Ep.03【06】「神様とよばないで!」





ハヤテは静かに目を開ける。

外はまだ暗い・・・・時間を確認すると、作業開始から2日と数時間が経っていた。

「午前2時か・・・ふぅ・・・何とか内部エネルギーが切れる前に説得出来たな」

安堵の息をつく。

目の前にはステラが未だ眠っていた。

しかし、以前より明らかに血色がよくなり、穏やかな寝息を立てている。

「ふん・・・、寝息まで・・・・・・あの凝り性め・・・・」

ハヤテが独り言を吐き捨てると、静かにチューブアームを引き抜く。

改めてステラを見ると、髪が綺麗に整えられ、身体の汚れも無くなっていた。

一瞬、不思議に思ったが、その「理由たち」が仲良く寝息を立てていた。

リオもセスティアもステラの手を握ったまま、ベッド横で寝落ちしていたのだ。


「・・・・バカだな・・・・・お前ら・・・・」


恐らく、ステラが心配だったのだろう。

髪も身体も綺麗にしてやって・・・まるで愛しい末妹を看病する姉妹のようだ。

ハヤテは思いにふけ、独りごちる。


「ん・・・・・・・」


か細い声がした。

しまった・・・・起こしたか?とハヤテが2人を見るが、未だ夢の中のよう。

 

声の主はステラだった。


ステラはゆっくりと静かに半身を起こす。

ふと、自身の右手に重なり合う2つの温かな掌に気づいた。


その時、ステラの翠色の瞳が滲む。

 


「この方々が・・・・・わたしの・・・・?」



流れる涙を拭いもせず、左手を更に上へと重ね合わせる。


心地良い重み


心地良い体温


今まで、こんな気持ちになった事は無かった。


「その子たちがオレの娘たちだ。

そして、お前の家族になってくれる娘たちだよ・・・・ステラ」


ハヤテが穏やかな声で優しく語る。

ステラは涙を止める事が出来なかった。

こんな・・・こんな嬉しい涙は初めてだった。




「愛している」なら何度も何度も寝室で聞いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・全てその場限りの嘘。




だが・・・・・この温もりは本物だ。

この手の重さは絶対に忘れない・・・・

ステラは心に固く誓うのだった。



嬉しい涙も静まり、2人を起こさぬようにステラは静かにベッドを降りる。

寝息を立てる姉たちを起こさぬよう、そっと毛布を掛けた。

2人の髪を優しく撫で、ステラは微笑みを浮かべる。



「あの・・・・あちらではお名前をお聞きする事が出来ませんでした。

伺っても宜しいでしょうか?」

ステラがハヤテに向かって言う。

「ん?オレか?オレはハヤテだ。

んで、こっちの赤毛リボンがリオで

こっちのよだれ垂らしてる金髪褐色娘がセスティア。

どっちもシスターだよ」


「リオさんにセスティアさん・・・・そして・・・ハヤテさん」


ステラがオウム返しのように言う。

「あーーーなんだ!オレの事は「ハヤテさん」じゃなく『神様』と呼ぶよーに!

なんたってお前に色々してやったからな!ガハハハハ!!!」

ハヤテが照れ隠しなのか冗談めいて言ったのだが・・・


「はい、神様♥」


ステラは素直に優しい笑顔を浮かべつつ言った。

「えっ?あっ?・・・えっ?? いや・・・冗談だぞ?ジョーク。解ってるよな?」

何となくマジっぽい・・・と警戒したハヤテが慌てて修正するが・・・

「いえ、わたしにとってはハヤテ様は『神様』ですので、そのままお呼びします♥」

冗談めかして言ってはいるが、ステラは真剣だ。

「おい、あのな?なんか勘違いしてるみたいだけど、オレは・・・・」

ハヤテが何か言いかけたが、ステラは右手の人差し指をハヤテに押し当てる。


「貴方はわたしに素敵な名前とプレゼントと・・・・

なにより・・・・・・・・

わたしに大切な家族を与えてくれました。


それに・・・・あの寂しい場所から救って頂いた時

わたし・・・気付いたんです。

ハヤテ様の本当のお姿は・・・・・」




   「 ストーーーーーーーーーーーーーーーップ! 」




今度はハヤテがステラの口に自分のチューブ・アームを押し当てた。

「んぐ?」

ステラの言葉が強制的に飲み込まれる。

「あのな?そこら辺、コイツらには内緒にしてんだよ!色々事情があってな。

時が来たら・・・・・まぁ、オレの口から直接話すつもりだから

とにかく、今は黙ってろ。いいな?」

ステラは口を塞がれたまま、上下に頭を振り答えた。

チューブ・アームを口から離すと、ステラが「コホン」と一息つき言う。


「ご事情が有る事、解りました。

では、交換条件として『神様』とお呼びするのは、お許し頂けますよね?」


ステラは可愛らしく悪戯っぽい笑顔で「お願い」した。

ハヤテは出ないはずの汗が出る思いで・・・

「あー・・・もぉ!わかったよ!好きに呼べよぉ!んだよ!もぉ!!」

ステラはその姿を見て、鈴のように笑った。



「でよ、ちょっと提案があるんだが・・・・」とハヤテ

「えっと・・・どういった事でしょう・・・・神様?」

「んぐっ・・・」ハヤテは『神様』呼ばわりに慣れない風だが続ける。


「お前は当然知っているはずだ。お前の「中」の事を」


ハヤテは真剣な口調になる。


「・・・・・・はい」


ステラはその問いに短く答える。

「お前の元いた場所の連中が、何時お前を取り返しに来るかもしれねぇ。

それを阻止する為にも、ちょっと容姿・・・というか、髪型とかを変えたほうが良いと思ってな」

ハヤテは美しい清流のような長い金髪を見て言う。

たしかに・・・この髪は目立つ。


御主人はこの髪を大層お気に召していた。


だが、その御主人はもう居ない。


大切な家族を守るためなら・・・・・

ステラは決意を固めた。


「解りました、神様」

そう答えると、静かに目を閉じる。

ステラの長い髪が薄く光っているようにも見えた。

 

そして・・・金の清流は銀の星屑色へと変わっていった。

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