第49話 私と貴女㊾

時折、視線が合ったりしてドキドキしました。

そうしているうちに、あっという間に自宅に着きました。

玄関の鍵を開けて中に入ります。

靴を脱いでリビングに向かいます。

そこで、飲み物を用意します。

彼女が好きな紅茶と私の好きなコーヒーです。

二人分淹れてテーブルに置きます。

それから、ソファーに座って一息つきます。

一仕事終えた達成感を感じながら紅茶を飲んでいると、彼女が隣に座ってきました。

その行動に驚きつつも平静を装います。

でも、内心はドキドキしていました。

彼女が何を考えているのか分からなかったからです。

ただ、こうして近くにいると落ち着きます。

それからしばらくの間、無言の時間が続きました。

何か話題を振ろうかと思いましたが、上手く言葉が出てきません。

結局、沈黙のまま時間が過ぎていきました。

やがて、彼女が口を開きました。

「ねぇ、瑠璃」

そう言って、彼女はこちらを見つめてきました。

その瞳はとても真剣で、真っ直ぐで、まるで射抜かれるかのような錯覚に陥りました。

心臓が激しく鼓動します。

ドキドキしてどうにかなりそうです。

一体、何を言われるのでしょうか? 

不安と期待が入り混じった複雑な心境になります。

そんな中、彼女はゆっくりと言葉を紡ぎました。

「好き、大好き、愛してる!」

そう言うと、彼女は勢いよく抱きついてきました。

突然の出来事に戸惑うものの、すぐに冷静さを取り戻します。

そして、そっと背中に腕を回して抱きしめ返しました。

そうすると、更に強く抱きしめ返してきました。

その温もりを感じていると心が満たされていきます。

幸せです。

ずっとこうしていたいです。

そんな想いを込めて、強く抱きしめます。

彼女も同じ気持ちなのか、さらに力を込めてきました。

お互いの体温を感じながら過ごす幸せな時間。

いつまでもこの瞬間が続けばいいのにと願ってしまいます。

けれど、それは叶わない夢なので諦めることにしました。

名残惜しい気持ちを抑えつつ、身体を離します。

そうすると、彼女は寂しそうな表情を浮かべました。

その顔を見て胸が締め付けられるような感覚に陥りました。

何か言わなければいけないと思った矢先、彼女が口を開きました。

「ごめんなさい、迷惑だったよね?」

その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ね上がりました。

彼女は誤解しているようです。

このままではいけないと思い、すぐに否定しました。

「違うよ! 全然迷惑なんかじゃない!」

必死になって弁明します。

すると、彼女はホッとした様子を見せました。

その姿を見て、私も安堵しました。

良かったです。

本当によかった。

もし、嫌われていたらどうしようと思っていましたが、杞憂に終わったようです。

それにしても、彼女は可愛らしいです。

そんなことを考えていると、不意に彼女が顔を近づけてきました。

そして、唇を重ねてきました。

予期せぬ出来事に頭が真っ白になりました。

一瞬、何が起きたのか理解できませんでしたが、すぐに状況を把握しました。

どうやら、彼女にキスをされたようです。

その事実を認識した途端、顔が熱くなりました。

恥ずかしさのあまり俯いてしまいました。

心臓の鼓動が激しくなります。

呼吸が荒くなります。

頭がクラクラします。

まるで、熱に浮かされたかのような錯覚に陥ります。

そんな状態のまま、どれくらいの時間が経過したでしょうか? 

不意に彼女が口を開きました。

「ふふっ、可愛い♪」

その言葉にハッとして顔を上げると、そこには満面の笑みを浮かべた彼女の姿がありました。

その笑顔があまりにも眩しくて直視できません。

思わず目を逸らしてしまいました。

すると、彼女はクスクスと笑い出しました。

恥ずかしくて死にそうです。

穴があったら入りたい気分です。

そんな私を見て、彼女は楽しそうに笑っています。

その様子を見ていると、なんだか怒る気も失せてしまいました。

代わりに、笑みがこぼれてしまいます。

そうしているうちに、いつの間にか笑い合っていました。

しばらくして、落ち着きを取り戻したところで彼女に向き直ります。

そして、優しく語りかけます。

「ねぇ、杏奈。私のこと好き?」

そう訊ねると、彼女は少し驚いたような反応を見せました。

それから、ゆっくりと頷きました。

その仕草がとても可愛らしく見えました。

もっと見ていたいという衝動に駆られますが、ぐっと堪えます。

今は我慢する時です。

そう自分に言い聞かせます。

それでも、つい手が伸びてしまいます。

それを察知したのか、彼女は首を横に振りました。

そして、諭すように語りかけてきます。

「今は、ダメ」

その言葉を聞いた瞬間、全身に雷が走ったような感覚に襲われました。

それほど衝撃的だったのです。

まさか、彼女から拒否されるとは思ってもいませんでした。

ショックで呆然としてしまいます。

そんな私を見て、彼女は申し訳なさそうな顔をしました。

その表情を見て胸が苦しくなります。

どうして、そんな顔をするんですか? 

私はただ、貴女を求めていただけなのに……。

理不尽だと思いました。

でも、彼女を責めるわけにはいきません。

悪いのは自分なのですから。

自己嫌悪に陥ってしまいます。

そんなことを考えていると、不意に彼女が口を開きました。

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