Ep.02【10】「こりない人たち」






「はい、こちらはノヴァ・トーキョー警察機構です。事故ですか?事件ですか?」

「え・・・・っとあの、アキバ3にある「ぽっぷん♥きゃっつ」って店で喧嘩みたいなんですが・・・・」

「はい、現在複数の通報があり、警察官が現場急行中です。通報ありがとうございました」

 

NTPD中央情報統合センターにはひっきりなしに通報が入る。

今夜はその中でも、アキバ3の店舗内騒乱に対する通報が非常に増えていた。

「何が起きてるっていうんだ!!これで13件目だぞ!!!」

神経質そうにセンター長がコンソール前に座るオペレータードロイドに聞いた。

「現在調査中です。

当該現場にはパトロール中のドロイドオフィサー018と066が急行中」

オペレータードロイドは淡々と状況を答えるのみ。

「くそ!なんだってんだ!!!」

センター長は何も出来ず、ただモニター画面を見るしか出来なかった。

 

その現場・・・・・「ぽっぷん♥きゃっつ」店内では騒乱は続いていた。

吹き飛ぶ机、ガラスの割れる音、何かがぶつかり砕ける・・・男達の怒号は止むどころか益々ヒートアップしてゆき、もはや混沌とした状況だった。


「ケンカはやめてぇえええ!!!ミカの為に争わないでぇえええええええ!!!」


ミカはミカで何故か囚われの姫ポジション。

セリアや他のメイドは、早々に控室へ退避。

リオの我慢は限界に達している・・・・・手は真っ赤になるほど握りしめられ

顔は怒りによって、赤鬼のソレのようだ。

そんな事は露知らず、暴力の応酬と争乱と怒号は増していった。

その時・・・・・・

何処からとも無く、一足の靴がステージに向かって飛んでいく。

 

バフンっ!


間の抜けた音と共にリオの頭に直撃した。

 

ブチン!!

 

セスティアとハヤテは後述する・・・確かにあの時、何かがキレた音を聞いたと。

リオはマイクを片手に持ち、後方にあるマイク音量パネルをMAXまで勢いよく回す。

「ちょっ!」「ねぇさ・・・・」それを見たハヤテとセスティア何か言いかけた瞬間・・・

 


   『 い い か げ ん に し ろ お お お お お ぉ ! 


    こ の  バ カ ど も お お お お ぉ お っ ! ! 』

  


リオの絶叫とそれをマイクで増幅させた声がビル全体を大きく震わせた。

そんな超大音量を直に耳で聞けばどうなるか・・・・・それは自明という物。

耳を抑える者、瞬間的に気を失う者、・・・・店内全員の耳が何等かの異常状態になった。

「ハァハァハァ・・・・・・・・・・」

リオがマイクを投げ捨て、ステージ脇で耳を押さえてるミカの前までズカズカと歩いていく。

「り・・・・・リオナちゃん・・・・・・・・・・・・すごすぎ・・・・・・・」

ミカが目を回しかける前で、リオが般若の形相でミカを睨みつけた。

「は・・・・へ・・・・・?・・・・りお・・・・・な・・・・ちゃん・・・・?」ミカが恐る恐る尋ねる。


「リオナちゃんじゃねぇよ!!アンタが軽率な行動してっから、こんな事になってんじゃねーか!ちったぁ反省しろやぁ!!!!! 

何が自立だ!!!何が運命の人だ!!!!!

笑わせんな!!!!んなのは、親から「大人」と認めてもらってからの話だ!!!!

家出して、メイドごっこして、あんなサル野郎に騙されて何が自立だ!!!」


リオの目は完全に座っていた。

「で・・・・・・でも!パパが・・・・!」


「パパが・・・・とか言ってる時点で半人前なんだよ!!!わかんねぇのか!!!

見てみろ!!!この惨状を!!!全部お前が原因で引き起こされたんだよ!!!!

反省しろっ!!!!!バカ野郎!!!!!!!!!」


「なによ!!!ミカもがんばってたもん!!!ミカ、もう大人だもん!!!」

 




              パンッ!!!

 




静まり返る店内に頬をぶつ、乾いた音が響き渡る。

ミカの左頬が真っ赤に染まり、当人はショックで呆然としていた。

頬を張ったリオは怒りと悔しさを混ぜ合わせたような複雑な表情。

 

「アンタを・・・ミカを想って、アタシ達を雇ったり、自ら敵地に乗り込んだりした

父親の気持ち・・・ちょっとは考えてやれよ・・・・・・汲み取ってやれよ・・・・

全部・・・全部・・・・・ミカを想っての事だろうに。

ミカが本当に可愛いから・・・愛してるからお父さんは無茶したんだろう?

