第26話裏切りと終末
それは雲一つない快晴の日だった。
天野川学園にはとある噂が伝播していた。
突如として生徒間に流通した謎の音声データ。それはとある男の言動の一部始終を録音したものだった。
『飽きたら捨てるだけだし。女なんてこの世に星の数ほどいるからな』
『めんどくさい女は嫌いなんだよ。体だけ貸してくれりゃあそれでいい』
倫理観に反するような音声データの数々。誰のモノとは名指しされていなかったが、音声データと共に流れた飲酒や喫煙の決定的証拠となる写真に写った金髪の男を見て、生徒たちは犯人が誰なのか察した。
そして当の本人である上椿は校舎裏にたむろしていた悪友の胸ぐらを掴んでいた。
「おい!どういうことだよコレ!」
「何々どうしたの?……あらら、こんなものが出回っちゃったんだ」
「なにしらばっくれてんだよ。こんなことできるのは限られてんだよ……お前がやったんだろ!」
激しく胸ぐらを揺さぶる上椿。しかし悪友はおどけた様子で煽って見せた。
それが上椿の気を逆撫でしたのか、額には青筋が浮かんでいる。そう、上椿は嵌められたのだ。
「あぁ~あ、だからあれほど大人しくした方がいいって言ってたのに……」
「テメェ……!!」
「あ~ちょいちょい、余罪増やすつもり?これ以上やると学園での立場が悪くなると思うけど?……まぁ、もう気にする必要ないか」
拳を振り上げた上椿を前にしても、悪友は動揺しない。それどころか、さらに上椿の心を抉っていく。
「これだけの事しちゃったんだから、もう良太郎はこの学園にはいられないだろうねぇ……どうやら、悪は制裁されるべきらしくてね。お前も随分と遊んだだろう?今日がその日だったみたいだ」
「っ、秘密だって話だっただろ!」
「ん?そんな昔の話、忘れちゃったよ。……今週は波乱の週だね。星海ちゃんが警察のお世話になったり、退学者が出たり」
悪友はニタニタと嫌味たっぷりな笑みを浮かべる。もはや自業自得としか言いようのないこの状況は、さらに悪化していく。
「星海ちゃん、クラスで孤立してるんだってね。良太郎と関わってたことが知られたら、さらに敬遠されるだろうねぇ……」
「何が言いてぇんだよ……」
「不安定な状態の女の子は誰かに頼りたくなるんだよ。誰かに支えてもらわないと、生きていけない生き物なんだ。星海ちゃん結構顔はいいし、僕が貰っちゃおうかなって」
「ふざけんなよ!俺の話とその話がどう関係してんだよ!」
「邪魔なんだよ、君は」
悪友の顔から笑顔が消えた。ひどく冷たい声色は、上椿を突き放すように淡々と突き刺さる。
「色々と好き放題しちゃってさ。こっちだって隠すので精一杯なわけよ。自分だけ良ければなんでもいいんだろ、君は。俺達のことは下っ端ぐらいにしか思ってないわけだ」
「それの何が悪い!使われるお前らが悪いんだろ!」
「あーあー、横暴だなぁ……今更吠えたって、どうにもならないよ。君の音声データも写真も、もう一生消えない傷となって残る。名門校である天野川学園で問題行動を起こして退学になるんだ。そんな君を拾ってくれる会社も、何社あるんだか……」
次第に上椿の勢いが失せていく。淡々と告げられるこれからの展開を想像して、上椿は青ざめた。
これまで一念発起で入学した天野川学園で上椿は調子に乗り過ぎた。それはもう誰が見ても目に余るぐらいに。その結果がこれだ。
自己中な行動と傲慢さが、上椿の足元を緩めたのだ。
「確か君の家はあまり裕福ではなかったみたいだね?家族にも迷惑をかけるのに、痛手だ……なにか仕事紹介しようか?君ならホストとか天職じゃない?」
「っ……ざけんなよ!」
「それしか言えないの?……まぁいいや。あとは然るべき制裁を受けてくれ。もう僕にも君にもどうすることもできない。じゃ」
悪友はにこやかな表情で去っていく。残されたのは、冷たい事実の連なりだった。
上椿は受け止めきれない現状を抱えたまま、立ち尽くすことしかできない。
自己中な振舞いは、いつか自分に返ってくる。上椿は痛感した。
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