Ep.03【07】「我が家」
春の柔らかな朝日が窓に差し込み、部屋を明るく照らす。
「ん・・・・・・・・」
リオは目を擦りながら辺りを見回す。
隣には幸せそうな寝顔のセスティアがいた。
あ・・・そうか・・・昨日、あの子を綺麗にして・・・何時起きても良いように
二人で交代で待ってて・・・・・・・
「!!!!」
リオが跳ねるように起き上がる。
「えっ!?あれ??いつの間にか寝ちゃってた!!!」
瞬間、フワリと肩に掛かっていた毛布が床に落ちた。
リオが毛布を拾い上げ、不思議そうに見つめる。
「あれ・・・?これ・・・・・いつの間に・・・・」
よく見ると、セスティアにも同じように毛布が掛けられていた。
ベッドには、あの子とハヤテの姿がない。
リオは慌てて、未だ夢の中のセスティアを激しく揺すり起こした。
「ねぇ!!ティア!!!起きてって!早く起きろ!!あほ犬っ!!!」
何度も何度も激しく揺すって、ようやくセスティアが目を開けた。
「ん~~~~~~・・・もぉ・・・まだ眠いよぉ・・・姐ぇさん・・・・・・」
「目ぇ覚ましなさい!!あの子もアイツも居ないんだってば!!」
その言葉を聞いて、セスティアも飛び起きる。
「えっ!!!??あっ!!!ホントだ!!!!どこ行ったの??」
「知らないわよ!とにかく、下に行ってみよ!!」
言うが早いかドタドタと騒がしい足音を立て、2人は1階の事務所へと飛び込む。
ドアを開けると、そこは以前と状況が一変していた。
綺麗に掃除された床やテーブル、散らかし放題だった棚やゴミ箱も綺麗に整頓され
朝日に反射してキラキラと輝いていたのである。
「え・・・・・・・?? あの・・・・・なに・・・・スゴ・・・・」
あまりの事に言葉を失うリオ
「へあぁ~~~~~~~・・・・・・・・」
更に言葉を失ったセスティア
二人がドアで呆然としていると、ハヤテが呆れ顔でやってきた。
「お前らなぁ・・・・オレが居ない時も仕事やれって言ったろ?
なんで2日も休み取ってんだよ。
ったくよぉ・・・・・メシ食えなくなってもしらねーからな!」
と、いきなり怒られる二人。
「しょうがないじゃんか!!アンタとあの子を放ったらかしなんて出来ないよ!
って・・・・そうじゃない!!!あの子!!あの子は!?」
「そーですよ!師匠!!!あの子は?無事なんですか!?」
「あーーーー!うるせぇな!大丈夫だよ!!ったく・・・・・
おーい!ステラぁ!!!コイツら、やっと起きやがったぞ!!」
ハヤテは奥のキッチンに向かって叫んだ。
「「ステラ??」」
リオ・セスティアが聞き慣れない名前を反芻すると、キッチンから小走りで
やってくる、少女の姿が。
「おはようございます、お姉様方。
今日から此処でご一緒させて頂きます、ステラともうしま・・・・・」
最後まで言えなかった。
リオとセスティアが左右からステラを抱きしめていたのだ。
二人共、抱きついたまま泣いていた。
リオは顔を服に埋めて、セスティアは「よかったぁあ!!よかったぁあ!!」
を連呼して、ボロボロと涙をこぼしている。
最初こそ驚いていたステラだったが、すぐに瞳に涙を浮かべ3人が
嬉しさと安堵の涙をこぼし続けた。
「・・・・・・・・で、お前ら、ちったぁ落ち着いたか?」
数分後、あまりにも3人が泣き続けるのでハヤテも呆れ気味。
言われて3人は泣き腫らした顔で照れ笑いを浮かべていた。
コホンと咳払いをしてハヤテが紹介を始める。
「改めて、コイツがあそこから助けた娘で名前は「ステラ」だ。
2階の空き部屋を自室に使ってもらうから、なかよくするよーに」
まるで転校生を紹介する教師のようだ・・・とハヤテは思う。
「ねぇ?一つ疑問があるんだけど・・・・?」とリオ
「はい、リオくん」リオを指差すハヤテ
「すごく長い金髪だったよね?でも、今は綺麗な銀髪・・・プラチナ・・・?
