Ep.01【06】「ゴングは鳴り響く」
セスティアと同行した警察SPドロイド022と031はセーフハウスを中心に
東西に分かれて警備を命じられていた。
セーフハウスは一見普通の家屋だが、防弾はもちろん盗聴や盗撮にも
対策が打たれている。
防犯カメラも周囲に数台用意しており、簡単には襲撃できないようになっていた。
西に配置したSPドロイド022は3回目の定時を終え、路上をくまなくチェックする。
「道路上に異常無し。接近する人物・車両・ドローンほか無し」
この任務に就いてから数十回目の自己リポート。
これが生身の人間ならあくびの一つでもしているだろう。
022が左側を警戒した瞬間、022は自身のボディーに異常を感知した。
「異常発生。右胸部メインユニットの破損を検知。自己診断プログラムを・・・・」
これ以降、022のログは記録される事は無かった。
「ちっ!ネットが切られたな。ご丁寧に周囲にジャミングもかけてるぜ」
ハヤテの報告に全員の顔に緊張が走る。
「外のSPドロイドは?」
リオが尋ねる。
「022・031どちらも応答が無ぇ。
恐らく警報を出す前に破壊されたな。カメラも同じだ」
「表と裏の固定カメラ」
とリオが短く問う。
「どちらも同時に破壊された。
ファントムを裏口から離して停めといて正解だったぜ・・・
連中、まだ気づいてねぇな。
手持ちのドローンが最後に撮ったのは、表に黒い大型バンが停車した場面。
裏口はファントムのオンボードカメラからの映像で5名。
突入は戦闘ドロイド3体で全員SMG(短機関銃)装備だ」
ハヤテが冷静な声で状況を伝える。
「な・・・・なら、表から逃げ出せば!」
ゴールドマンが怯える声で提案するが、リオの一言で却下された。
「表から堂々と出たら、バンの中から砲列が飛び出してくるけど良い?」
ゴールドマンは完全に怯えブルブルと震えていた。
「へっへー♪ 悪役ドロイド相手なら手加減無しで良いっすよねー♪
・・・SMG装備のドロイドと室内戦かぁ・・・ナイフ戦も良いかも・・・・
ひさしぶりー♪」
何故かセスティアは嬉しそう・・・だが、口調とは裏腹にどこか猟犬を思わせる
鋭い目をしていた。
「ええ、外の連中も手加減無用よ。ハナからする気もないけど」
リオも何処となく上機嫌。
「ま、ここまで此方の予想通りだと、逆に盗聴でもされてたんじゃねーかと
疑っちまうな」
とハヤテ。
「君たち!!もっとマジメにやりたまえ!!!
連中の目的は私の証言を止めることなんだ!
敵が迫ってるんだぞ!!命の危険なんだぞ!!解ってるのかねっ!?」
コーギーはひどく怯えながら尻尾をピコピコ振ってソファーの隅に縮こまる。
「んじゃあ、いっちょやったるかぁ!!!」
ハヤテの掛け声でリオとセスティアの瞳に強い光が宿った。
セーフハウスの裏口には5名の黒尽くめの人物が居た。
全員SMGを携行し、前方の3名が左右に別れ侵入しようと構える。
突入班の3名は戦闘ドロイド、後方2名は人間という構成。
マットブラックの身体にSMGを携え、赤い複眼が不気味に光を帯びる。
「ブラック1~3 侵入開始」
表のバンの中でオールバックの男が指示する。
「今度ミスったら・・・・・・・・くそっ!ブラック各員、動くものは総て撃て!
