Ep.01【07】「群狼」






セーフハウスを脱出した一行はAI運転の車列をすり抜けるように加速していく。

「このまま最短距離で中央議会裁判所のあるチヨダ4までは約45分ってとこだが・・・恐らく、連中も途中で網張ってるよなぁ・・・・絶対。

って、事でお嬢!ルートAは破棄してBに変更だ。

若干、遠回りにはなるが環状フリーウェイならコイツの独壇場だ!ぶっ飛ばせ!!」

「了解っ!!行っくわよーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

リオは軽くモーターを吹かし、右に見える45Wゲートへとバイクを滑りこませた。

環状フリーウェイは文字通りノヴァ・トーキョーを一周出来る構造になっており

最短距離とは逆方向から回り込む事でリスクを避けるルートを作成していた。

フリーウェイに上がると、数台の一般車やトラックが走行している。

98%は自動運転で走行していて、無用な追い抜きや煽りは存在していない。

そんな理路整然とした車両群をファントムが高速で抜き去っていく。

「うっひょー!はっやーーーーーいいい!!!」

エア・インカム越しにセスティアのはしゃぐ声が漏れ聞こえてきた。

「はしゃぐのも良いけど、ちゃんと警戒もしてね!なんかあったら報告っ!!」

「へ?? 変なのって言うか・・・・・・

さっきから後方7時上空にドローンがついてきてるけど・・・?」


「「んなっ!?」」


またもリオとハヤテはハモる。

「何時から!?」リオが運転しながら問う。

「気付いたのは5〜6 ッ分前かな?だってドローンなんて珍しくないし」

「バカぁ!!!それ間違えなく敵の監視ドローンよ!!」

リオが叫ぶ。

「OKぇ!!んじゃあ排除するねーっ♪」

セスティアは言うが早いか、器械体操の鞍馬よろしく

その場で身体をくるりと半回転させ後ろ向きに座りなおした。

「アンタなんて無茶な事を!」

「おぅ!!巨乳ねーちゃんやるじゃねーか!!」

「ああああああああああ!!!こわいぃぃぃい!!!神様ぁああああ!!!!」

三者三様の反応。

「んじゃあ、シューティングスタートぉ!!」

セスティアは右腰にぶら下げている、軍用大型ハンドブラスターを抜き取り構える。

確かに7時後方、距離200m上空に偵察ドローンがピタリとファントムを追随していた。

照準を定め、真剣な面持ちのセスティアは短く2回引き金を引く。

短い発射音が響き、二筋の電光がドローン中央に直撃し

盛大に煙を吐きながら地上へと落下していった。

「よっし!!!ジャックポットぉお!!♪」

セスティアは大いにはしゃぐ。

「え・・・アンタ、走ってるバイクから上空のドローン狙撃したの!?」

リオは運転しながら大いに驚く。

「おーーーーーーーーーっすげぇスゲェ!!射撃の腕はお嬢以上かもな」

ハヤテも手放しで称賛した。

「ああああぁああああ!!!アメリアぁああ!!愛しているよぉぉお!!!」

ゴールドマンは其れどころでは無かった。

「へっへーっ♪ アタシ射撃には自信あるっすよーっ♪」

セスティアは後ろ向きに座ったままガッツポーズをする。

「でさ、リオさん?