まぁ良いや、とにかく髪色変わってるのは?」
確かにステラの髪は、長さこそそのままだが、金髪からキラキラと陽光に
光る美しい銀髪へと変わっていた。
「まぁ、この娘は色々と複雑な事情があってな?
正直言えば、かなりヤバイ連中が探している可能性があるんだわ。
で、その目を掻い潜るって理由で、髪色を変えたんだ」
ハヤテは、掻い摘んだ風を装い説明する。
「どういう事情ですか?師匠?」セスティアが聞き直す。
「そこはプライベートな部分だ。今はそれで納得してくれ」
「申し訳ありません・・・・セスティアお姉様・・・・・・。
時が来れば、必ずご説明します・・・・・ですので・・・・今は・・・」
ステラが恭しく頭を下げるが・・・・・・・
「「セスティアお姉様ぁ!?」」
リオとセスティアは別の部分に反応した。
あまりの反応にステラとハヤテが驚く。
「いや、お前ら、何に反応して・・・・・」
「ティアが「お姉様」ぁ!? この娘(こ)がぁ!?」
とセスティアを指差すリオ。
「お姉様・・・・・おねぇちゃん・・・・・・あたしが・・・・・おねぇちゃん?」
何か想定外の事で一時的に頭がフリーズしているセスティア。
あまりの反応で驚いたステラが
「あ・・・あの・・・いきなり馴れ馴れしかったでしょうか・・・でしたら・・・」
「そんな事ないよ!!!うん!!!あたし、ステラのおねぇちゃん!!!
あ、アタシの事はティアで良いから、「ティアおねぇちゃん」って呼んで!!!」
物凄い食い気味でセスティアは捲し立てた。
「あ・・・・はい!ありがとうございます、ティア姉様」
とステラが言い直すと・・・・・
「~~~~~~~~~~~んくぅううううううううううううう・・・・・♥♪♪」
セスティアはムズ痒いのか嬉しいすぎるのか、良く解らない表情で
自身で身体抱きしめ、左右にブンブンと身体を振り回し始めた。
その姿を見たリオとハヤテの顔は完全にドン引きだ・・・・。
少し困った顔のステラがリオに向き直し
「あの・・・リオ・・・・さんも・・・・・」と言いかけたが
「あー・・・・アタシは何でも好きな呼び方で良いよ」とあっけらかん。
「はい!では、リオ姉様。今後とも宜しくお願いします」
「うん!固くならないでいいから!!ここはもう、ステラの家なんだから
ゆっくりしてね」
言うと、リオはステラの頭を優しく撫でる。
ステラは何とも幸せそうな顔で甘えるのだった。
それからステラの服などの話で盛り上がっていると、リオがふと言い出した。
「ねぇ、髪色変えても、ここまで長いと結構目立つんじゃないかな?
もう少し短くカットしてみるとか?動きやすくもなるだろうし」
ステラは少し考え
「そうですね・・・これからの事を考えると、もう少し短いほうが
良いかもしれませんね」
そう言いながら、自身の長い髪を指で弄ぶ。
「じゃぁさ、切ってあげるよ」とセスティア
「えっ、ティア・・・・ホントに出来るの?」
リオは普段のセスティアをよく知っているだけに不安な顔だ。
「ぶーっ・・・・!これでもNTDF(軍)で何時もカットしてあげてたんだよ!!!
結構好評だったんだから!!!!」
いきなり不安視され、セスティアがふくれっ面になった。
「あ、あの・・・ありがとうございます、ティア姉様!
わたしの髪はすぐ伸ばせれますので・・・・幾らでも!」と全く悪気のないステラ
「もぉぉおおお!すーちゃんまでぇええ!!
