Ep.04【02】「末妹、頭痛を知る」





ステラが送られてきた緊急依頼を読み上げる。

「先日ご依頼した『新型試作追跡車両 β』のテスト日程の変更・・・だそうです」

セスティアがカツサンドを両手に持って、訝しげな表情になる。

「あ~・・・たしか何日か前に師匠が言ってたよねぇ。

でも、明後日あたりじゃなかったっけ?テストの日って??」

「はい、ですので『変更』との事です」とステラ

セスティアがパクリとカツサンドを頬張りながら

「ほへっへひふ?(それって何時?)」

「えっと・・・・えっ!?今日・・・・11:00よりとなってます!」

「んぐっ!?」

カツサンドを詰まらせ、慌ててコーラで流し込む。

「はぁはぁはぁ・・・えー・・・11:00って、もう来るじゃん!

なんでもっと早くに連絡しないかなぁ!!」

「そこは・・・お役所仕事ですし・・・・仕方ないかと・・・・・」

意外と冷静なステラが言う。

「え〜〜〜!食べ始めたばっかりなのにぃ〜!!」

と、ブーたれるセスティア。

「今回のテストはリオ姉様と神様のお二人が実施する予定でしたが・・・

どうなさいますか? 一度キャンセルして後日にでも──」

セスティアはジョッキのコーラを一気に飲み干し、机にドン!と置く。

「やる!!! おねーちゃんやる!!!(げふっ!)」

思わずステラは目を丸くした。

「え? ティア姉様お一人でですか?」

「そこはホラ、すーちゃんもオンラインでサポートしてもろて」

「はい・・・・それは良いのですが・・・・姉様・・・本当に大丈夫ですか?」

ステラは何となく色々な心配を抱えた表情になる。

「もぉ〜〜〜!すーちゃん、おねーちゃん信じてよ!!(げふっ!)」

「あっ!いえ、そういう意味では・・・ごめんなさい」

「すーちゃん心配性だなぁ!おねーちゃん頑張るから

心配しないで!!どーんとまかせて!!(げふっ!)」

ぽこんと自分の胸を叩き、アピールするが同時にゲップも出て締まらない。

「は・・・・はい!わかりました!ティア姉様にお任せします!」

ステラも「覚悟」を決めたようだ。

 

