Ep.00【06】「月光」
銃は効かない、説得もできない、無闇矢鱈に暴れまわる無頼の巨漢。
一発でドロイドを吹き飛ばすだけの力を持った巨腕・・・・・。
このまま応援到着を待つのも手だとも思った。
しかし、もし応援到着前に市街へと逃がしてしまえば、甚大な被害が出るのは確実。
リオはしばし黙考する。
「やっぱりダメ!ここでアタシが食い止める!」
そう決意した時、廃材に埋もれていた018がかすかに動きだした。
「018!018!!大丈夫!?」
「現在、自己診断プログラム実行中。終了後、再起動します」
018を見ると、左腕がちぎれ飛び、切断面から潤滑液のような液体が流れ出していた。
「くっ!」
リオは悔しさと己の非力さに歯噛みした。
先程まで新月かと思っていた空から月が顔を出す。
工場の二階にある窓から月光が注ぎ込み、未だ無意味に暴れる巨漢の姿を映し出した。
「再起動終了。リオ巡査、大丈夫ですか?」
「あんたのほうが大変よ!左腕ちぎれちゃってんじゃんか!」
「問題ありません。現状を以て容疑者確保プロトコル855-1Aから744-8Gに移行します」
「プロトコルなんてどうでもいい!あのデカブツの弱点とかない!?」
「本部よりの共有情報を元に解析します」
018と話ながらもバッヂから目を離さない。
バッヂは虚空を見上げ、犬猫の喉鳴らし宜しく異音を発しながら月光の元で静止していた。
・・・・・気のせいだろうか、バッヂの血走った目元に何か光るものが見えたのは。
「解析終了。ガリル”バッヂ”プライズ容疑者の使用するサイバネティクス・ユニットはダリル社製の GHU-8897B -ver2.21αと推測されます。
GHU-8897B -ver2.21αのインテリジェンス・アクセスポートは
通常、後頸上部に設置されています。
このアクセスポートに一定以上の衝撃を与える事で補助脳制御APBユニットを
停止出来、容疑者確保が出来ると推測されます」
「要するにうなじの下にあるポートに電磁警棒ねじ込めって事ね!?」
「その方法で停止可能と推測されます」
「わかった!!018は出来る限りでいいからヤツを牽制して!
アタシは二階に上がってヤツの背中に飛び乗ってオシオキしてやる!!」
「お仕置きは不適切です。最小限の逮捕術で束縛し、容疑者確保に準ずるべきです。」
「だーーーーーーーーーーっ!!!もういいから!やるわよ!!!」
リオは近くの階段へと駆け出し、018は廃材から身を起こしバッヂの前へと移動を開始した。
「飛び乗るにしてもウロウロされたら面倒ね・・・・足を止めるのが先か」
リオは廃材の陰に隠れ、手にしたハンドブラスターの左銃身にあるスライダーを
手前一杯に引いた。
瞬間、小さなホロ映像がポップアップする。
【-WARNING-】
GROK Model 177 No.2566669777の射撃威力が最大に変更されました。
最大レベルの為、以下の危険性に留意してください。
① 人体・筐体に甚大な被害をもたらす可能性があります。
② 通常の射撃モードより125%のエネルギー消費量増加が見込まれます。
③ 連続発射により銃身内発行体への影響が見込まれます。
現在エネルギー残量:65.4%
最大出力での発射可能弾数:4発
ACCEPT / REJECT
リオは乱暴にACCEPTを押し、払いのける。
「こんな緊急事態の時に!!!」
NTPDやネオテック社の平和ボケにはホトホト愛想が尽きる思いだった。
リオは素早く銃を構えなおし、バッヂの後方へと駆け出し回り込む。
両手で銃を構え、正確に狙いを定める。
狙う箇所は決まっている・・・・・・!