おねぇちゃん信じてよぉお!!!!もぉ!!!!!」と完全にふくれっ面
「ああああ!すみません!!すみません!ティア姉様っ!!!」
ステラが全力で謝罪するが、セスティアはぷぃと横を向いてしまう。
「もぉ・・・・ティア!そのぐらいで許してやんなよぉ・・・!
ステラ困ってんじゃか」
と発端のリオがなだめる。
「お前がいうな・・・・・・・・・・・」
ハヤテの適切なツッコミである。
ややあって、ステラの髪をセスティアがカットする事となった。
おっかなびっくり・・・と思いきや、意外にも順調にカットが進み、リオが関心すると
セスティアがまた不貞腐れる・・・を繰り返しながら、約1時間・・・。
長かった後ろ髪は背中の中央あたりまでカットされ、前髪も特徴的な翠色の瞳を
なるべく隠す・・・という事で長めにするという徹底ぶり。
完成すると、一同から「ぉおお・・・・」という歓声が上がるほどだった。
「ティア姉様・・・・ありがとうございます・・・」
感極まり、ステラがまた泣きそうになったのは言うまでもない。
遅い昼食となり、ステラはリオとセスティアに昼食を作っていた。
軽めの・・・・という注文を受け、パンケーキを焼いている。
甘く香ばしい香りが事務所まで漂う。
「あー・・・・これが普通の調理風景よね・・・・・」
リオが感慨深げに語る。
「パンケーキ♪パンケーキ♪」
子供のようにはしゃぐセスティア。
ハヤテはというと、調理するステラの横でじっと調理風景を見つめていた。
楽しそうにパンケーキを焼くステラに、ふと薄い影が落ちる。
「・・・・・わたし、少量なら食事も出来るんです。
でも・・・味が・・・・解らないんです・・・・当たり前なんですが・・・・・」
ステラは少し寂しそうな顔で独り言のように漏らす。
「分析は出来るんです。
この指数は「甘い」とか「辛い」とか・・・でも・・・それは数字上の話で・・・」
「解るはずだぞ、味」
ハヤテが何の気無しといった風に言う。
ステラは意味が解らなかった。
口内の分析センサーの事だろうか・・・?と疑問に思い
訝しげな表情をしていると
「ほれ、舐めてみろ」
ハヤテがスプーンに取った蜂蜜をステラに強引に咥えさせた。
センサーは「蜂蜜は甘い」というデータを導きだし…
ステラに劇的な世界の開闢の時が訪れる。
データ上の導きではない。
まろやかで濃厚で・・・・口の中で広がるような自然な「甘さ」。
成分や栄養学的な話でもない。
訪れる幸福感と満足感。
人で言うアドレナリンの高分泌が起きたような興奮。
美味しいという感覚。
それは、ステラがこの世に生まれて感じる初めての
「味わう」という行為。
「あああ・・・・・・神様・・・・・・・・・・・・」
ステラが本日何度目かの滂沱の涙を流す。
「これが2つ目のプレゼントの答えだ。
まぁ・・・・・・ちょいと想定と違ったが、結果オーライってとこか?」
ハヤテが言うと、ステラがハヤテを抱きしめた。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!
神様!!!!本当にありがとうございます!!!」
抱きしめたまま、ステラが号泣する。
「ちょっと焦げ臭いよー・・・・ってアンタ!!なに泣かせてんの!!!」
リオがドタドタと走ってきて、両者を強引に引き剥がした。
「あーっ!!パンケーキがぁ・・・真っ黒・・・・」
セスティアは黒こげのパンケーキを見て、泣きそうな表情。
ステラはそんな風景を見ながら、涙も拭かず笑顔を見せた。
「わたし・・・・やっと、帰る『家』を見つけました」
ステラは涙を拭い、柔らかな、心からの幸せな笑みを浮かべる。
「みなさんと・・・ずっと一緒にいさせてください!」
春の光の中で、ステラの笑顔はそよ風に揺れる花のように、静かに咲いていた。
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