ふとステラが壁掛けのレトロな時計を見た。

「・・・・・あと3分ほどですけど」

覚悟を決めたが、何処か不安が過るステラ。

「まじかっ!? すーちゃん! カツサンド持ってっていい!?」

「お仕事中に食べる気ですか!?」

「糖分補給は大事なの!!!」

セスティアはそう言うと、いそいそと紙ナプキンに残ったカツサンドを詰め始めた。


「・・・・・・・やっぱり心配です・・・・・・」


大好きな姉だが、どこか不安が残るのは愛情からなのか・・・・。

ステラが苦笑いを浮かべて言ったその瞬間、

事務所のドアベルがチリンと鳴った。


「え? もう来たの!? はやっ!」


セスティアは残ったカツサンドをくわえたまま立ち上がり

慌てて口いっぱいに詰め込んで飲み下す


ステラが玄関ドアを開けると、そこには行儀よく待つ男女2名が居た。

「NTPD第七技術課から参りました、ミシェル・トウジです」

ドアの向こうに立っていたのは、真面目そうな青年と、

その後ろでタブレットを抱えたスーツ姿の女性。

彼女が軽く会釈する。

「これよりテスト機材の搬入を行います。

付きましては、立ち会いをお願いしたいのですが・・・

えっと・・・ご登録のシスター・リオ様で?」

「あ、いえ、リオはただ今、所用で外出中です。

ですので、代理として当事務所のシスター・セスティアが本日担当いたします」

ステラが丁寧に対応する。

「はい!はぁい! アタシがその“すっごいバイク”乗る人でーす!!」

セスティアはピョンピョンと跳ねながら自己紹介(?)をした。

それを見た技術技官は引きつった笑顔で

「・・・・あ、はい。よろしくお願いします」と何とか言葉を絞り出す。

横でステラが申し訳なさそうな表情でペコリと頭を下げる。

「すみません、姉様・・・いえ、セスティアは・・・

少々興奮気味のようで・・・・・・・普段はもう少し・・・・・・

その・・・・・・落ち着いていまして・・・・」

語尾が小さくなり、思わず目をそむけてしまうステラ。

「いやいや! これくらい元気なほうがテストっぽくて良いですよ!」

技術員の女性が何とかフォローを入れるが

若干声が裏返っているように聞こえるのは気のせいだろうか。


女性がコホンと一息つき、気を取り直して説明を始める。

「では、機材をガレージに運び込みます。

テストナンバーは“G-Proto-07”。

NTPD交通機動隊納入前のフルAI制御試験車両です」

「AI付きぃ!? やった!!話しかけたら返事くれる系!?」

セスティアが目をキラキラさせて質問する。

その姿にまたも引き気味になる女性技術員。

「えぇ・・・多少の自然会話は可能ですが・・・・まだ調整段階でして」

「うおぉぉぉ・・・・燃えるぅぅぅ!おしゃべり機能付きバイクだぁ!!!!」

男性技官は事務所に来てから、ずっとドン引きである。

ステラは申し訳ない気分でいっぱいになり、小さく溜息をついた。


「“ 多少 ”ってところが、姉様の耳には届いてない気がします・・・きっと」


「それじゃ、ガレージのほうにお願いしまーーーーすっ!♪」

セスティアが張り切って技官たちをガレージへと案内し、

その後ろでステラが静かにフォローしながらついていく。

 

ガレージには既に一台のスポーツタイプのバイクが駐車されていた。

試作車という事もあり、全体は黒っぽく、警察車両には見えない。

黒い車体に赤と白のラインの入ったカウルが目を引く。

「ぉおおおおおおお!!!かっっこぃいいいいい!!」

セスティアがペタペタと車体を触り始めた。

それを見ていた女性技官の口元は引きつっていたのだが・・・

「あ・・・・えっと、こちらが”G-Proto-07”です。

約款の通り、無許可の改造や過度な運転等はお止めください。

今回は人物試乗によるAIの反応と対応の確認が主だった内容です。

また、明らかに破壊行動と見られる場合は免責が発生する可能性もありますのでご注意を・・・」

女性技官が注意事項を読み上げている最中だというのに

セスティアが勝手にバイクに乗り込んでしまう。

その時、バイク搭載のAIから小さな起動音が鳴るが、セスティアは全く気づいてない。

「えっ!?あ、あの!すみません!!まだご説明が!」

慌てる技官たち。

「だーいじょうぶ!!アタシ、乗り物ならほとんど乗れるから!!!!」

・・・・いや、そういう事では・・・・とステラが心の中でツッコむ。

完全にドン引きの技官たちは後退りながら

「え・・・あ・・・・で、では残りの注意事項はご自身でご確認ください・・・」

そう言うのが精一杯だった。

「すみません!すみません!!すみません!!!!」

ステラは壊れたオモチャのように頭を上げ下げする。

「あ・・・・あはは・・・・・では、また夕方に引取りに参りますので・・・・・」

そう言い残すと、足早にトレーラーに乗り込み、去っていった。

「ん??お茶でも飲んでいけばいいのに・・・」

セスティアがバイクに跨ったまま、遠ざかるトレーラーを見送った。

 

  

「なんなんですかアレ??」

と男性技官がトレーラーを運転しながら聞く。

「アタシに聞かないでよ!!・・・・ホントに大丈夫なんでしょうね??

バイク使ってるハンターって言うから、テスト任せたのに・・・・」

女性技官は物凄く不安そうな表情を浮かべていた。

「夕方までバイクの形してれば良いんですけどねぇ・・・・」

ポツリと男性が漏らす。

「でも、搭載されている新型AIなら・・・・・・・

たぶん・・・・きっと・・・・大丈夫・・・」

女性技官は泣きそうな表情になりながら、藁にも縋る思いだった。



ステラは去りゆくトレーラーを見送りながら思い出す。

以前、神様(ハヤテ)が

「こいつらと付き合ってると、何故か頭痛ってヤツを体験するんだよなぁ・・・」

と漏らしていた事を。


    「神様、わたしも今、理解しました・・・・・・」


ステラはリオやハヤテの「苦労」を身をもって知ってしまった。






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