Ep.01【08】「うろたえ」






「お・・・「狼」6名通信途絶、残る2名は現在目標追跡中・・・」

オペレーターはダリルの顔色を伺いながら報告をする。

ダリルは報告の声に反応する事も無く、ただうなだれているだけだった。

オペレーターがモニターに目を戻すと、本部よりホットラインが入る。


送信者名は「ロン・ジェファーソン」


「だ・・・・・・ダリルさん、ロンさんからホットです」

ダリルは弾かれたように顔を上げる。

その表情は恐れと焦りと憔悴の入り混じった青い顔だった。

「い・・・・・・今は手が離せないと伝えろ・・・・すぐに連絡すると」

「し、しかし・・・・・・」

「うるせぇ!!!そう伝えろ!!!」

ダリルは吠えるようにオペレーターに指示する。

通信を繋ぎ、ロンの無表情で冷酷な姿が映し出される。

「ろ・・・ロンさん、ダリルの兄貴は現在多忙で、後ほど折り返しご連絡するとの事です」

オペレーターは震える声で話しかける。

ややあって、ロンは目を細め低く小さいが通る声で話し始めた。


「解った。ダリルには返信は不要と伝えろ。あと・・・」


オペレーターはカラカラの喉に唾を飲み込む。


「退路は既に無いとだけ伝えておけ」


通信が切れ、バンの中には低い走行音だけが響く。

オペレーターがダリルを再度見ると、遠目でも判るほど怯え震えていた。

ダリルは「殺される・・・・ころされる・・・・ころされる・・・・」と

小さく呟くだけ。

その時、本部プロデューサーからも情報が入る。

「「阻塞」準備完了。指示を待つ」

「ダリルさん、「阻塞」準備出来ました。指示を・・・・・」

オペレーターが座席でガクガク震える男に指示を求めた。

弱々しく顔を上げたダリルは蜘蛛の糸を掴む犍陀多(かんだた)の如く

必死の形相で答えた。

「すぐに出せ!!目標の・・・奴らの前に展開させろ!!絶対にしくじるな!!」

ダリルの必死の形相にオペレーターはビクつきながらも尋ねた。

その声に一瞬、オペレーターにも嫌な予感が頭を過る。

ふと気づくと、自身の両手は多くの汗で濡れていた。

「て、展開ポイントは?」

「そんなもん、お前らで考えろ!!

周りの被害なぞ気にするな!!止めろ!殺せ!!

何がなんでも、あのクソ野郎をバラバラにしろ!!必ず殺せ!!いいな!!」

ダリルの咆哮に圧倒され、オペレーターはプロデューサーに指示する。

「「阻塞」を即時出せ。展開場所はルート2 西側 ウエノ45番ポスト付近」

「ウエノ45?本気か?」

プロデューサーが指示の再確認を求める。

「問題無い。全火力を集中して、確実に目標を仕留めろ」

「了解。出撃させる」

通信が切れ、再度ダリルを見やる。

「ダリルさん、「阻塞」はウエノ45番で仕掛けます」

オペレーターが小声で伝えたが、ダリルに聞こえたかどうか・・・・。

ダリルは小さく縮こまり、両手を強く握りしめていた。

「なんで・・・!なんで、俺が!くそっ!くそっ!!くそっ!!」

運が悪かった、部下が無能過ぎた、目標が狡猾すぎた・・・

幾つもの言い訳が頭を過る。

だが・・・・・ロンの冷徹な瞳が全てをかき消してしまう。

その色のない深い深い洞のような冷たく暗い瞳がダリルの全神経を焼く。

瞬間、ダリルは股間に生暖かい感触をおぼえた。

感触に気づいたダリルは、顔を歪めて膝を強く握り潰す事しか出来なかった。


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