アタシの事「アンタ」じゃなくて名前で言ってほしいかなぁって。

セスティアが長いなら「ティア」で良いよ!みんなもそう呼ぶし!」

「解った!ティア、よくできました!!!」

「うんっ!!!!!♪♪」

満面の笑顔を浮かべるセスティア。

その姿を見ていたハヤテは人懐っこい大型犬を想像する。

「なんつーか、つくづく犬みてーなネーチャンだなコイツ・・・」

ハヤテはボソッと呟いた。



中央議会裁判所の近辺某所。

整然と立ち並ぶオフィスビル群の谷間を無数の車が行き来している。

近辺の会社に勤務するスーツ姿の男性は足早に歩道を歩いていた。

ふと、目の端に何か異物を見かける。

大通りの長い交差点の真ん中で2台の宅配用ドローンが道を塞ぐように停止していた。

AI運転の車はその場で停車し、今ではあまり見かけなくなった大渋滞が引き起こされている。

「なんだあれ?何処かいかれてんのか?」

男性が凝視した瞬間、宅配ドローンが巨大な火球となり周辺の車列を巻き込んで

大爆発を起こした。

なす術も無く吹き飛ぶ車両、爆圧で粉々に砕け散るガラスやディスプレイ。

運悪く近くに居た人だろうか、街路樹に引っかかってぶら下がっていた。

交差点は一瞬で阿鼻地獄の様相に変化していた。

吹き飛ばされた男性は何とか身を起こすが、自身の左足が無くなっている事に

気がついたのはそれから10秒後だった。


「ちっ!各所で同時爆破テロが起きてやがる。 全く派手な連中だぜ」

ハヤテは運転サポートを熟しながら、同時に情報収集も行っていた。

「な・・・・・そ、それは、間違えなく此方への警告か何かなのかね?」

震える声でゴールドマンがハヤテに問う。

「間違い無ぇだろうな。テロ発生箇所を見たら、綺麗にこっちの想定ルート上だ。

連中、こっちを何かに誘い込んでるんだろうな」とハヤテ。

「な・・・・ならば、フリーウェイを降りて奴らの想定出来ないルートを・・・」

「無駄だろうな。さっきいぬ子が偵察ドローン墜としたが、バックアップくらい用意してんだろ。

たぶんそいつは、ブラスターじゃ射程外の高高度を飛んでるぜ、きっと。

んで、そいつの情報から此方の位置情報は丸見えって訳さ。

後は言わなくても判るな?」

「わ・・・私をそこまでして殺したいのか・・・・な・・・・なんて事だ・・・

なんて・・・」

コーギーは完全に怯え、ブルブル震えながらケージ内でちじこまってしまった。

「で、「いぬ子」なワタシからの報告。後方から視認出来るだけで

8台のバイクが接近中」

セスティアは報告しながら、先程の大型ハンドブラスターを再度構える。

周囲には完全無人のAIトラック数台と同じく無人運転の乗用車が数台走行していた。

それを軽やかにすり抜けながら、高速でファントムに接近する黒い影。

彼らこそオメガ・シンジケートの誇る高速機動処理部隊「狼」だった。


「全員、姿勢を低くして!ぶっ飛ばすわよぉおお!!!」

リオの紅瞳が赤く燃え上がる。

超伝導大型バイク ファントムの心臓部、新型超高速伝導モーター「韋駄天」が

唸りを上げ、独特な甲高い咆哮を放ち、太いタイヤが千切れんばかりに

動力を伝達させる。

今までがそよ風なら、今は烈風だ。

青い車体は空気を切り裂くような勢いでフリーウェイを駆け抜けてゆく。

制限速度で走るAI車両が停まって見える。

しかし・・・・・それでも群狼は引き剥がせない。

「狼」の構成員はバイクとドロイド筐体を一体化させ、完全融合する事で

機動力を加速力を担保していた。

真っ黒な高速バイク型にドロイドアームが付いている異様なフォルムが目に付く。

身体や頭に相当する部分は何処にも見当たらない。

全身の黒い装甲が時折路面を削る火花を散らし、アームが不規則に蠢く。

完全に人という形を捨て、疾走する事と確実に暗殺を遂行する事に特化していた。



「「狼」目標捕捉、攻撃開始します」

揺れるバンの中でオペレーターが状況報告をする。

