Ep.00【08】「戦友!」
声の主は即座に行動を開始した。
準備する場所は決まっていた。
ノヴァ・トーキョー オオタ3にある巨大だがシンプルな整備棟群がある。
NTPD Supply depot -NTPD 補給所-
ここはNTPDで使用される装備一切を24時間体制で整備保管している。
補給所の管理ユニットにアクセスし、適材を検索する。
該当・・・・・・・122件
「彼女のパートナーだカッコいい男性ドロイドが良いだろう」
「いや、女性型のほうが打ち解けやすい」
「レベルの高いドロイドは他に目立ちやすい。それは問題だ。」
「同意する」
「しかしレベルの低いドロイドではサポート時に支障が出るのでは?」
「過度の干渉は観察対象の為にならない」
「干渉は最小限、使用するドロイドはLv.5程度が妥当」
「同意する」
「廃棄対象の機材を流用し、観察対象を直接サポートしては?」
「同意する」
検索結果
該当・・・・・・・6件
「6件中3件は内部機構に問題あり。残り3件は同一機材」
「最も状態の良い機材はサポートドロイドModel 4702 No.117103」
「残りの機材は使用機材の破損・故障時の補給用として保存する」
「同意する」
誰も居ない管理センター内のモニターが瞬く間に動き、情報が改ざんされていく。
それは超常現象のようでもあり、到底人の術とは思えない程だった。
「サポート役は決まった。残るは彼女の直接サポートだ」
「彼女の退職金を増額し、住居・移動手段などを確保させるか?」
「それでは別用途に使用される懸念がある」
「同意する」
「では現物を支給するか?」
「住居は彼女の選択に任せよう」
「同意する」
「移動手段のみ与え、観察を続行してはどうか」
「同意する」
再度補給所の管理ユニットにアクセスし、適材を検索する。
該当・・・・・・・6件
「6件中、以前彼女が興味を示した車両が含まれている」
「試作車両 CX-004(3号車)
2521年 6月10日 10:33分 コクブ第3テストコースにて試走中横転事故発生
事故原因: 制御ユニットの非適合
対処: 車両修復は完了するも制御プログラムが未完成の為、当該施設にて保存中
なお、当車両はネオテック社 第2装備開発課よりNTPD装備管理課に正式移管され保存中
制御プログラムについては再開発及び改修に膨大な予算と時間を要する為、現在凍結中」
「現在の保管場所は?」
「同補給所 第6格納庫内」
「即時起動は可能か」
「条件付き可能。一時的走行に問題無し」
「制御プログラムの改修に要する時間は?」
「推定249時間22分16秒」
「改修完了まではサポートドロイドにより補助する」
「同意する」
補給所の隅にポツンと併設する処分機材集積所。
雑多に置かれた様々な廃棄機材。
既に役目を終え、何時か来る処分の日を待つだけの機材の中に動く小さな影があった。
器用に廃棄機材をかき分け倉庫の前で止まる。
黒い細い管のようなチューブ・アームがクネクネと動く。
上に伸ばしたり、右左に体ごと傾けてみたり・・・それは人間の準備運動の様。
「あー~~~~なんだ、んじゃぁ一発行くとするかぁ」
なんとも「おっさん臭い」喋り方で小さな影は行動を開始した。
-NTPD補給所 第6格納庫-
格納庫の上部に掲げられた看板にはそう書いてあった。
中では、煌々と電灯が灯されあらゆる機材の整備が行われていた。
そんな格納庫の一番隅・・・・薄汚れたシートを被された車両。
Phantom(ファントム)
そう呼ばれた、次世代型試作高速追跡車両。
全長3m近い大型常温超伝導バイク。
試作車両の為なのか、カウル部などは美しい青を基調とした塗装がなされている。
しかし、その車両は全く制御できない、まさにジャジャ馬だった。
試験走行時の事故後は保管という名の放置で、ハンガークイーンの名を欲しいままにしていた。
ケンタ・イノウエ整備士は他の車両を整備しながら、時々「ハンガークイーン」の姿を見る。
もし、不具合が解消されれば、きっと物凄い活躍が出来ただろう・・・・
そう思うとやるせない気持ちで胸が一杯になる。
不具合の解消にはバカみたいな金と時間と労力がかかる。
整備士仲間から聞いた話では、近々正式に処分するらしいとの事。
ただ、こんなに目立つフォルムの車両を部外の廃棄業者に渡すのは
親会社であるネオテックが絶対に許さない。
恐らくは秘密裏に部内で破壊・・・それも人目のつかない場所で深夜にでも行うのだろう。
企業の威信を保つとはそういうもんだ・・・と訳知り顔で語る同僚を思い出した。
イノウエは一つ浅い溜息を吐いた。
「もったいねぇなぁ・・・・・・」
ふと整備していたパトカーの中からハンガークイーンを見ると、何故かシートが剥がされていた。
不思議に思ったイノウエは整備の手を止め、近寄ってみる。
するとバイクの横には小さなサポートドロイドが一生懸命シートを剥がしているではないか。
「おい、お前なにやってんだ」