逃がすな!殺せ!」
オールバックの男の名ははダリル。
これまで暗殺を専門に行ってきたプロだが、今回は完全に失敗した。
事務所でも上役であるロンの兄貴に最後通告を言い渡されている。
あの人は言った事は必ず実行する。必ずだ・・・・。
「あの人は何時でも本気だ・・・・!失敗すれば・・・・くそっ!」
ダリルは歯噛みしながら、モニターに釘付けとなった。
指示の出たブラック達は何も言わず、扉の開いた。
室内は真っ暗でドアから漏れ入る光で薄っすらと見える程度だった。
ドロイド達は無駄のない動きで室内を探索する。
関節のモーター音がが小さく低く鳴る中、赤い複眼が暗闇をスキャンする
「屋内侵入開始、敵影無し。更に進む」
短い報告を終え、更に奥のドアに差し掛かる。
「ドアの向こうは廊下だ。ターゲットは廊下の左側、一番手前のドアの部屋だ」
バンに同乗するオペレーターがドロイドに情報を与える。
ドロイドブラック1がドアを静かに開けた。
その動作に合わせてブラック2・3が左右に綺麗に分かれ探索する。
ブラック1はそのままバックアップ体制に。
その時、ブラック1の背後で微かなモーター音が響いていた。
「屋内廊下に侵入成功。目標想定ポイントに接近する」
左に先行するブラック2が歩を進めようとした瞬間
白刃一閃
ブラック2の両腕がSMGごと切断される。
瞬間的に重量を失いバランスを崩した刹那、ブラック2の右胸上部に
セスティアの大型の電磁ナイフが突き立つ。
右にいたブラック3も同様にリオの電磁ナイフが右胸上部に突き立てられていた。
両ドロイドの赤い複眼が短く点滅し、光が急速に消えていく。
ドアを開けたブラック1は何故かドアの前で棒立ちになっていた。
よく見ると、人間のうなじに当たる部分にあるアクセスポートに
黒いチューブ状の物が突き刺さっている。
「ほーれ、超速効性のウイルスだ。よーく味わえ」
ハヤテは伸ばしたチューブアームを抜くと、ブラック1は糸の切れた人形のように
その場で崩れた。
「き・・・・・君たち・・・・・・・・あわわわあああああ・・・・・・・」
コーギーが柱の影に隠れて震えながら何かを言いたそうにしていたが無視。
リオとセスティアが一瞬目配せを交わす。
「すぐに表からも突入してくる。用意は?」
リオが小声でセスティアに尋ねる。
「ばっちり!ちゃーんとイースターエッグは用意したよ♪」
「OK。んじゃ、裏口から脱出する」
全員が頷いた。
「ブラック突入班、全員通信途絶!」
バンの中でモニターしていたオペレーターが大声で叫んだ。
ダリルは何かを悟ったかのように立ち上がる。
「くそっ!総員突入だ!!ぶち殺せぇえええ!!!!」
ダリルは割れんばかりの声で全部下に命じる。
バンから5人のチンピラ風の小銃を持った男達がセーフハウスの表玄関に殺到した。
電子ロックを解除し、玄関ドアを乱暴に開け、ドカドカと無作法に入っていく。
その瞬間、ピン!という軽い金属音が玄関に響いた。
中にもう一枚ドアがあるのは情報どおり。
しかし、内ドアには奇妙な紙が貼られていた
それはペンで紙に走り書きで
『 Eat this !! 』
と書かれていた。
「しまっ・・・・・・・・・・・・!」
チンピラ風の男が叫ぶ。
その後ろに居た仲間の一人も『トラップだ!』と叫ぶが
声は届かずドアが白い閃光と強烈な爆圧を放ち男達を包み込む。
突入した5人はドアに仕掛けられていた爆弾により、文字通り木っ端微塵になった。
酷い爆発音が裏口にも響く。
裏口で待機していたブラック4と5が突入しようとした瞬間・・・!
2人は自重500kgを超える大型超伝導バイク ファントムの全力スライディングを
喰らう。
ブラック4・5はそのまま吹き飛ばされ、強制的に家の壁のレリーフと化した。
裏口から出てきたのは3人。
「後部カウルにケージ固定!しっかり固定してっ!!!」
リオが叫ぶ。
「OKっ!!!」
セスティアは手に下げていたケージを素早く装着する。
ファントム前席にリオが座り、セスティアはケージをファントムのテールカウルに
素早く装着し、後席に滑り込む。 ハヤテは前部タンクの上に鎮座した。
「お、おぃ!!なぜ私がケージに!?」
ゴールドマンが誰ともなく文句を言う。
「そのケージは防弾仕様で対ブラスターコーティングまでしてあるんだから
特等席でしょ!」
リオがハヤテとルート策定しながら答える。
「何を言ってるんだ!前は格子じゃないか!!!」
更にキャンキャン吠える。
「まー、大丈夫でしょ。なかなな出来ない体験だと思うよー」
セスティアはどことなくドライブ気分だ。
「ば・・・・・・!バカな事を・・・・・!!!お前ら!」
「ルート作成完了!キャンキャン吠えてると舌噛むわよ!!!!」
リオは言うが早いか、アクセルを全開にし激しいタイヤスピンと共に
ファントムの超伝導モーターが甲高い唸りを上げ発進する。
バンの中のダリルは何度も何度もコンソールを強打した。
まさかの再失敗、まさかの全滅。
息を切らし、ダリルは震える声で指示を出す。
「「狼」と「阻塞」を出せ・・・・「狼」には奴らの予想進路で網を張れと伝えろ。
「阻塞」には後で予定場所を伝える・・・・・すぐに準備しろ。」
オペレーター役の男は怯えながら本部に伝える。
ダリルは全身から汗を吹き出し、オペレーターに伝える。
「あと・・・・・・・・・・・・・・・・ロンの兄貴に連絡だ。」
オペレーターは何かに気づいたが、無言で連絡をつける。
「くそ・・・・・まずい!・・・まずい!!!・・・ロンの兄貴にマジで・・・
殺されっちまう!」
嫌な汗が止まらない。
ダリルはもう一度、力任せにコンソールを叩いた。
甲高い独特なモーター音がバンの外からかすかに漏れ聞こえ、遠ざかっていく。
それは、あたかも自分の失敗を嘲笑っているかのようにも聞こえた。
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