Ep.02【09】「しゅらばっ!!」
ベナンバが店に到着する頃には、陽は既に落ち、店周辺は何時ものように
ネオンや看板の光と騒音と無数の人の波で溢れていた。
「はぁ~・・・・・・・」
大きく溜息をつく。
また、馬鹿共の相手と意味不明な経理作業かと思うと気が滅入った。
さっさと終わらせて、金を調達して帰ろう・・・・そう決めて階段を登ると
何故か今日は何時もの歓声や活気が感じられない・・・・。
不思議に思い、店のドアを開けると、店中は異様な緊張感に包まれていた。
店長代理のサル顔が作務衣姿の大男に締め上げられ、吊るされている。
ステージ上には知らないメイドが2名。
何時ものオタク客に混じって、場違いなヤクザ風の男達がステージに向かっていく場面だった。
それは本能だった。
逃げろ!これは鉄火場だ。そう彼の全神経が告げる。
だが・・・・・・・・。
「おんどれ・・・・・・・誰じゃぁ?」
地獄の底から響くようなドスの利いた声に問いかけられた瞬間、身体は硬直し
指一本動かすことが出来なくなった。
「あ!あああ・・・・!!店長ぉぉおお!助けてぇえ!!殺されるぅうう!!!」
サル店長が全くもって情けない声でベナンバに助けを乞う。
「あ・・・・・・・あ・・・・・・あの・・・・・・・」
ベナンバが身じろぎ立ち尽くしていると、ヤクザ達が強引に店内に連れ込む。
作務衣姿の男の前で正座させられ、周りはヤクザに取り囲まれた。
「おどれが・・・・ワシのミカたん・・・誑かした張本人かぁ・・・・・ぉおお?
ワシがイトウ組 組長と知って、その可愛いい娘を拉致して下働きさせとったんか?
お?どうなんじゃ?・・・・・・・・・・・あ?」
ベナンバは震える声で説明する。
「ら・・・・拉致なんて・・・・・・ミカ・・・・・・じゃないミカさんは・・・・ご自分で・・・・その自主的にぃ・・・・・・ここに来られ・・・」
「あ゛ぁあああん゛!????? なんか言うたかのぅ!!!!!!!!???
お?なんじゃ?ワシの娘が間違ごぅた言うんかぃ!!!!ダボがぁ!!!!」
イトウ組組長の剛腕がベナンバを一瞬で吊し上げる。
「ぐぇえええええ・・・・ぐるぢぢいい・・・・」ベナンバが苦悶の表情になる。
「やめてパパ!この人は違うの!!ここに来たのはミカの希望なの!!!!
そして・・・・・ここでミカの運命の人と・・・・・・・出会ったの・・・♥」
ミカが空気を読まず、ベナンバと同じく隣で正座させられてるサル店長を見つめる。
「へ?え?あ・・・・あの・・・・ダーリン?」
そう言いサル店長がミカを見た瞬間・・・
サル店長は見事に宙を飛び、入口ドアまで吹き飛ばされた。
ステージ上には、激しい怒りのより獰猛な獣と化したミカぱぱ。
店内は水を打ったように静まりかえっている。
ただ3人は違った・・・・・リオとセスティアとハヤテは頭を抱えていた。
「どうしよう・・・・これ」とリオ
「どーしたらいーんだろ・・・」とセスティア
「なんだコレ・・・・・・」とハヤテ
三人が三様で悩んでいると、またも呑気なカウベルの音が響く。
「ん?なんだコレは?」
入ってきたのは、またもや店の雰囲気とは毛色の違ったスーツ姿の男。
夜というのにサングラスを掛け、痩せてスラッとした姿だが只者ではない雰囲気を
纏っていた。
その後ろには、やはりメイド喫茶には似つかわしくないタイプの男達6名。
スーツ姿の男が店内を見渡す。
ステージ上の作務衣姿の男を見た時、スーツ姿の男の目色が変わった。
「てめぇ・・・・店(ここ)が紅蛇の物って知ってて、カチ込んだのかよ・・・え?」
ミカぱぱとは違う、冷たい殺気が店内を覆う。
「貴様ぁ・・・・・ヘビんとこの・・・若大将やないかぁ・・・・・」
ミカぱぱの凶暴な瞳と紅蛇の若頭の冷たい瞳が激しく交差する。
その時・・・・・ベナンバが思わぬ行動に出た。
「こ!こいつら!店を荒らしにきたんです!!!た・・・・助けてください!!!」
なんと、紅蛇幹部に助けを求めたのである。
「いい度胸だ・・・・・・・イトウ・・・・・・・・生きて帰れると思うなよ・・・・・」
「かかってこいや、このドサンピンがぁ・・・・・!!!!!!!!!」
ぉぅううううりゃああああああ!!!!!!!!!!!!っっっ!!!!!!
