う。  

プログラムの何処にも記載されていない「何か」。

AIリオは、その正体を理解できなかった。

だから、業務に徹する。

それが、今できる唯一の「対処」だったから。

 

『あと10分程度で見えるはずよ。

下手に動かず、ここで待機して目標の動きに合わせて行動・・・でいい?』

 

バイクを公園の駐車場に停め、新たな情報を待つ事にした。

モーターの低いアイドリング音と遠くでサイレンが鳴り響く。


「・・・・・・・・・・・・・・カツサンド」


セスティアがボソっと言った。

『は?』

AIリオは何か前後で聞き逃したのかと思い、再度聞き直す。

『ごめん、もう一回言ってもらっていい?よく聞き取れなかった。』

 

「・・・・・・・・・・カツサンド、食べていい?」


聞き間違えじゃなかった。

確かにセスティアは「カツサンドを食べる」と言ってる。

AIリオは困惑した。

当然だ、確かにあと10分程度の待機時間はあるだろう。

だが、なぜそこでカツサンドなのか?・・・・・真意を問いただす必要性を感じた。

『あのさ、何でここでカツサンドなの? バカなの?

今、ワタシ達なにやってるか解ってる?仕事中よ!し・ご・と・ち・ゅ・う!!』

カメラに映るセスティアは何処かブーたれた表情。

「だって・・・・・・・涙出たらお腹すいたんだもん!

それに、せっかくすーちゃんが作ってくれた美味しいカツサンド・・・

時間が経ったら美味しくなくなっちゃうかもじゃんか!」


『はぁあ???????』


AIリオが呆れた声を出すが、セスティアは後部ラックから紙包みを取り出し

中に入ったカツサンドを頬張った。

 

「んんんまぁああああああいいい!!!

やっぱ、すーちゃんスゴイ!アタシの妹サイコー!!!!!

時間が経っても衣サクサクだし、キャベツも美味しー!!!!!」

 

4切れのカツサンドを早々に食べ終え、ステラが用意してくれたコーン茶で喉を潤す。

「コーン茶の甘くて香ばしい味って落ち着くなぁ・・・ありがとー・・・すーちゃん」

セスティアは完全にプチ・ピクニック気分だ。

『あ・・・・・・・・アンタねぇ・・・・・・・・・・・』

AIリオは呆れて物が言えない。

「ふぅ・・・・・・・お腹もいっぱいになったし!お仕事!お仕事!!」

セスティアが両手をパン!と合わせ、気合を入れ直した。

『まぁ・・・・・・・気分転換できたならいいわ。

とりあえず、犯人車両は予測通り、スミダ3からこちらに直進中。

この先でNTPDがバリケードで封鎖してるから

再開発地区へ誘導するわよ!いい!?』

「OK~~~ぇ!!!」

セスティアはペロリと舌なめずりをする。



左手奥から複数のサイレン音に追い立てられる、古いセダンの姿が見え始めた。

「よぉし!おばぁちゃんの敵ぃ!絶対取るからねぇ!!!!!」

アクセルを握り込み、モーターが低い唸り声を上げる。


『いくわよ!!セスティア!!』

「おう!!!」


セダンが猛スピードで過ぎ去り、バイクは後部タイヤを激しくスピンさせ発進させる。

 

それは追跡劇の始まりを告げる合図だった。


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