Ep.01【01】「東京墓標」
「すっごい青い空。天気いいなぁ・・・・・」
晴れ渡る空をセスティアはぼんやり見ていた。
「こんな日はお弁当いっぱい作ってピクニックとかいいかも・・・。
もし、お姉ちゃんに行く?とか聞いたら、はりきりすぎちゃってお弁当だけ
で大荷物になりそ・・・・・・」
過ぎた「妹思い」の姉の事を思うと、思わず笑みがこぼれる。
セスティアの長く美しい金髪が風に弄ばれる。
風が強い・・・・いや、風が強いんじゃない。
空気を切り裂いてるのはこっちのほうだ。
旧東京市街 上空1500m 対気速度300km
2機のティルトローター機がルーズな編隊を組んで飛行していた。
セスティアは開け放たれた後部ハッチから足をぶらつかせ、思いに耽っていた。
雲一つ無い青い青い空と延々と広がる灰色の墓標。
その墓標一つ一つにかつて人の営みがあったなんて考えられない・・・。
セスティアは既に見慣れた墓標群を見て思う。
だが墓標ではない。
かつて、世界屈指の大都市と言われた東京の成れの果てだ。
二度の震災、噴火による大量の火山灰。
人々は死んでしまった街を捨て、海に巨大な島を作り新たな街を築いた。
捨てられた街は泣いているのだろうか?
これが人なら泣き腫らしながら罵詈雑言を言ったかもしれない。
そう思うとセスティアには墓標たちが何かを語ってるようにも見えた。
今、この街には繁栄なんてない。
行き場を無くした難民、国が悪いと断罪し懲罰と称して
あらゆる人々に危害を加える国際テロリスト。
そして、当初は荒廃した東京を救済する名目で投入された無人の機械たちは、
いまやテロリストと同様の破壊兵器となり、旧東京を跳梁跋扈している。
最初は本当に救援が目的だった。
いくらあっても足りないマンパワー。
それを簡単に補えるのが無人のAIロボであり、初期のドロイド達だった。
各国が挙って救援を申し入れ、これらを大量投入した。
窮していた日本政府も甘んじて受け入れ、復興の礎になると期待した。
しかし・・・・・現実は甘くない。
各国の思惑は救援だけではなかったのだ。
急速に発達するAI技術と人工知能、これらの実践データはかけがえのない物。
ましてや、巨大都市の救援や復興ともなれば、得られるデータは膨大なものとなる。
そう判断した諸外国は、更に大量のAIドローンとドロイドを投入する事となった。
復興は遅々として進まない。
国民の苛立ちは暴動やテロリズムによって発現し、投入されたAIドローンや
ドロイドも「自衛」の名目で武装を開始した。
そして、地獄の門が開かれた。
後は早かった。
国益を守る為に国軍を動員する日本政府。
何時しか復興支援から軍事支援に変化する諸外国。
各国の資金援助を得て重武装化の進むテロリスト。
犯罪組織の暗躍。
行く場所のない難民。
難民の中にあって、自衛を試みる集団。
まさに混沌だった。
日本政府は東京復興を断念し、政府機能を遠く離れた京都に遷都する。
復興の代わり・・・という訳では無いが、巨大事業による経済効果と国民の士気高揚を
御旗に掲げ、東京湾をほぼ埋め立て、巨大都市の建造に着手した。
長い長い時間と様々な犠牲を払い、巨大都市ノヴァ・トーキョーが誕生する。
打ち捨てられた旧東京市街とノヴァ・トーキョーの間には巨大な壁が建造され
残された人々と思惑の交錯する諸外国勢と日本国軍とで昼夜を問わず
激しい戦闘が繰り返されていた。
そんな混沌とした墓碑の街にセスティア達は投入される。
今日の目標は新型ドロイド兵一個中隊。
何処の国の仕業なのか、最終目的は何なのかは関係ない。
何時もの・・・本当に何時ものお人形さん狩り。
こんな重たい軍用アサルトブラスターライフルを担いで、お墓で危険なお人形遊び。
何の冗談なんだ。
セスティアは短い溜息をついた。
「LZ(ランディング・ゾーン)まであと3分!」
機体搭乗員のシスターが爆音に負けじと大声を発する。
セスティアはクビに下げた水色のペンダントを軽く握りしめた。
・・・・ルナ・・・・・・・お願い・・・・・みんなを守って・・・・・
心の中で呟く。
機体中の個人装備を担ぎ、強行着陸に備える。
先程まで座っていたランプ中央に据えられている、獰猛な大型ブラスターガンを
敵の予測される場所に乱射して牽制する搭乗員シスター。
左右には様々な装備を身に包んだ戦友たちと戦術ドロイド。
激しい砂埃と爆音の中、先んじてドロイド達が降機展開し、LZを確保せんと
牽制射撃をしながら走ってゆく。
「GO!GO!GO!」
隊長の号令に続いて、セスティアを含む一般兵が配置場所へと駆け出してゆく。
瓦礫の中から雷光めいた閃光が走り、乗ってきた機体に被弾する。
機体後方ランプのブラスターガンが応戦し、他の兵士たちも続き射撃を開始。
ここは東京、渋谷の街。
かつては多くの人々が行き交った華やかな場所。
今は危険な光が交錯するあまりに危険な戦場。
ブラスターライフルを乱射しながらセスティアは思う。
皆んなでバスケットを囲んで、お昼を食べて笑って遊べば良いのに。
目の前に敵新型ドロイド兵が見えた。
ブラスターライフルのトリガーを引き絞り、正確にドロイド兵の頭と胴体を
同時に撃ち抜く。
東京の空は蒼青に包まれ、ピクニックには絶好の日和だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます