Ep.01【02】「路地裏と現実」





西暦2522年 12月


季節は既に立派な冬で、寒さが身にしみる時期のはずなのだが、何故か暑い。

いや天気予報では、確か最高気温15℃とか言ってたはずだ。

なのに汗ばむほど暑い。

いや、実際に汗をかいている。

なぜか?そりゃ、かれこれ一時間以上路地を走り回ってるからに決まっている。

ピアス型のエア・インカムから指示とも怒号とも取れる声が響く。

「お嬢ぉ!なにやってんだ!!!ヤツは先行して20m先の路地を右に入ったぞ!」

「うっさい!!こっちも見えてるって!」

すばしっこいヤツ!!一度は捕まえたのに!!!

美しい赤い髪をツーサイドアップにした少女が全力疾走していた。

少女と言っても、彼女は「シスター」で厳密には人とは違う。

極高度なデジタルネットワークから生まれた「シスター」は旧人類の能力を

あらゆる面で凌駕した。

当初は存在を懸念する声も多数あったが、長い時間をかけ彼女たちシスターは

何時(いつ)しか人類に溶け込み、苦楽を共にし生活していた。


「よし!追い詰めた!」

赤毛の少女は袋小路になった路地裏で不敵な笑みを浮かべる。

「よぉーし、元NTPD(ノヴァ・トーキョー警察)隊員の実力みせてやれ!!」

「言われなくてもっ!!!!!」

雑多に積み上げられた箱の山に目標が隠れている。

慎重に足を進め、息を飲む。

「鬼ごっこはおしまい!観念しなさい!!」

箱の隅、何か動く影を見逃さなかった。

「逃がすかっ!!!!!」

地面を蹴り上げ、逃走を図る目標に飛びかかった。


んニャぁあああああああああああああン!!!!!!


両手で「目標」をしっかり確保して、少女は満面の笑顔になる。

「ハヤテ!目標確保した!!!」

「おーし、よくやったお嬢!!!」

エア・インカムからも喜びの声が漏れ聞こえる。

赤毛の少女リオは、一時間以上にもおよぶ追跡劇を終え

やっと一息付く事が出来た。

両手に抱えられた「目標」はリオの方向を見上げる。


「私は登録番号第654114179625号 猫型愛玩ドロイド 登録名称「ミー」 です。

不当な接触及び衝撃は人工知能保護法 第456号補足2号に抵触する可能性が

あります。即刻確保を中止してください」


どこからどう見ても普通の黒ぶちの猫が饒舌にリオに警告を発した。

「うっさい!このくそ猫!!散々逃げ回って!」

「もう一度警告します。現在の状態は刑法 第~・・・・・・・」

「なに言ってんの!アンタがシステムのアップデートに失敗して暴走したのが

そもそも原因でしょうが!

あんたの確保をNTPDに依頼してきたのは、アンタの飼い主よ!!!」

「再度警告します。 即時開放を要求します。 応じない場合、刑法・・・・・」

「いいから黙ってろ!!!!」

リオは右手で猫ドロイドを抱えつつ、左手で猫の口を塞いだ。

猫を抱え、袋小路を戻ると、道には青いカウルに『Phantom』のロゴの入った

青い大型超伝導バイクが停まっていた。

バイクのシートの上には黒い四角いボディに、カニのような4本足

真ん丸の複合センサーがまるで半開きの三白眼のような小型ドロイドが

器用にふんぞり返ったような姿勢で待っていた。

「お疲れさん、これで一件落着だな」

「一件落着じゃないわよ・・・・もぉ・・・・・」

リオは猫ドロイドを専用のケージに入れて、突っ伏すようにバイクにもたれかかる。

「まぁ、これもお仕事だよ、お仕事」

「バウンティー・ハンターの仕事じゃないでしょ・・・これ」

「なぁーに言ってんだか。これでもNTPDからの正式な依頼だぜ」

「んな事は知ってんのよ!猫さがしがハンターの仕事かって聞いてんの!」

リオは不貞腐れたように相棒のハヤテを睨んだ。

「今のオレ達じゃあ、この位が精一杯だからなぁ・・・・仕方ねーだろ。

嫌でも何でも、やらなきゃおまんまの食い上げだゼ!」

「何か騙されたんじゃないかなぁ・・・・アタシ・・」

汗が冷え、ブルッと寒気がさす。今頃になって季節が冬という事を再認識した。

ケージの中では猫ドロイドが未だに警告と法令を読み上げている。

「さ、コイツを届けて我が家に帰ろうぜぇ」

「そうね・・・・そーしよ。温かいココアとか飲みたいし」

「太るぞ」

「うっさい!」

リオはハヤテの黒い正方形の頭(?)を叩き、バイクのスタートボタンを押し込む。

バイクから甲高い独特な超伝導モーターの音が響いた。

軽くタイヤを鳴らしながら、リオ達は裏路地を後にする。


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