そんな気持ち・・・・そんな親心、無下にするんじゃないよ・・・・・・

自立したいなら、ちゃんと段階を踏んで認めてもらえよ。

真っ向から向き合えば、必ず答えてくれるはずだよ・・・ミカ・・・・・・」

 

ミカは俯き、ボロボロの涙を流したし、ついには赤子のようにワンワンと泣き始めた。

リオは一息つき、ステージから荒れた客席へと歩いていく。

そして、一人の巌のような顔の男・・・・ミカの父 タカシ・イトウの前に立つ。

リオと組長の視線が合う。


「あなたがミカの父親・・・・今回の依頼主のタカシ・イトウ?」リオが問う


「・・・そうじゃ、ワシがイトウ組七代目組長 タカシ・イトウじゃ」組長が答える


数秒の間の沈黙・・・・リオが口を開く。


「貴方の娘を思う気持ちはよく解った。でも・・・ミカとしっかり向き合ってやって。

あの子は自分の道を決める権利がある」

 

リオが真剣な表情で組長に語った。

「ミカは大事な娘じゃ・・・・・ミカの行く道は、このワシが決める・・・・・

間違った道に進まんようにな」


イトウ組長も真剣だ。

「父親は道を指し示すだけ。決めるのは本人だ」

「あの子はまだ子供だ・・・・・親のワシが導いてやらんとならんのだ」


リオに怒りの火が灯る。


「アンタ、さっきから娘のこと大事だ大事だって言ってるけど、本当に大事なら

いつまでも檻の中で飾っておくな!!!!」


「なにを!!!!」組長の表情が険しくなるが、リオの言葉は止まらない。


「あの子は人形じゃない!血の通った”娘”でしょ?娘を思う気持ちはわかる。

でも、それを理由に縛りつけたら、いつか本当にアンタの手から離れていくわよ」


リオが真剣に臆すること無く言葉を放つ。

組長は削り出した岩の様な拳を握りしめ、リオの目を見ながら吠える。


「離れてたら、また取り戻しにいくだけじゃ!!!」

 



「アンタがすべきことは、守ることじゃない!  娘を信じてやることだろ!!!!

信じてやれよ!!!アンタの自慢の娘だろ!!!

極道の娘、ミカ・イトウを父親のアンタが信じてやらないでどうする!!!!!」




リオの緋色の瞳が潤んだ。


「自慢の娘なら・・・・愛する可愛い娘なら・・・・・・・・・・

尚の事、信じてやってよ・・・・・

ケガをしない子供は痛みも知らない。ケガを恐れて親が何時もでも寄り添ってたら

あの子はケガを知らないまま大人になってしまう・・・・いいのそれで?」

 

「・・・・・・・・・・」


組長の視線がステージ上のミカに飛ぶ。


「親が出来るのは、ケガをしても遠くで見守ってやる事だと思うよ。

だからさ、一度真剣に娘と向き合って、お互いの言葉を交わしてみなよ・・・・

自立について・・・・将来についてさ」

 

組長はミカを・・・・愛娘を睨んだまま沈黙する。

長い・・・・長い沈黙。


「・・・・・チッ、言うじゃねぇか、お嬢ちゃん

流石はオメガの奴らを捻り上げた女は伊達じゃないっちゅう事か·・・・・・」


そう言うと、イトウ組長は口元に薄い笑みを浮かべる。

 

「・・・なにっ?・・・コイツが武闘派の連中をやったという話の・・・・・

あの凄腕・・・・だと・・・・・・・・!?」

言葉を聞き、紅蛇若頭が驚愕の表情になった。

 

「え??な・・・・・なにソレ・・・・・・・何の???」

リオが真意を問おうとしたが、イトウ組長の真剣な眼差しに止められる。


「フッ・・・そうか・・・・・ええじゃろ。

あんたみたいなお人からの頼みじゃあ仕方無いのう。

一度ミカと真剣に向き合ったらぁ・・・・」


そう言うと、イトウ組長は踵を返し、紅蛇若頭と対峙する。

「おう・・・・蛇の。娘は・・・・ミカは返してもらうからのぅ・・・・・・」

「元々、そんな気は毛頭無い。勝手にせぇや」

「フン!!!おう、野郎共・・・・帰るぞ。  それと・・・・・ミカ・・・・・」

ステージで泣き崩れていたミカを一瞥する。


「一度家に帰れ。思うことあるなら、ワシとサシで話せぇ・・・・・解ったな」


「・・・・・・・・・・・・・うん」


ミカは小さく頷く。

そう言うと、イトウ組長はボロボロの組員達を連れ、店を後にした。

 

「で・・・・・・その妙なウワサってなんなのよ・・・・・・?」

そう、ぽつりと語るリオの新たな疑問が晴れる事は、追ぞ無かった。

 


「さてと・・・・・・・こっちはコッチの話をせんとなぁ・・・・?」


紅蛇若頭がベナンバとサル店長を睨む。

「「ヒッ!!!」」二人は小さな悲鳴を上げた。

若頭がゆっくりと二人に近づき、ドスの効いた声で詰め寄る。

「お前ら・・・・かなり好き勝手やってくれたようだな?