ンダコラぁ!!!!!!!!ぶっ殺してやらぁああああああっ!!!!!!!
上等じゃボケがぁあああああ!!!!
双方の組員が一斉に乱闘を始める。
店の装飾は吹き飛び壊れ、怒号と悲鳴と破壊音が店内を制圧する。
他のオタク客にも飛び火し、負傷する者、悲鳴を上げる者、何故か動画を撮る者
店内から脱出を試みる者と完全に制御を失っていた。
すると・・・一人のオタク客が店内の隅で怯えるメイドを見かける。
その姿を見たオタクの心に何故か変なスイッチが入る。
『 ここでメイドを守らなくて、なにが御主人様か・・・・・! 』
オタク客はスックと立ち上がり、ステージのマイクを持ち叫ぶ
「同志たちよ!たちあがれ!!我らはぽっぷん♥きゃっつ騎士団!!!!!
姫たちをお守りし、死ぬ事こそ騎士道と知れっ!!!!!
今こそ立ち上がれ!!!!姫達をお守りするぞぉおおおおおお!!!!!!!」
それまで店内で怯えていた客たちは、その声を聞いて瞳に変な炎が灯る。
「やらいでかぁあ!!!」「やったらぁああああ!!!」「うぉおおおおお!!!」
「リオナ姫は拙者が命を掛けてお守りするでござるるううううううう!!!」
「ぶっふぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「ぶひひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
もう店内は混沌(カオス)である。
数十名のオタク客が徒党を組み、大喧嘩を繰り広げるヤクザ達に突撃する。
突然の襲撃に混乱し、一方的に殴られるヤクザ。
だが、プロである組員達はすぐに立て直し、反撃に出る。
薄暗い店内で30人以上の男達が怒声をあげ、大喧嘩を繰り広げる。
では、当事者のサル店長とベナンバはというと、ステージ脇で醜い言い争いをしていた。
「このサル野郎!!なんでイトウの娘なんか入れた!ボケ!!!」
「あんたが店に顔出さないからだろ!!デブ!!!」
「てめえ!店長にむかって!!!」
「なぁあにが店長だ!!!散々店の金、ピンハネしてたくせに!!!!」
「あれは必要経費だ!!!てめぇこそ!!なんだその趣味の悪いキンキラなスーツは!そんなもん許可した覚えねぇぞ!!!!」
「これこそ必要経費だ!!!デブ!!!!!」
「このサル!てめぇええ!!!」
「んだぁああああ!!!デブ!!!!!」
なんとも醜い。
そんな収集がつかない店内で、一人ワナワナと肩を震わせ怒りを貯める人物がいた。
「・・・・・・・・・りきってたのよ・・・・はりきってたのよ・・・・・・
初めての指名依頼で・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やっと・・・・・ハンターとして・・・・・認められたって・・・・・・思ってたのに・・・・・」
リオ、その人である。
隣で見ていたセスティアと何時の間にか近寄ってきたハヤテはリオの内なる怒りに
気づいた。
「お・・・・・お嬢?・・・・れ・・・・・冷静にな?な?」とハヤテ
「姐ぇさん?あの・・・・・・ねぇさん?」とセスティア
リオの怒髪天は頂点に達しようとしていた。
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