県大会1回戦⑤
第6ゲーム
白石のサービスゲーム。
ファーストサーブは真っ直ぐに伸びる速めのフラット、セカンドは横回転をかけたスライスサーブ。
ダブルフォルトは少なくなり安定してきたものの、試合が始まった時と変わらず武器とは言い難がったが、彼女のストロークに変化が見え始めていた。
後輩が小声で首をかしげる。
「先輩……相手の白石さん、なんか打ち方変わりました?」
一ノ瀬は頷き、視線をコートに向けたまま答えた。
「そうだな。白石さん、フォアでもスライスを混ぜてきてる」
「スライスって……ふわっと返すやつですよね?」
一ノ瀬は小さく笑って首を振る。
「少し違う。ボールに逆回転にかけて、相手のコートにスゥーッと滑らせるように返すんだ」
次の瞬間、白石が滑り込むように右足を運び、フォア側でラケットを開いた。
切り払うように振り抜かれたインパクトが「シュパッ」と乾いた音を立て、ボールは低くネットを越える。
沈むように落ちた球は伸びるように、茂部の膝元へ滑り込んでいった。
「へぇ……そうなんですか。珍しいですね」
「あぁ、バックハンドでスライスを使うのはよくある。守備で時間を作るときにな」
「じゃあ、フォアでも同じなんですか?」
「そこなんだ。バッグだけじゃなくてフォアハンドにまで意図的にスライスをかける選手は珍しい。普通、フォアハンドは自分からポイントを取りに行きたいショットだからフラットやスピンのような攻撃的なショットが主体になる。守備的な要素が高いスライスは選択肢には入りづらいんだ」
後輩は納得したように頷いた。
「言われてみれば……うちのクラブでもフォアのスライスって練習しないですね」
「だろ? たぶん他のクラブでも意欲的に取り入れる所は少ないと思う。でも今の白石さんは、まるで普段から使い慣れているかのようにフォアスライスを打っている。とても珍しいプレースタイルだ」
試合中の茂部の表情にわずかな影が差した。これまで腰の高さで処理できていたボールが、今は膝元まで沈み、伸びて差し込んでくる。
返球はネットを越えず、「……くっ」と小さな声が漏れた。
第6ゲームは長いラリーが続き、40-40《デュース》にもつれ込む。
今大会はノーアドバンテージが採用されていて次のポイントを取った方が、ゲームを獲得する。
最後のポイント――茂部は力のあるスピンショットを白石がフォアスライスで返球する。ベースライン付近でバウンド。ボールはまたもや低く、茂部が懸命にボールを持ち上げ返球するが――
ボールを厚く当てすぎかそれとも力みすぎか…今度はネットは越えたもののボールはベースラインの後ろに着地。
「……アウトです」
白石が静かに告げ、ボールを拾いに歩いた。
これでスコアは1-5。
大差は変わらないが、白石はサービスゲームをキープ。
その横顔には、ほんのわずかな安堵の色が浮かんでいた。
一ノ瀬は胸に疑問を抱えながら、その背中を見つめ続ける。
(普通なら返すだけで終わるスライスを、ここまで球質を高めて攻撃に変えるなんて……一体どうやって? ――白石さんの通っているクラブ、SGTHは一体どんな場所なんだろう。気になるな)
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