ちょっと詳しく聞こうじゃないか・・・ん?」

そう言うと、部下達が二人を強引に引っ張り上げ、ズルズル引きずってゆく。

 

「ああぁああああああ!!!!!すみません!!!!すみません!!!!!!

全部!!!ぜんぶ、このサル野郎がやったんです!!!!!信じてください!!!

ああああああああああああああ!!!!!!」

 

「だぁああああありぃいいいいいいん!!!!ミカちゃあああああんんん!!!!!

たぁあすけてぇ!!!!まだ・・・・オレまだ死にたくないよぉおおお!!!

まだ、サイバネ資金も貯まってないのにぃいいいいいい!!ミカたぁああああん!」


二人は引きずられ、股間には大きなシミが出来ていた。

「「うわぁ・・・・・」」セスティアとハヤテが思わずハモる。

ステージ上のミカは完全に冷めてしまい、汚物を見るような目で二人を見送った。

ドアのカウベルが鳴り、ヤクザ全員が見えなくなると、店内に安堵の空気が漂う。

 

「これで・・・・・一件落着・・・・・なのか?」

ハヤテが当然の疑問を投げかける。

「なんですか・・・・ねぇ?後はミカちゃんがお家で話すだけ?」とセスティア

「もー・・・・・どーでもいいや・・・・・」

リオはドッと疲れた顔で、椅子に座り込んだ。

  

 

まさか・・・・・この時、リオに熱視線を送る人物が居たとは知らずに・・・・・。



その後、押っ取り刀で警察が到着したが、当事者が誰も居らず、

「酔っ払ったヤクザ数人が店内でケンカをしたが逃げた」という適当な理由で

事件の収集がついた。

ストレイ・キャッツの面々はというと、「店内に潜入捜査し、騒乱の間に被害者を「確保」」という、どう考えても無理のある内容報告をNTPDに提出。

だが・・・・・・意外にも、何も疑われる事も無く、そのまま事件解決となり報奨金が支払われた。

「・・・・・・・・・NTPDってホントに大丈夫なの?」

とは、元NTPD隊員リオの言葉。

 

不思議な事にハヤテとセリアはちょくちょく連絡を取ってるらしい。

セリアの話では事件後、ミカは退職したとの事。

店長のベナンバとサル店長は?と聞くと「さぁ?」とはぐらかされた。

クワバラクワバラ・・・・・・・

 

「もー・・・・・二度とやりたくないわ・・・・・メイド喫茶とか」 

リラックスした姿で、お気に入りのカップにコーヒーを煎れたリオが感想を垂れ流す。

「アタシはあの服、可愛くて好きなんだけどなぁー・・・「ご主人様ぁ♥」とか言うと、みんな笑顔になるし♪」

と、セスティアがテーブルの茶菓子をポリポリ食べながら言う。

「お嬢もイヌ子も案外似合ってたと思うぞ」とハヤテが他人事のように言った。

「んじゃぁ、今度はアンタがメイドやんなさいよー・・・ホント・・・・

マジで大変なんだからねーアレ!」とリオ

「んんーーーーー・・・・・メイドかぁ・・・・・うーん・・・・」とハヤテが何か考えていると

「・・・・・・・・アンタ、マジでやる気なの?メイド・・・・?」とリオが渋面で聞く。

「んな訳あるかぁ!!!!」

ハヤテがツッコミをいれたタイミングでドアベルの音が鳴った。

「お嬢」ハヤテがリオに指示する。

「んもぉ・・・・・早くドアカメラ直してよねぇ・・・・めんどくさい・・・・」

リオが渋々ドアに向かい、開けると・・・・・

  


  「おねぇさまぁあああああああああっっ♥♥♥♥!!!!!!」

   


金髪の女の子がリオに飛びついてきた。

「ミカ!!!????」

リオが驚くと、ミカが抱きついたまま

 

「ミカ、決めました!!!リオおねぇさまとバウンティハンターになります!!!」

  


        「「「   はぁあああああ?????  」」」」

   


「ミカ、あんな情けないサルとは別れました!!本当の愛をあの時見つけたんです!

おねぇさまぁ・・・・・・ミカを・・・・ミカを・・・・・・抱いて・・・・・♥」

  


ぞわわわわわわわ!!!!

 

リオの全身が一気に粟立つ。

  


「  なんにも懲りてないじゃないかぁあああああああああああぃ!!!!!! 」

   


その後、ミカぱぱがストレイ・キャッツ事務所に突撃してきた事は言うまでも無い。




Ep.02





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