Ep.00【07】 「残響と雑音」
あ、そういえば・・・今日って何食べたっけ?
確か……パトロールに出る前に食堂でパンに挟んだレタスとチーズ……
あ、合成サラミも挟んだなぁ……。
あれって不味いんだよなぁ……もっと良いフードコピー機買えば良いのに……。
リオはパトカーのボンネットの上に座り、他愛もない事をボンヤリと考えていた。
あれから数十分、現場は騒然としていた。
応援の警察車両はもちろん、救急・消防、それにネオテックのロゴの入った車まで
実に多くが詰めかけている。
無数の赤色灯と青色灯とライトが入り乱れ、先程までの暗き洞は
まるで、何かのお祭りのようでもあった。
リオは白いタオルを頭からスッポリ被り、ただ足をブラつかせていた。
018はというと、破損した箇所もそのままに応援到着後から現在まで
誘導と現場検証を行っている。
勤勉なやつ……リオはバディーの実直さに呆れさえ感じていた。
現場を行き来する何処かの隊員の話し声が聞こえた。
バッヂはまだ生きているらしい。
電撃により補助脳や関係器官が破壊されたが、当人の本来の脳には
別段問題は無く、アクセスさえ出来れば、取り調べは可能な状態なのだと。
残る2名の容疑者は逃走車両と強引に一体化させられ、原型も留めていないらしい。
だが、それも今のリオにとっては些末な事のように思えた。
達成感なんてない。
ただ職務を全うした……それだけなのだ。
そんな事を考えていた時だった。
人垣の向こうから大声を発しながら近寄ってくる気配。
大勢の人々をかき分け、その人物がリオの前で仁王立ちになる。
「貴様ぁああ!!!よくも!よくもやってくれたなぁ!!!この疫病神めっ!!
今度という今度は許さん!!温厚な私でも絶対に許さんからなぁ!覚悟しろ!!」
タオルの隙間からハセガワの姿を見る。
中年太りの偽装頭髪のクソ上司は何かにご立腹のようだ。
温厚?誰が?
コーヒーが温かっただけで秘書ドロイドにコーヒーをぶちまけるようなヤツが?
部下に仕事を押し付け、ネオテックの社員に媚びを売ったのに袖にされて
逆ギレして仕事を押し付けた部下に2時間も意味不明な説教をしたようなヤツが?
悪行を数えれば切りが無いようなヤツが?
今まで倦怠の海に沈んでいたリオの思考が急浮上する。
こっちは命がけで、あんなデカブツ相手に捕物をしたんだ!
バディーの018なんて左腕がちぎれてしまったのに!
怒りのゲージが沸点に到達する。
「貴様のような出来損ないのシスターは、今後一切現場に出させん!!
貴様を永久に在庫倉庫の隅に追いやってやる!!!覚悟しろ!!!」
「んだとぉおお!!!黙って聞いてりゃ好き勝手言って!こっちは死にかけたんだ!
あんなデカいサイバネ野郎を2人でねじ伏せたんだよ!
てめぇは何だ!!何かやったのか!?あっ?言ってみろ!!
どうせ、安っすいドロイドとイチャイチャしてたんだろうが!!この糞ハゲデブ!!!」
「貴様ぁあああ!!!上司にむかって!!!クビだ!貴様は今日限りでクビだっ!!!」
「警部補に所属隊員の進退を決定する権限は与えられていません。
所属隊員の進退を決定する際は当該委員会の査問と承認が必要となります。」
「貴様は茶々を入れるなっ!貴様も一緒に廃棄処分だ!!!」
「私、秘書ドロイド22687の移動及び廃棄は本部装備課部長及びネオテック社第3装備部門担当者の承諾を得てください。」
「やかましい!!!!!!この糞ドロイド!!!!」
ハセガワと共に現場に到着した秘書ドロイドは淡々とした声でハセガワに告げる。
しかし、ハセガワの怒りは収まらなかった。
「だいたい貴様のような跳ねっ返りのバカガキシスターは最初から必要無かったんだ!
私のような有能な人材は何時もそうだ!!何かに付けリスクを負わされる!!!
貴様はリスクそのものだ!!!出ていけ!!私の前から永久に消え去ってしまえ!!」
「うるせぇ!!!!!ああっ!上等だよっ!辞めてやるよ!!んなところ!!!!!
手前ぇは一生上司に媚び売って床舐めてりゃいいんだ!!!!!!」
「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおキサマぁああ!!!!!」
両者が飛びかかろうとした瞬間、周りにいた同僚や他職員が総出で止めに入る。
リオは顔見知りの同僚に羽交い締めにされ、ハセガワは何処かの隊員数名に力ずくで
引き剥がされていった。
喧騒の外にいた018は静かに呟く。
「リオ巡査、平静を保ってください。血圧の異常上昇が認められます」
そんな喧騒を周囲を取り囲むように駐車している緊急車両のAIカメラが捉えていた。
カメラの奥から除く者が呟く。
「彼女は警察を辞めてしまうかもしれない」
「先程の決定に修正を加えるべきだ」
「彼女を誘導すべきか?」
「彼女の活動を阻害しない新たな場所が必要だ」
「何か案はあるか?」
「状況により変化する。現在では未確定要素が多すぎる」
「だが、時は近い」
「介入すべきか?」
「合意する」
──続く。
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