Ep.03【EXTRA】「そしてメイドさん」





ステラがストレイキャッツ事務所に来てから10日が経過していた。

当初は慣れない家事で戸惑うかの懸念もあったが、それは全くの杞憂で

一度教えただけで、全般を熟してしまう技能には感嘆するほか無かった。

そんなステラは今、キッチンで鼻歌混じりの上機嫌で何かを作っていた。

他のメンバーはというと、今日は特に目立った仕事もなく開店休業の体。

事務所でコーヒーをすすっていたリオがボソリと言った。


「ねぇ?ちょっと聞きたいんだけど」

「あ?こういうノリ、前にもあったな。で?なんだよ」

何を見るでもなく、ホロ・ディスプレイで時事ニュースを読んでいたハヤテが答える。

「ステラの服・・・・・なんで「アレ」なの?」

「あれって・・・・・家事の専門家っつたら・・・・・そうなんじゃねぇの?」

ハヤテがリオを見るでもなく言う。


「んなわけあるか!!なんでメイド服なのよ!!」


そう、ステラは数日前からゴシックなモノトーン調のメイド服を着用していた。

銀髪ロングにメイド服・・・

黒のレース付きニーソックス、ご丁寧にヘッドドレスまで付けている徹底っぷり。


「あれって、あの店のコスでしょ!!!絶対っ!!

なんで、アンタが持ってきてんのよ!!

つーか、どーやって手に入れた!!!

サイズとかアンタ知らないでしょうにっ!!!!!!」

リオが矢継ぎ早に捲し立てる。

「でも、すーちゃんによく似合ってると思うけど?・・・可愛いと思うなぁ」

リオの正面に座って、ステラお手製のポテチをパリポリ食べていたセスティアが言う。

「ティア・・・・あんた・・・・あの店の事、もう忘れたの?」とリオ

「え?めっちゃ楽しかったけどなー♪ 姐ぇさん楽しくなかったの?」

「楽しくなんかあるかぁ!!!」リオが軽くキレる

「だからよぉ、「ぽっぷん♥きゃっつ」の今の店長はセリアだろ?

で、セリアに頼んで都合してもらったってワケだ。納得したか?」

ハヤテは事も無げに、へろっっと言う。

「アンタってヤツは・・・・・・・サイズはどうなのよ?どうして知ってんのよ」

「そらお前、スーの基本データ見た時に決まってんだろ」

「んなのは、今すぐ忘れろぉぉおおお!!このセクハラドロイドがぁあああ!!!」

ハヤテの頭のこめかみ部(?)を両拳でグリグリと捻りながら押し当てる。

「あだだだだだだだだだだだっ!!!!!!!!

なにしやがる!!!!この暴力シスターがぁ!!!!!!!」

「やかましい!あと、何でアンタを 『神様』 呼びさせてんのよ!!

バカじゃないの!!アンタ!!!」

グリグリグリグリ・・・・・・・

「ありゃ、スーが好き好んで呼んでんだ!!オレが強制したワケじゃねぇよ!!」

「ウソつけぇええええ!!!このクソドロイドがぁああ!!!」グリグリグリグリ!

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ぎゃああ!!!!!」


すると、ステラが笑顔を浮かべ、何やらトレーに乗せて事務所に持ってきた。

「本当ですよ、リオ姉様。

神様をそうお呼びしてるのは、わたしの希望なんです」

「ほらみろ!!この原始人シスター!!!!」

「んんだとぉおおおお!!!!」

「でもさ、すーちゃん。なんで師匠が「神様」なの?助けてもらったから?」

セスティアは山盛りポテチを全部食べきってしまい

コーヒーで乾いた喉を潤しながらステラに聞く。

「そうですね・・・そういう理由もありますが・・・・ん~・・・・・・・

その辺もそのうちにという事にしておいてください、ティア姉様」

ステラは少々困った笑顔で答えた。

「ふ~ん??」

セスティアは解ったような解らないような表情。

「本当に?その服もだけど、この変態ヤローに言われて仕方なしじゃない?

いいだよ?嫌ならイヤって言えばいいし、言いにくいならアタシが・・・・」

リオがハヤテを抱えたまま、半分本気でステラに尋ねた。

「いえ、どちらもわたしの希望ですので。

リオ姉様、ティア姉様、お気遣いありがとうございます」

言うと、ステラはペコリと軽く頭を下げた。

「ん~・・・・まぁ・・・そこまで言うなら・・・・」

何となく納得できない感ありありのリオ。

「そーいや、こないだ買いにいった服は?」

と、聞き直すセスティア。

「はい、あれは大事にクローゼットに保管しています」

と、ステラが答えると

「いや、大事にしなくて良いからね?他のが欲しくなったら何時でも言って。

また一緒に買いにいこうよ!」とリオ

「そーだよ!すーちゃん!!おねぇちゃんとまた一緒にいこ!ねっ!!」

とセスティアが腕をぶんぶん振りながら言う。

「つーか・・・・・お前ら・・・・またスーを何時間も連れ回す気かよ・・・・・」

ハヤテは呆れ顔。

 

それもそのはず。

ステラが来た翌日、朝も早くから全員で街に繰り出し、ステラの服や雑貨を物色しに行ったのだ。

特に服に関しては、リオもセスティアも双方譲らず

激しく競い争い、その戦いは数時間にも及んだ。

着せ替え人形宜しく、ステラは何着も着替えさせられ、帰ってきた時には

既に陽がとっぷりと暮れていたのだった。

そんな事に付き合わされたハヤテはたまったものでは無い。


「ありがとうございます、姉様方。

でも、本当に大丈夫ですから・・・・・・・・・・・・わたし・・・本当に幸せ者ですね」

本当に儚げでいてあまりにも優しい笑顔で言う。

「ん~・・・・まぁ・・・・ステラが言うなら・・・・わかった」とリオ

「でも、本当にまた買いにこーよ!!」とセスティア

「ま、適度適度にな。スーも疲れっちまうしよ」とハヤテ



ああ・・・・ここに来て本当に良かった・・・・・・

ステラはこの偶然と幸せに心から感謝する。



「でさ、すーちゃん、何作ってたの?」

セスティアがトレーに乗る物に関心を抱く。

「あ、すみません。ちょっとレアチーズケーキ作ってみたんですよ。

お口に合えばいいのですが・・・・」




    『  レ  ア  チ  ー  ズ  ケ  ー  キ  !!』




その言葉を聞いた瞬間、セスティアの口からよだれが出る。

「だぁ!!!汚ねぇ!!!このバカ犬っ!!!!」

ハヤテが早速ツッコむ。

「すごい!スーってほんと何でも作れるね・・・・関心しちゃう」

リオは関心しっぱなしだ。

「ふふ・・・・ありがとうございます♥

では、お茶にしましょう」



トレーにはティーポットも乗せてあった。

事務所にはアールグレイの芳醇な香りが漂い

優しく穏やかな時間が過ぎていった。


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