Ep.04【07】「棘」
セスティアたちは住宅街を抜け、古い建物が左右にずらりと立ち並ぶ
下町の商店街に差し掛かった頃、ステラから緊急入電が入った。
「ティア姉様!NTPDから緊急依頼が入りました!」
ステラの切迫した声がかなりの事態を予感させる。
「ティア姉様の現在地から2kmの貴金属店で強盗事件が発生。
犯人は2名、現在車両にて逃走中、NTPDは緊急捜査網を展開中です。
逃走車は現在、NTPD所属のドローンが追跡していてトレース可能です。
姉様、合流できますか!?」
「まっかせてー!!すーちゃん!位置情報を転送して!!」
「わかりました!!お気をつけて!!!」
セスティアはスロットルを開け、ドローンの示すポイントへと急行した。
『いい!?犯人は銃で武装してるらしいから、気を付けなさい!!』
AIリオもNTPDから犯人情報をダウンロードしていた。
「OKぇ!!行っくよぉおおおおお!!!」
カウルに仕込まれた赤色灯が点滅し、モーターが唸りを上げ加速する。
犯人の乗った古いセダンが信号を無視して猛スピードで逃走していた。
NTPDからの車両統制でほとんどの車両は自動停止し、突発事故が起きないよう
路肩へと次々停車する。
だが、生身の人間は別で、横断歩道を渡ろうとしていた老婆のすぐ横を
すり抜けるように逃走車両が猛スピードで走り抜けた。
悲鳴とタイヤのスリップ音が同時に周囲に響く。
だが、犯人の車は接触など、まるで無関心のまま再加速し逃走を再開した。
その情報がセスティアのバイクにもリアルタイムで届く。
『犯人と一般人とで接触事故発生!現在、救助隊が急行中!!!
救護は後続に任せて、ワタシ達はそのまま犯人の追跡を続行するわよ!!!!』
「無視なんてできないよ!!何かあったらどうすんの!!!」
セスティアが真剣に怒鳴る。
『後続の救助隊に任せなさい!!今のアナタの任務は犯人逮捕でしょ!!!
それに、ワタシに搭載してるメディキットだけじゃ対応は難しいわ!!!』
AIリオがセスティアを説得しようとしたが、セスティアは聞いてない。
事故現場に到着すると、被害者の老婆が額から血を流して路肩に座り込んでいた。
セスティアは躊躇無くバイクを停め、後部ラックからメディキットを取り出し
全速力で老婆の元へと駆け寄った。
「おばぁちゃん!!!大丈夫ですか!!!」
セスティアの呼びかけに老婆は力無く笑った。
「ごめんねぇ・・・なんかすごいスピードの車がいきなりやってきて・・・・・
避けようと思ったんだけど、足がすくんじゃってねぇ」
セスティアがメディキットから精製水とガーゼを取り出す。
「おばぁちゃん、切れた部分以外で痛い所とか無い?
気分が悪いとか目眩がするとか頭痛がするとかはないかな?」
「うんうん、ありがとね、お嬢さん。
ちょっとだけ車に当たっちゃって、驚いて転んじゃったみたい。
でも、平気よ。心配かけてごめんね」
「倒れた時とかで頭打ってない?」
「ええ、ちょっと額が痛いだけ。あとは大丈夫よ」
「良かったぁ・・・・・・」
セスティアがホッと息をついた。
すぐに傷口を精製水で丁寧に洗浄し、清潔な止血ガーゼを額に貼る。
「他に痛い部分とかあるかな?」
セスティアは膝立ちのまま、老婆に付き添っていた。
その後、すぐに救急隊が現場に到着し、セスティアは救護を引き継ぐ。
老婆はストレッチャーに乗せられ運ばれる時も、セスティアに感謝を告げていた。
救急車のけたたましいサイレンを聞き、セスティアがバイクに戻ると
AIリオが不機嫌な音声で出迎えた。
『アンタ・・・・どういうつもりなの?
アタシ言ったよね?救護は後続に任せろって。
何で追跡止めてまで救護に行くのよ!!アタシの装備じゃロクに・・・・』
「無 視 な ん て 出 来 る ワ ケ な い じ ゃ ん か !!」
セスティアが言葉を遮って吠える。
「今回はおばぁちゃんが軽傷だったから良かったけど、もし・・・・・・
もし・・・・・死んじゃうような重傷だったらどうすんの!!!
出来る限りの事はやらないとでしょ!!!!死んじゃうかもなんだよ!!」
『今の状況で適切な救護が出来る訳ないって言ってんのよ!!
それよりも重大事件の解決が先決でしょうが!!!
そんな事もわかんないの!!! バカ犬!!!!』
「バカはどっちだ!!!
目の前に苦しんでいる人がいるのに無視なんて出来るか!!!!
出来る限りの装備で、出来る限りの事をやるのが、そんなにおかしい!?
こっちは人間なんだよ!AIじゃないんだよ!!
死んじゃたらおしまいなんだよ!!!帰ってこないんだよ!!!
なんでそれが・・・・・・・それが・・・・わかんないの!!!!」
『だから、その結果、他に被害者が出たらどうすんのって・・・・・』
AIリオは雰囲気の変化に気づき、言葉を止める。
セスティアの双眸が潤んでいた。
「・・・・・・もう・・・・・あの苦しみは・・・・・イヤなんだよ・・・・・・
何も出来なくて・・・・・手の温もりがどんどん消えていくのは・・・・・・
もう・・・・・・・・・・・・・・・・・嫌なの・・・・・・・・・・・・・・・」
セスティアは流れる涙を止める事が出来なかった。
フラッシュバックする戦場。
水色の長い髪の少女が横たわり弱々しい笑みを浮かべる。
何も出来なかった・・・・・自分は手を握る事しか出来なかった。
【 ティア・・・・・・・ありがと・・・・・・・ 】
セスティアは人目を憚らず、路上で嗚咽を漏らした。
路面に涙の雨を降らせる。
非力な自分。
無力な自分。
消えゆく体温の感触が蘇る。
少しは癒えたと思っていた記憶。
だが、それは心の奥底に深く深く刺さった棘のよう。
ズキズキと痛み、また心を抉る。
AIリオは黙る事しか出来なかった。
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