ちらりと離れた場所に座るダリルを見やった。

ダリルはロンへの報告を終えた後、ずっとシートに座ったままガタガタ震えている。

報告を受けたロンは淡々と「解った」と一言だけ。

通信が切れた後、ダリルは力無くシートに座り、うなだれた表情で虚空に向かって

何かブツブツと言っていた。

ダリルの脳内でロンの一言が無限に繰り返される。

「次は・・・・・・・次はオレが・・・・・・・・」

ダリルは自身の震える膝を止める事が出来なかった。

オペレーターにとってこの時間は無限にも思えた。



「来たっ!」

セスティアが短く叫ぶ。

声と同時にファントムの左右真横を無数の紫電が駆け抜ける。

紫電の光条が路面を焦がし、ファントムを追い詰めてくる。

スピードを上げる事は出来る。

ただ、後方のセスティアやケージ内のゴールドマンが加速に耐えきれず

振り落とされる可能性があった。


「くっ!!」


リオは運転に注力するのが精一杯。

少々の無力感がリオ自身を責め立てる。

セスティアは近寄ってくる狼に構わずブラスターを見舞っていた。

最初の2台は此方の銃が軍用と思わなかったのか、単に此方を見くびっていたからか

最大出力の光弾をモロに被弾し、もんどり打ちながら後方に消えていった。

しかし、それ以降は距離をとり、追い立てるように射撃をするように変化した。

セスティアも正確に敵を見定め射撃するが、銃口や姿勢から弾道予測をしているのだろう、素早く位置転換をし被弾を免れていた。

狼の一台が射撃で牽制し、別の狼が即座に死角から迫る。

「連中め!ちょこまかと!!!」

今日始めてセスティアの口から不満が漏れ聞こえる。

何台かの一般車が狼からの流れ弾に被弾して道路脇に吹き飛んでいく。

ファントムの一番後方にあたる部分にゴールドマンの入ったケージがあり

そこにも何発か被弾するが、対ブラスターコーティングによって貫通は免れていた。

被弾する度、衝撃でケージがガタンと揺れ、ゴールドマンが格子に鼻をぶつけて

キャイン!となさけない声で鳴いた。


後方から迫りくる群狼。

ちらりと前方を見たセスティアが、先を走る完全無人AIトラックを発見した。

数秒考えたセスティアがリオにエア・インカム越しに伝える。

「リオ姐ぇさん!!左前に走るトラックの前まで加速出来るっ!?」

「出来るけど、どうすんの!!!」とリオ。


「ズルいヤツらにペナルティーだっ!」


セスティアの案は理解らないが、恐らくは何かやってくれる期待はあった。

「了解!!最大加速するから全員しっかり捕まってて!!!!」

アクセルを完全に握り込み、ファントムは甲高いモーター音を響かせ最大加速開始。

一気に「狼」を引き剥がす。

かつてない加速Gと爆風が容赦なく4人を襲う。

「お嬢!!!これ以上は無理だ!!!ケージが吹っ飛ぶ!!!」

ハヤテは警告を発した。

前方を走っていた大型トラックの横を蒼い雷電の如く抜き去り

トラックの前へと躍り出てスロットルを緩める。

「ゴメンねっ!!!!」

謝りながらセスティアは躊躇なくトラックの右前輪とタイヤ数本を

ブラスターで撃ち抜いた。

トラックは大きく蛇行し、轟音と派手な火花を散らしながら横転して道を塞ぐ。

最高速に近い速度でファントムを追っていた「狼」たちは

咄嗟に避ける事が出来なかった。

4台がトラックに激突し、身体の厚みが⅓に強制圧縮される。

一台は装甲が砕け散りながら宙を舞い、路面に激しく叩きつけられ、

オイルと火花が辺り一面に飛び散る。

後方の大惨事を他所にファントムはそのまま加速を続け、走り抜けてゆく。

サイドミラーで一部始終を見ていたリオは言葉を失っていた。

「やったーっ!!!」

セスティアはガッツポーズを取って大喜び。

「・・・・いや、やったーじゃないが・・・・・」

リオはそんな言葉しか紡ぐ事が出来なかった。

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