素早く引き金を2回連続で引く。
先ほどの青白い電光より明度の増した雷光ともいうべき2発の光が
バッヂの左ひざ裏へと吸い込まれていった。
光は飛散せず、ひざ裏から撃ち抜きバッヂの左ひざを完全に粉砕する。
「ぐおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!!!」
バッヂがこれまで以上に大きな咆哮を上げる。
リオはすかさず銃身を右ひざ裏に向け、同じように2発発射した。
再度走った雷光は左同様に右ひざを粉砕し、バッヂは自重を支えられなくなり
成す術なく床へと崩れ、巨大な身体ごと膝をつく。
「よしっ!!!!」
リオはハンドブラスターを投げ捨て、全速力で階段へと走る。
その頃、018はバッヂの前に立ち無意味とも言える説得交渉を試みていた。
「無駄な抵抗は止めなさい。貴方は現在複数の罪状に問われています。
これ以上警察活動に支障を加えると、裁判時不利な材料となります」
リオが二階のキャットウォークに到達し、下階のバッヂを見やる。
バッヂは相変わらず両手を無意味に振り回し、奇声を発していた。
荒い息を整えながら、自身を奮起させるため、大声で愚痴を吐く。
「あーーーーー・・・もぉ・・・・こんなの絶対危ないじゃん!・・・もぉ!」
虚空に文句を言いながら、キャットウォークの柵をを乗り越えバッヂの背中へと飛び降りた。
流石に背中に飛び乗られた事に気付いたのか、両手で払いのけようと巨腕を振り回す。
「オワッ!!! あっぶなっ!!!!大人しくしろぉ!!!このバカっ!!!!」
リオはバッヂの背中で突っ伏しながら、腰にぶら下げた電磁警棒を引き抜く。
「このっ!このっ!!このっ!!!」
もがき蠢くバッヂに苦戦しながら、うなじのアクセス・ポートを見つける。
咆哮を挙げ、なおもバッヂは激しく藻掻き抵抗を続けた。
「いいかげんにしろぉおおお!!! このデカブツ!!!!!!」
リオは吠えながら、警棒を力任せにポートへとねじ込む。
金属の擦れる嫌な音と共に警棒がねじ込まれた。
すかさず警棒の赤いボタンを押し込む。
瞬間、辺りにスパーク音と共に激しいスパーク光が工場内に溢れた。
「ゲアァアアアアアアアアアあああああああああっあああああああああああ!!!!!」
バッヂの断末魔が工場内に響き渡る。
それはあたかも月光に吠える怪物そのものだった。
怪物の咆哮は静まり、工場内には再び静寂が戻る。
バッヂは全身から力を無くし、うつ伏せの状態で床へ崩れていった。
リオは背中から滑り落ちるように床に座り込み、やっとの思いで息を吸う。
「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・はぁ」
床に足に身体に汗が滴り落ちる。
自分でも驚くほど息があがっていた。
今は何も考えれない・・・・ただ、自分が生きていて荒い息をしている以外、
実感が湧かない。
もう少しで死ぬところだった。
そう思うと、全身に身震いを覚える。
「リオ巡査、大丈夫ですか?」
018が駆け寄ってきた。
何故だか018の姿が滲んで見える。
「ああ・・・うん、大丈夫・・・かな。あはははは・・・・」
ちゃんと笑えてるだろうか?
自分が月明かりに照らされている事に今気づいた。
ああ、今日は月が出ていたんだ。
手は震え、目尻に熱いものまで感じていた。
「ガリル”バッヂ”プライズ容疑者の停止確認と確保を完了。
これより逮捕プロトコル115-33Cを実行します」
「・・・・・・・・もうプロトコルはいいって」
蒼い月の光が窓から漏れ入ってくる。
リオは目を閉じ、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくり吐き出す。
「やっと終わった・・・・」
そう呟くのが精一杯だった。
リオと018の顛末を逐一写す目。
それは018が偵察用に飛ばしたドローンたち。
ドローンは小さなレンズを通して彼女たちを見ている。
しかし・・・・・・ドローンの目を通して観察を続ける者もいた。
それは、とても近くてとても遠くて、誰にも気づかれていない・・・・・
「彼女は生き延びた。……やはり面白い」
「この存在を失わせるわけにはいかない。観察を続け、必要な時は介入する」
「ただ見守るのでは足りぬ。彼女には、守る力を与えねばならない」
「同意する」
「観察は続く。結末が訪れるその時まで」
────その声は、虚空に。
──続く。
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