小型ドロイドに声を掛ける。
ドロイドはなぜだかビクッ!としたようにも見えた。
「わ・・・・私はサポートドロイドModel 4702 No.117103デス。機材の移動を命じられました」
「機材の移動ぉ?こんな夜中にか?」
「この機材は正式に廃棄が決定しました。私は制御プログラムを代行し廃棄場所への
移動を命じられています。詳細は整備管理ファイルNo.15479852AGを参照してください。」
イノウエは手持ちの整備様タブレットで「No.15479852AG」を検索する。
検索結果:
整備管理ファイル No.15479852AG (極秘)
◯ NTPD補給所にて保管中の試作車両 CX-004(3号車)を2522年 10月3日 22:00
を以て廃棄処分とする。
◯ 廃棄方法
サポートドロイドModel 4702 No.117103 を臨時運転制御として活用する。
◯ 廃棄場所
西オウミ2番地6-9 ベナン商会敷地内
◯ 適用事項
CX-004(3号車)の廃棄に伴い、サポートドロイドModel 4702 No.117103を同時処分とする。
なお、当業務はネオテック社 第2装備開発課及びNTPD装備管理課の秘密保全の為、極秘とし一切の口外及び記録を厳禁とする。
そんな事がつらつらと整備用タブレットに表示された。
ベナン商会といえば、色々と危険な噂の絶えない、知る人ぞ知る「ヤバイ会社」だった。
何でも、ネオテックに逆らったヤツが秘密裏に・・・とか、お偉いさんが処分に困った高級ドロイドを処分した・・・・・とか・・・・とにかく、根も葉もない噂には暇もなかった。
イノウエは思う。
「ああ・・・そうかやっぱ噂は本当だったんだ。まさか今日とはなぁ・・・」
ふと、イノウエはもう一度タブレットの表示を見返す。
「No.117103を同時処分とするって・・・・・・・・・・・まさか・・・・」
イノウエは足元の小さなドロイドを再度見返した。
「お前・・・・・・・・お前・・・・このバイクと一緒に・・・・・・・・」
ドロイドは軽く頷くような仕草をする。
「はい。私はこの車両と運命を共にする事を命じられています」
その瞬間、イノウエの双眸から大量の涙が溢れ落ちる。
「お前・・・・!意味判ってんのか!? お前・・・・死んじゃうんだぞ!?」
イノウエは言葉を吐きながら嗚咽を漏らす。
「はい、理解しています。これが私の最後の任務になります。
皆様には長い間お世話になりました。私は警察活動に助力出来た事を誇りに思います。
最後の任務、しっかりと完遂してまいります」
もう、イノウエは大号泣だった。
日頃から機械と人間は同等だ!!と意気込んでいたイノウエにとって
この指示は決死を命じられた戦友を見送るような心境なのだ。
もし、これが人間同士なら熱い抱擁が出来ただろう。
コイツは・・・・この小さなドロイドは命令を遵守し、自らの処分を受け入れているのだ。
ただ、古いだけ、ただ使い道が無くなっただけで、こんな酷い事が出来るのか?何故だ!!!
だが・・・・これは命令だ。コイツの最後の花道だ。
そう思うと、イノウエは零れ落ちる涙を止めることなんて、到底出来なかった。
涙目で小さな「戦友」を見ると、何故か驚いた(?)ような表情をしているように見えた。
気のせいだろう・・・イノウエは自分にそう言い聞かせる。
「じ・・・・時間が設定されていますので、名残惜しいですが、これで失礼します」
小さな戦友は器用にバイクのシートに乗り込み、黒いチューブを思わせるチューブ・アームをバイクのコンソールに差し込み、モーターを起動させる。
新型超高速伝導モーターの独特な甲高い音が格納庫内に高らかに響き渡った。
もし、イノウエ以外に人間が居れば振り返って見ただろう。
しかし、この深夜で整備作業をしているのはイノウエ以外は全て整備ドロイドだけだった。
整備ドロイドは黙々と規定の仕事を行っていて、見向きもしなかった。
「では、イノウエ整備士。これにて失礼いたします。
なお、これは 極 秘 事項ですので、 くれぐれも他言無用で。
あ、もしこのバイクの事を聞かれたら業者が引き取りに来たと言っておいてくださいね。詳細は絶対秘密で」
「ああ・・・・判ってるさ。これはオレとお前の約束だ!戦友!!!」
「へっ?・・・・あ・・・・ああ、はい戦友!」
「じゃあな!戦友!!アバヨっ!Bon voyage!」
イノウエは被っていた安全ヘルメットを掲げて「帽降れ」をして見送る。
甲高いモーター音が格納庫から遠ざかっていった。
イノウエは身体全ての水分が流れ出たかのように滂沱の涙を流すのであった。
補給所が遠ざかり、バイク上のドロイドがポツリと呟く。
「なんだありゃ・・・・・?」
ファントムの独特な甲高いモーター音が静まり返る深夜の街に響き渡った。
──続く。
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